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企業内スタートアップの罠とジレンマ① 〜企業か起業か、それが問題だ〜

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こんにちは。uni'queの若宮です。

僕は今、起業してスタートアップを経営していますが、それまで企業の中で10年以上、新規事業の立ち上げをしてきました。

・グループ全体では2万人規模の従業員がいるドコモ
・2千人クラスのDeNA
・タレント社員として働いている複業先のランサーズは2百人くらい
・そしていままだ10人未満の自社

と、規模が一桁ずつちがうところで新規事業を立ち上げたり潰したりということをしてきて、会社の規模や環境のちがいでどういう風にハマったり失敗し、新規担当者が苦労するか、というのをまさに自分の身で体験してきました。

新規事業経験者の中でも結構バライエティーに富んだ経験をしているからか(お恥ずかしい話、立ち上げ経験よりも失敗経験が多いのですが「しくじり先生」的な説得力があるのか)、よく企業さんに講演や研修、アドバイザリーをお願いされることがあります。

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先日も、資生堂さんで企業内新規事業についての講演をさせていただいたのですが、facebookでその件をポストしたところ「資料をみたい!」「話をききたい!」というお声を多数いただいたので何回かにわけてCOMEMOで連載してしてみることにしました。

はじめに: これは教科書ではない

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「プレゼンの資料をみたい!」という声を多数いただいたので、たとえばslideshareとかで当日の資料を公開することもできたのですが、できればそれはしたくありませんでした。

というのも、新規事業についてのお話とかアドバイスというのは一般論ではできず、それを教科書的に捉えられてしまうと、むしろ危険なことが多いからです。

これまで何度か新規事業のセミナー登壇をさせていただいたこともあるのですが、「新規事業」と一口にいっても、

・新規事業の立ち上げはトップダウンで与えられたミッションか?それともボトムアップで立ち上げたいのか?
・お題はどの大きさで決まっているか?(ヘルスケア、など領域が決まっている、売上目標だけ決まっている、特に制約はない、etc...)
・企画段階か、運営の仕方に悩んでいるのか、そもそも新規事業を始めるべきかを迷っているのか?

など、関心や課題は千差万別です。

こういう多様な関心のオーディエンスになにか一つでみんなの役に立つお話をする、というのがそもそも無理ゲーやん、といつも思いますし、それぞれの持つ課題によって答えは違います。

そしてこれは「新規事業」だからこそ、なおさら難しいのです。

というのは、新規事業というのは人間でいうと、まだ年齢が小さいからです。40代の一年と生まれたての赤ちゃんの一年は違います。38歳と43歳はほとんど同じ話ができるかもしれませんが、0歳と5歳ではまったく話が合わないでしょう。

以降の回で書こうとおもっていますが、こういう時間軸(フェーズ)を意識する、というのも新規事業にはとても大事なのです。

よく「事業は生き物」と言ったり、事業を人の一生に例えることが多いのですが、少なくない経営者や新規事業担当者がそのことを忘れて、まったくフェーズのちがうノウハウを「教科書」のように捉え、当てはめがちです(成功体験によるイノベーションのジレンマ、というのがこれです)。どこでも、いつでも、アイディアとやる気さえあればおんなじ仕方で新規事業が立ち上がると信じてしまうのです。

ですが、これは完全な妄想です。事業は生きています。時間とともに「正解」は変わっていきます。たとえば「お酒」は大人には色々と役に立つし、適量なら百薬の長かもしれないけれど、赤ちゃんに飲ませてはいけませんよね。あるフェーズで「薬」になることが、別のフェーズにとっては「毒」になってしまうのです。

このような難しさがあるので、実はフェーズや規模・領域ごとに具体のノウハウは色々とあるのですが、この連載ではある程度概論的な話までしか書きません。そして具体例を書くときはそのあたり誤解がないように極力書いていきますが、そのまま鵜呑みにしてしまうとちょっと危険です。みなさんの事業の状態によって正解は違いますのでご注意くださいませ。(お悩みの企業は個別にご相談いただければ状況に合わせて詳しくお話しさせていただきます)

企業内新規事業と起業は全く違う

前置きが長くなってしまいましたが、こっから本論に入っていきます。

まず最初に確認しておきたいこと、それは「企業内新規事業と起業は全く違う」ということです。

この連載のタイトルをあえて「企業内スタートアップ」としたのもその誤解を俎上に上げたいためなのですが、驚くほど多くの企業が、この違いすらあまり理解できていません。

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上記のように、両者にはたくさん違いがありますが、一番大きな違いは、「株をもっていない」ことです。

企業の中で新規事業を起こすとき、事業部長であったり、事業オーナーやプロジェクトマネージャーという役職であっても、実は事業の株は1株ももっていません。

これはどういうことか?

”事業の生殺与奪”を他人に握られている、ということです。

起業家の場合、事業戦略上非常に重要な項目に「資本政策」というのがあります。起業家は事業を続けるため、出資でお金を調達しようとするときには株を投資家に渡し、それと引き換えに資金を得ます。つまり、出資を繰り返すごとに自分が持っている株を放出していくわけです。

そして株を放出するにつれ、創業者のコントロール権は小さくなっていきます。資金が欲しいからといって、考えなしに株を放出していくと会社が思ったようにコントロールできなくなるから危険だよ、よく考えようね、というのが「資本政策」なわけです。

ところが、企業内新規事業のオーナーはなんとこの株を最初から一株も持っていません。コントロール権が0パーセントです。起業家にたとえると「よしこれから自分の会社をはじめるぞ!」といって会社を起こした瞬間に、他人に全株式を譲ってしまったところからスタートするようなものです。

資本政策大失敗です。そして起業家として考えると、これはほとんど無理ゲーじゃん、と思います。

企業内事業は、いくら事業オーナーといっても本来的には”自分の”事業ではない。これをしっかり理解しておくことが大事なのです。

新規事業は誰のため?

前節で書いた通り、企業内新規事業の”本当のオーナー”は自分でも、チームメンバーでもありません。

株もなく、大手企業だからこそ潤沢に活用できるはずの設備や人材、販売チャネルも、実はすべて「他人のもの」です。

新規事業の始まり方は、大きくいうと、

・トップダウン(経営層からの号令で事業立ち上げのお題が与えられる)
・ボトムアップ(社員がこういうことやりたい!と立ち上げる)

の2パターンがあります。

このうち、特にボトムアップのパターンにおいて、”誰のために”事業をするのか、という点がかみ合っていないケースが実に多い。

かくいう私もたくさんそういう失敗をしてきたのですが、新規事業は「自分がやりたいこと」だけではなく企業にとってプラスでなければ事業存続できません。起業家であれば「こんな風に社会を変えたい!」という想いがあり、たとえ事業が赤字でもそのビジョンでお金を調達することさえできれば事業が存続できます。ですが、企業内新規事業では、たとえ事業が伸びていようと、熱狂的なファンがつこうと、”会社にとって意味がない事業”であれば握りつぶされてしまうのです。

ここがすれ違っていると先々、こういうことが起こります。

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そして結果として、事業を潰してしまい、期待をかけて新規事業にアサインしたエース級社員が辞めていくのです。

大事なのは事業ミッションの定義

では、どうしたらいいのでしょうか?

僕が新規事業の相談を受けた際、確認することが3つあります。

・【事業のミッション】その企業はなぜ新規事業をするのか?
・【事業のコアバリュー】その企業/チーム「ならでは」のユニークな事業のバリューとは何か?
・【事業のフェーズ】その事業はいま何歳で、時期的に何に気をつけるべきか?

まずはこの一点目、事業ミッションのすり合わせがしっかりできていること、が重要だと思っています。

「事業のミッション?そんなもの売上にきまっとるやないか」

そう思うかもしれません。

ですが、本当にそうでしょうか?

企業が新規事業をするのには、実はたくさんの目的があります。

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こういったたくさんの目的が、ないまぜになったまま、おざなりに、”なんとなく”共通認識とされているのです。

ですがそれぞれの目的は両立できるものばかりではなく、実は背反するものであったりします。

一番似た指標だと考えられ、比例すると思われがちな「売上」と「利益」、それらすら実はゴールが違います。

売上さえ立てば利益率の低い仕入れ小売でもよいという企業もあるでしょうし、逆に利益の方が大事というところもあるでしょう。利益率を重視するIT起業では5%の利益率のビジネスはちょっときつい。利益率が下がる事業ならやらない方がいい、ということもある。

月に5万円でも利益が出れば事業を続けていてもいい、という企業もあるでしょうし、そんな規模なら辞めろ、と別の企業では言われるかもしれません。

一般には赤字事業はやる意味がないように思われがちですが、たとえば「チャレンジマインド」としてのPR効果が主眼であれば、いかに先進的なことに取り組んでいるか、ということこそが大事で、売上や利益は二の次かもしれません(先進的すぎる技術はビジネス的にはプラスにならないケースが多い)。

M&Aするか、自前でたちあげるか、というのも、経営層育成がミッションとされるかどうかで違います。

以上のように、実は「新規事業のミッション」は多くの違った視点が"ないまぜ"なまま、明確にされないままに進んでいることが多いのです。そしてそのままいくと、経営層も現場も1年くらい経った頃に、「おもてたんとちがうー!」となり、みんなが不幸になるのです。

その新規事業で本当に成し遂げたいことはなにか?これをまず明確にしなければいけない。

新規事業のお悩み相談にのってみると、実はこれができていず、どのゴールに向かって走ったらいいのか迷子になっているケースが半分くらいあります。

そういう場合にはワークショップのような形でこれを定義するお手伝いをするのですが、”芯を食った事業ミッション”が定義できると本当にすっきりするのです。

そして経験上、芯を食った事業ミッションというのは、見つかってみると「売上」や「利益」のようなどこの企業でも掲げているものではなく、「その企業ならでは」の目標や領域とリンクしたものになります。逆に言えばそういう「ならでは」の目標が見つかってさえいれば「これうちでやってる意味ある?」なんということにはならないはずなのです。

(こういう芯を食った事業ミッションを見出すにはちょっとしたコツがあるのですが、ちょっとマニュアル化が難しく、また内部メンバ0だけでは深掘りしづらいので、「勘」の効くファシリテーターが必要だったりします)

というわけで、大事なのは事業ミッションをしっかり確認することであり、それがその企業の芯を食ったミッションでなければならないのですが、初回から結構長文になってしまったのでこの辺で。

次回は事業ミッションが定まると事業のアイディアの考え方がどのように変わるか、少し具体例をあげて説明してみようかなと思っています。

でもあんまり反響がなかったら挫折してしまうかもしれないので、続きを読みたい方はぜひコメントやシェアなど応援をしてくれたら頑張ります。まて次号!

↓9月からKOLとして不定期で投稿しています。興味持っていただけたら他の記事も読んでいただけたら嬉しいです

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