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FRBの予防的緩和は成功したのか?~株価の「虜(とりこ)」という問題

米中通商合意をめぐり、楽観論が浮上していることなどを追い風として米国の主要株価指数が歴史的高値を断続的に更新しています。部分合意の成立を前提としたとしても、これほどリスク許容度を改善させていいものだろうかという疑問は拭えませんが、現状のムードが続けば「FRBの予防的緩和は成功」という整理で終わりそうな雰囲気が充満しています。しかし、本当にそのように考えて良いのでしょうか

削られる糊代
利下げ余地を考えてみると、FRBの「追い込まれ感」は覚えます。少なくとも前回の利下げ局面が始まる直前の2007年8月時点でFF金利は525bpsありました。ちなみにその前のITバブル崩壊を受けた利下げ局面が始まる直前の2000年12月には650bpsもありました。今回(2019年7月)は250bpsしかなく、現在は3回の利下げを経て175bpsです。「次の一手」として利上げ復帰を見込む向きは殆どおらず、「如何にして追加利下げを回避するか」という市場の思惑が強そうなことに鑑みれば、次の利下げは175bpsからスタートすることになる・・・という整理になってしまいます

先進国で最も手札があると思われているFRBも徐々に、しかし確実にその手札を奪われているという事実には目を向けておきたいところです。目先の株高に目を奪われると重要な事実を見失っています。2018~19年のFRBの政策運営は「4回利上げして3回利下げする」という金利操作に終始しました。ちょうど1年前の今頃に威勢を放っていた正常化プロセスの正当性はかなり怪しいものだったと言わざるを得なでしょう。

金融市場は目先の状況、とりわけ株価の仕上がりに左右されやすいものです。史上最高値を断続的に更新している現状のムードを根拠に「予防的緩和は奏功した」と考える向きは今後ますます多くなるでしょうし、当然、FRBもそのような見方に乗る可能性が高いです。実際のところ、保有金融資産の30%以上が株式である米国の家計部門は株価が上がれば資産効果を通じて消費・投資の改善が期待できます。日本とは違い株高が実体経済回復の一因となる経路は確かに認められるものです。「緩和→金利低下→株高→消費・投資増加→景気回復」という好循環は米経済の持つ「強み」ですが、裏を返せば、株価が下落すれば実体経済への波及を懸念しなくてはなりません。それが、今回の利上げ局面を迎えたFRBにとって非常に厄介な「弱み」となったことは読者の皆様も知るところでしょう。

株価の虜となった金融政策
振り返ってみれば「4回利上げして3回利下げする」という急旋回の根拠は株安でした。FRBの利上げとこれに付随するオーバーキル懸念が浮上し始めたのは、米10年金利が2018年2月に3.0%の大台を超え、同10月に3.2%の大台に乗せたことが契機でした。双方のタイミングでNYダウ平均株価がまとまった幅で調整する場面が増えたのです。しかし、その背後でも小売売上高や鉱工業生産、雇用・賃金周りの指標が悪化したわけではありませんでした。上述したように、株価に代表される資産価格が家計部門の挙動に大いに影響するのは確かだとしても、正常化プロセスの妥当性が株価の動揺と共に再検討されたことは一定の事実です。実体経済の足腰がしっかりしていても、株式市場が崩れ始めればそれを無視して引き締めを続けるのは難しく、「予防的緩和」という大義の下で金融緩和が行われるということが過去1年で分かったことでしょう。表現を選ばずに言えば、金融政策が株式市場の「虜(とりこ)」になるような構図が改めて強調されたように感じらます。要するに、「利下げ」の要件が景気悪化ではなく株価下落になったということです

セーフティネットが使えない未来
しかし、株価下落は景気悪化よりも迅速かつ段差を持って発生することが殆どなので、金融政策がこれに付き合っているとカード(利下げ余地)を費消するペースも自ずと早くなります。今回のような予防的緩和を繰り返していれば、最終的には「景気は悪くないが政策金利は超低水準」という「歪な状況」にぶつかることが予想されます。その場合、株式を筆頭とするリスク資産価格は過大評価になっていると考えるのが自然です。歴史はそれをバブルの生成や崩壊と呼んできたことは周知の通りです。こうした「歪な状況」が欧州や中国の実体経済がとりあえず回復軌道に復帰しそうな2020年にこうした展開を想定する必要はないのかもしれません。米国の大統領選挙の年にそのようなクラッシュは何が何でも回避するでしょう。

とはいえ、将来的に予想すべき危うい展開であることも忘れてはなりません。2020年の相場環境を明るく見積もったとしても、それ以降は今年目にした予防的緩和のようなセーフティネットが使えない未来が待ち受けているのではないでしょうか。

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