盛り上がりを見せる気候変動をテーマにしたメディアの取り組み
今月末に英国・グラスゴーで開催される第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)を控え、気候変動、脱炭素などのテーマについて、メディアでの取り上げられ方、また取り組みに変化の兆しが広がりつつあることを感じます。
あまりにも壮大で、時に滅入るような現実や真偽の判定が難しいような専門的な科学の知識を必要とする気候変動問題を理解することだけでも難しい状況で、そうした事象を報じる立場にとっては、ますます困難な状況があると思われます。とはいえ、こうした気候変動をめぐる問題の重要性が高まり、科学分野だけでなく政治、経済、金融、文化、社会と多岐に渡るジャンルでの報道の機会が広がっていることは、過去2年間近くに渡っってコロナ禍の中で科学や医療の知見があらゆる立場の人に求められた状況と重なって見えます。
今回注目したのは英オックスフォード大学ロイタージャーナリズム研究所が10月12日、ジャーナリストやニュースルームのリーダーが気候変動に関する報道方法を変革することを目的としたプロジェクト、「オックスフォード・クライメート・ジャーナリズム・ネットワーク(the Oxford Climate Journalism Network)」を立ち上げたことです。
「クライメート・ジャーナリズム・ネットワーク」は、元米国大手出版社のコンデナストのデジタル責任者、その後グローバル部門のCOOを務めていたヴォルフガング・ブラウ氏(@wblau)が中心となって立ち上げられた取り組みで、すべてのメディア組織のジャーナリストや編集者が気候変動問題をカバーする際に必要なスキルやリーダーシップを獲得してもらうためのフェローシップやオンライン・トレーニングのプログラムが用意されています。
以下のポッドキャストではジャーナリスト、メディア機関がいかに気候危機と向き合うか、その課題と今後の期待が紹介されていますがとても納得感のある指摘が数多く含まれています。
例えば以下のような課題が挙げられています。
- 業界特有の略称が多い(COP、IPCCなど)
- 科学的な専門的知識が必要とされることが多い(科学リテラシー)
- 事実を伝えることで過度に恐怖を与えてしまう、或いは、解決策を提示することで「アクティビズム」「活動家」的にならないかのバランスのとり方
- 気候変動を否定する考え、ミスインフォーメーションをどう取り扱うか
- 誹謗中傷問題(気候変動を否定する考えを持つ人からの非難のリスク)
- メトリックス(注目度が集まりにくく、あまり「バズり」にくい記事が多い
-世代間の問題意識の違い(若年層のほうがより真剣に問題意識を持っているケースが多い)
- 編集体制として現存する「科学部」を拡大するか、「気候変動」チームを新設するか、緩やかな「気候変動ハブ」として社内で緩やかなネットワークを広げるかなど、体制、リーダーシップの問題
ただ、明るい兆しもありました。「クライメート・ジャーナリズム・ネットワーク」が独自に実施した世界中のメディア編集長や気候変動を専門にするライターらへのアンケートによると、8割以上の回答者が今後1年間の間に「気候変動」をテーマにした報道体制を強化すると答えています。
気候変動分野のジャーナリズムを称えるアワードも創設(Covering Climate Now Journalism Awards)
2015年9月に「ザ・ネイション」と「コロンビア・ジャーナリズム・レビュー」の2人のジャーナリストが中心となって始めた「Covering Climate Now」というプロジェクトは、世界中の多様な気候変動問題関連の報道を可視化させよう、という取り組みですが、ちょうど今月上旬、第1回となる「Covering Climate Now Journalism Awards」の受賞者を発表し、気候変動分野の優れたストーリー・テリングに光が当てられる機会になりました。38カ国から600件近く作品が応募され、受賞作品と受賞者のメッセージが動画でもまとめられています。
国内においても気候変動、そして脱炭素に関する報道は増えつつあるとは感じるものの、海外での取り組みに比べるとまだ少ないのでは、という気がします。試しに過去1年間の間に「気候変動」をタイトルに含む記事の拡散のされ方、掲載媒体、最もSNS上で拡散された記事をBuzzSumoという分析ツールで見てみました。
▶「気候変動」を含むSNS上で拡散された過去1年間の記事のボリューム〜徐々に増えている様子が伺えます。
▶「気候変動」を含むSNS上で拡散された過去1年間の記事が掲載されている媒体〜4分の1近くが日本経済新聞で報じられていて、その後Yahoo!、YouTube、NHKなどが続いていることが伺えます。
▶「気候変動」を含む過去1年間でSNS上で拡散された上位記事
今月上旬に公開された、「YouTubeが今後気候変動を否定するコンテンツへの広告配信や収益化を停止する」という記事がツイッター上で6,000回以上RT/いいねされ、過去1年間を通じて「気候変動」に関して最もSNS上で拡散されていることが伺えます。
気候変動を否定するサイトの存在への注目から拡散されたのかもしれませんが、ツイッター上の投稿コメントを見ると、「ワクチンに続くグーグルによる検閲だ」という批判的な考え方も多く存在することが分かります。
一方で、気候変動問題とも密接な関係がある以下のような記事は、なかなか身近に感じることが難しいためか、おそらくはあまり拡散はされないのではないかと思われます。
ジャーナリストとしての経験や訓練を受けていない自分が気候変動をテーマにこうしてCOMEMO / noteに書こうと思っただけでも、アクティビスト(活動家)になったかのような気になり、また、気候変動を否定するサイトのことを取り上げただけでツイッターで攻撃されるのでは、と感じてしまう自分がいます。また科学的に間違ったことを書いてないだろうか、ということも少し気になります。コロナ禍を経てメディアに従事するジャーナリストや編集者の方々が感じられているプレッシャーや葛藤は桁違いに大きいことと思われますが、世界的な「気候変動」報道の盛り上がりと連動する形で、国内でも更なる盛り上がりの機運が高まることを願ってます。
Photo by Priscilla Du Preez on Unsplash
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