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為替相場、最初の1か月を終えて~言うほど進まないドル安~

円の自律反発は概ね完了している?
2023年最初の1か月が終わりました。過去にも論じた点ですが、筆者は「2022年の揺り戻しで2023年は円高の年」という単純な見方に賛同していません。確かに2022年はプラザ合意以降では「史上最大の円安の年」でしたが、同年11~12月でその半分が戻されています。2023年に実現した値幅は38.47円(151.94円-113.47円)で歴史的な大きさだとしても、11~12月中に131円まで戻しています。113~131円ならば18円程度であり、それほど珍しい値幅ではありません。変動為替相場制で取引される以上、「売られ過ぎたから買い戻されるはず」という自律反発を期待するのは正しいですが、自律反発を期待するならば、それは概ね完了しているという疑いはあります
 
言うほど強くないドル
また、円相場に限らず、為替市場全体を見渡すと「2023年はドル安の年」という予想が多いようです:

FRBの姿勢転換(Pivot)が予想される中、米金利低下に伴うドル安を期待する胸中はよく分かります。しかし、2月FOMCで利上げ幅を+50bpから+25bpに減速させるまでは既定路線だとしても、「+25pがいつまで続くか」については全く予断を許さない状態にあります。米金利低下とドル安を当然視する立場自体は盤石とは言えないでしょう。これは主要通貨の対ドル変化率の状況を見ても感じるところです。この点、2022年通年と2023年初来を積み上げてみると、確かに巷説で指摘されるように、ドルは殆どの通貨に対して2023年初来で負けています。

しかし同時に、2022年の激烈なドル高を巻き返すほどの勢いは感じられず、「ドル安の年」と断言することにも躊躇は覚えます。現状、最強通貨は中国の需要復活と国内のインフレ高進という国内外の条件で金利上昇が見込まれる豪ドルで、1月27日時点で+4.4%、対ドルで上昇しています:

特に「自由に取引できる人民元」という側面も併せ持つ豪ドルにとって前者の要因は無視できません。片や、歴史的急落からの復活が期待される円は+1.5%にとどまっており、2022年の▲14.6%から見れば物足りなさは残ります。上でも論じたように、昨年11月を境に円を評価する目は変える必要があります。具体的に数字で見ると、1~10月は▲22.5%と暴落しているのに対し、11~12月は+13.1%と急騰しています。しつこく述べている点ですが、筆者はこうした円高は日米金利差縮小を当て込んだもので、貿易赤字などに起因する需給部分の円安要因はある程度残ると考える立場です。FF金利先物が年央の利下げを織り込む状況でも130円台を維持しているあたり、その考え方は今のところさほど外れていないように思います。為替動向が金利だけで全て決まるわけではないでしょう。
 
「安い日本」は12月の超円高を経ても不変
 なお、本稿執筆時点では2022年12月時点の実質実効為替相場(REER)も国際決済銀行(BIS)から公表されています。俗に「半世紀ぶりの円安」と言われる円のREERは10月から12月の2か月間で72.12から75.47へ+4.6%と急騰しています。しかし、急騰後の75.47でも1971~1972年と同水準であり変動為替相場制移行以前の水準に近いものです。いくら名目ベースで円高が進んでも、内外物価格差が極めて大きい状況が残ってしまえば、それがREERの大勢に直結します。近年の日本経済が背負う「安い日本」という問題は名目ではなく実質の世界の話です。図を一瞥すれば分かるように、12月中に130円台まで円高・ドル安が進んだにも変わらず、REERの示唆する「安い日本」の立ち位置は殆ど変わっていないのが実情です:

こうしたことから分かることは埋めるべきは内外物価格差であり、それは名目賃金格差と大いに密接することは言うまでもないでしょう。

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