アニメは商品から文化に:ドイツの公共放送の「挑戦」
ドイツの公共放送ZDFはこの3月にアニメや漫画に関するクイズを主体とした番組「Tanoshii」(楽しい)を放送開始しました。傘下の子供向けチャンネルKIKAで放送されるとのことで、子供向けの番組かなと思ったのですが、実際は若者から大人まで楽しめる内容でした。
「海外でアニメが大人気!」
と日本で報道されると、海外の日本イベントに取材したコスプレイヤーのインタビューなどを見かけることが多いのではないでしょうか。各国のアニメやマンガの受容史が研究の対象となったりすることもありますが、総じて、まだまだ「よく分からない界隈」なのではないでしょうか。日本では先日、世界にアニメを配信するクランチロールが年間アワードの発表式を日本で行い注目されました。海外ファンの存在がじわりじわりと知られつつあるように思います。
ドイツの「Tanoshii」とはどんな番組なのか?
サブタイトルに「アニメ/マンガ・バース」とあるように、アニメやマンガの世界をテーマにした20分弱程度の番組です。3月31日現在、第3話まで放送されており、番組はオンラインでも配信されています。(ただし、地域制限がありドイツ国外からは視聴できないようです)
基本的に、クイズバトルを主体としており、2組の一般人のペアが参加し、ペア内で協力しつつ、相手のペアと正解数を競うものです。出題される作品は、「ワンピース」「ポケモン」「遊戯王」の超定番に、「スパイファミリー」や「呪術廻戦」、「僕のヒーローアカデミア」、「鬼滅の刃」といった近年の大ヒットなどです。2回目の放送回では、選択肢から「俺だけレベルアップな件」を選ばせるなど、旬な作品も扱う方針のようです。
クイズ形式も選択式や早押しなど、飽きない工夫が施されています。特に、キャラの似顔絵当ての早押しでは、ドイツのマンガ家が日本のキャラを描いていたり、イントロクイズもドイツの音楽アーティストが演奏するなど、ドイツのファンコミュニティもうまく取り込んでいる印象です。
これだけでもすでに「楽しい」のですが、クイズ間の情報コーナーも良いのです。日本のファンスポットとしてポケモンセンターを取り上げたり、ジブリ作品を深掘りするコーナーがあったり、アニメに頻繁に登場する狐キャラの説明を日本古来の「狐」イメージを手がかりにしてみたりと、もはや、アニメ・マンガ系の総合エンタメ番組となっています。
「日本のアート・ファンに向けたマルチプラットフォーム」
ドイツの公共放送ZDFの子供向け番組KIKAの公式サイトでは3月18日付けでプレスリリース(ドイツ語)が発表されており、番組趣旨が詳しく紹介されています。
発表によると、番組は「12歳以上の日本のアート・ファンに向けたマルチプラットフォーム」と表現されています。制作に際しては、ドイツのファン界隈で有名なクリエーターが協力し、中でも番組の司会を務めるニノ・ケールさんは、アニメ・マンガ情報を伝えるドイツで最も有名なインフルエンサーのひとりで、アニメイベントでもステージ司会を担当することがあり界隈の有名人でもあります。ここからも、ZDFにおける番組制作の本気度がうかがえるのではないでしょうか。
そもそもクイズは定番
余談ですが、アニメ系のクイズはドイツではイベントの定番プログラムでもあります。手元の資料から、プログラム冊子で見つけた例を2つ挙げておきます。
考察「アニメは商品から文化に」
クランチロールなどアニメのオンライン配信が普及した結果、アニメはもはや個人で視聴/消費する「商品」ではなく、「アニメをネタに他の視聴者/ファンとコミュニケーションを楽しむ」レベルにまで広まっているようです。これはもはや「文化」と呼んで差し支えないのかもしれません。
日本国内では当たり前の存在かもしれませんし、海外でもイベントなどに見られるように巨大なファンコミュニティの存在も珍しいものではもはやありません。
しかし、今回の「Tanoshii」を見て、ドイツでは公共放送が番組を制作するにまで、広く「市民権」を得たのではないかと衝撃を受けたわけです。そして、それは、アニメ文化がさらに1段上の高みに達したのではないかとも考えるわけです。あくまでドイツの事例ですが、他の国々でもそういう傾向があるのか気になるところです。皆さんはどう思いますか?
参考リンク:「Tanoshii」のYoutube公式チャンネル
タイトル画像:「TANOSHII」のHP