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メイ首相は可哀想なのか?

英国のEU離脱方針が決定して以降、3年にあたって交渉の陣頭指揮をとってきたメイ英首相がいよいよ退陣します。6月7日と報じられています。
あの手この手を使い、EUと握ってきた離脱協定案を英議会に飲ませようとしたものの、結局は奏功しませんでした。最後はと絶対にやらないと言っていた「再国民投票」に加え、自身の「首」まで差し出しましたが、野党は一切これに応じませんでした。厳しい言い方になりますが、既にレームダック化したリーダーの「首」など値打ちが無いと思われたのでしょう。このあたりの近況を下記コラムにまとめさせて頂きました:

メイ首相、「首」と「再投票」でも議会の壁は厚い
~「最後の最後」までうまくいかないリーダー~
https://toyokeizai.net/articles/-/283043

日本では「よくやった」、「かわいそう」、「議会はひどい」などメイ首相に同情的な論調が多いように見えますが、それはどうでしょうか。メイ首相は思いのありそうな首相であり、最後に獅子奮迅のご苦労をされていたのは間違いないでしょう。しかし、そもそも2017年6月に総選挙というサプライズ勝負に出なければ、議会の分裂はここまで酷いものにはなりませんでした。ここで大敗を喫したことが政治基盤を崩し、その後の交渉を苦しいものにする遠因となったのです。

また、メイ首相の交渉姿勢が一貫しなかったことも事実です。メイ首相は当初、ハードブレグジットを宣言しました。2017年1月に行った方針演説において、EUの単一市場や関税同盟から完全に離脱し、EUとの間に大胆で野心的な自由貿易協定(FTA)を締結する意向を打ち出していたはずです。ですが、遅々として進まぬ交渉過程を経て、2018年7月、メイ首相はEU法との調和などを前提においたソフトブレグジット方針に転換し、ここで主要閣僚であったデイビッド・デイビスEU離脱相やボリス・ジョンソン外相が相次いで抗議辞任したのです。戦局を正確に判断できず、場当たり的な判断に追い込まれたリーダーだったからこそ仲間を失ったという側面はあります。

こうしたゴタゴタの間、野党勢に付け入る隙を与え、今や解散総選挙を実施すれば野党・労働党はおろかEU離脱運動を主導したナイジェル・ファラージ氏率いるブレグジット党にも勝てない状況に追い込まれています。離脱交渉のリーダー責任者を買って出ながら、離脱は実現できず、しかも保守党を窮地に追い込んだ政治家として英国の政治史に汚名が刻まれるのではないでしょうか。繰り返しになりますが、現状に同情できる困難さは確かにあります。しかし、「政治は結果が全て」であるとすれば、メイ首相はどう考えてもいいリーダーではありませんでした。そもそも残留を主張し、次に強硬離脱を宣言、戦況が悪くなったからソフト離脱に移行し、行き詰って途中辞任、、、起きた事実はこれだけです。ヘッドラインに踊らずに、これまでの経緯をしっかり評価した上で総括しなければ去り行くメイ首相にも失礼な話だとすら思います。結果だけを見て、これまでの戦術の不味さを語ってはならないと思います。


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