見出し画像

円ロングは続くのか?~そのリスク~

3年5か月ぶりのネット円ロング

為替市場ではやや円高地合いになってきました。主として米実体経済の弱体化がいよいよ可視化され、利下げもようやくダンディールとなってきたことでドルを手放しやすい空気は明らかに強まってきた感を覚えます:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN20D1J0Q4A820C2000000/

こうした中、投機筋の動向を推し量る上で参考にされるIMM通貨先物取引の状況に目をやると、円のネットポジションが8月16日時点で3年5か月ぶりにロングに転じたことが目を引きます。8月初頭に141円台まで急落したドル/円相場はその後持ち直し、8月16日前後は147~149円付近にありました。

もちろん、IMMポジションの動きが投機筋の動きを完全に捕捉するわけでは全くありませんが、「投機的なポジションがネットロングに転じた割に円高は進んでいなかった」という印象は抱かれます:

巻き戻しが始まってから降って湧いたように注目されるようになった円キャリー取引の残高は、幅を持って見る必要があるものの、一応の巻き戻しが完了したということになりましょうか。円キャリー取引については下記の投稿が詳しいです:

その上で現状はグロスで見た場合の円ロングポジションが74.15億ドルと約3年半ぶりの規模に積み上がっている。円ロング(・ドルショート)というコストのかかるポジションが今後どこまで積み上げられ、維持可能なのか。金利および需給のファンダメンタルズに照らせば、その持続力は決して強くは無いように思えます

円ショート巻き戻し≠円ロング構築
まず、金利に関して言えば、目下、米雇用統計の大幅下方修正が争点化されており、FOMCに関し、9月の大幅利下げ並びに年内の利下げ織り込みが拡大し始めています:

こうした中、日米金利差縮小を当て込んで円ショートが巻き戻されること自体に違和感はありません。しかし、「円ショートが巻き戻されること」と「円ロングが新たに構築されること」は根本的に同じではないでしょう

前者は敵失、端的には米金利低下によって促される部分が大きそうですが、後者は積極的な円買い材料が必要になります。この点、金利面に限って言えば、足許では日銀の追加利上げの可能性がほぼ断たれており、積極的な円買い材料があるとは言えない状況です。

また、需給面に照らせば、象徴的には日本の貿易収支が年初7か月間で約▲3.9兆円(通年ペースで▲7.8兆円)という赤字状況にあります。仮にこのペースが本当に年末まで続いた場合、年間の赤字額としては過去5位以内に入るほど大きなものになります(ただ、昨年初頭が大きかったのでそれはないかとは察します)。

いずれにせよ「売られ過ぎ」という理由で円ショートの巻き戻しが先行し円高が進むことは理解できても、新たに円ロング構築がトレンドになっていくには説得的な材料に欠けるように感じます。
 
投機的な円ロングが積み上げられるリスクは
こうした状況を覆し、投機的にも円ロングが積み上げられ続ける局面が到来するとしたらどのような展開が考えられるでしょうか。

強いて言えば、①日銀の利上げ路線継続、②通貨・金融政策にタカ派的な新政権の誕生、③貿易収支赤字の旧縮小などが挙げられるでしょうか。③は俄かに期待できるような話ではありませんが、今後、原油価格が大幅に切り下がるような展開になれば、そのストーリーが争点化し、需給面からの円買い戻しを誘う可能性はあるでしょう。

現実的に警戒されるのはやはり①、そしてこれに付随する②の論点です。①に関して言えば、最新の公表文に従って政策運営を執行する場合、10月時点で展望レポート通りの経済・金融情勢が実現していれば、追加利上げは想定するのが筋ということになってきます。

もちろん、内田副総裁が述べるように、金融市場が不安定化している時にはその限りではないが、裏を返せば、その時点で内外金融市場のボラティリティが抑制されていれば、利上げを止める理由はありません:

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB071TF0X00C24A8000000/

これ自体は立派な円ロング構築の理由になり得るでしょう。しかし、そのような状況に至るためには②も同時に実現される必要があります。日銀が利上げ路線に復帰するためには経済・金融情勢だけではなく、政治情勢も極めて決定的な要因になると多くの市場参加者は考えているはずです。

コンセンサスに反した7月会合の利上げが政治的催促に応じたものだという確証があるわけではありません。が、会合直前に散見されていた政府・与党高官からの発言を踏まえる限り、その可能性は高いと推定せざるを得ない状況証拠もあります:


だとすれば、9月12日に告示され同27日に投開票を迎える総裁選の行方が②はもちろん、①も左右することになってきます

日本の経済・金融情勢を必ずしもよく分かっていない投機筋、とりわけ海外の市場参加者などにおいては、通貨・金融政策にタカ派的な新政権の誕生というのは非常に使い勝手の良い材料になるでしょう。折りしも日銀の政策運営が政治的思惑に依存しやすいという雰囲気が醸成されている現状だけに、尚の事、今回の総裁選は円相場の波乱材料になる可能性を秘めていると思います。8月初頭の市場混乱が記憶に新しい中、基本的に各総裁候補は「踏み込んだ言及を避ける」という安全第一の対応を心がけると思いますが、強いて円高リスクを考えるとすれば、「日本の政治」が久しぶりに内外金融市場で強く考慮すべき論点に格上げされてきているように感じます



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?