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「他国に絶対まねできない〇〇」との表現を批判的に考えてみた。

かつてローカリゼーション戦略を基軸に動いていた頃、よく評論家の加藤周一の以下の言葉を引用していました。

「富士山は美しいと思う。『日本一美しい』という人がいれば、首肯しかねるが、その気持ちは理解できる。ただ『富士山は世界一美しい』との表現は井の中の蛙だ。自然現象によってできた形状に世界一はない」

一字一句同じではないですが、このような趣旨です。最近、この「井の中の蛙」についてよく考えます。以下のような文章をみると、さて、と思います。

「日本には他国に絶対まねできないバレエ文化がある」と熊川は断言する。日本でバレエが初めて上演されて約1世紀、こうした熱い思いが日本のバレエ文化を紡いでいく。

「他国に絶対まねできないバレエ文化」があるのは、バレエに門外漢のぼくも、そうだろうと想像します。ただ、第一のポイントは、日本にバレエ文化が継続されることもさることながら、その日本のバレエ文化が(欧州のではなく)世界のバレエ文化にどう貢献するか?との視点をどう維持・発展させ、それをどう実践するか?でしょう。それは、欧州の名門バレエ団で活躍する日本の人の数の問題じゃないのですね。

というのも、どの分野でも「他国に絶対まねできない〇〇」を究極の目標においていることが多いなあと思うからです。商品開発からインバウンド促進に至るまで。

日本の文化を「雑種文化」と称し、世界各地の文化を輸入して咀嚼してきたことを文化アイデンティティのベースにおいている人が多いと思われます。中国や西洋の言葉を漢字やひらがなの言葉に置き換え、ローカライズに懸命になってきました。ある概念は驚くほどに日常世界に根付き、ある概念は100年以上経ても宙に浮いたまま・・・です。

ぼくが気になるのは実は前者です。

宙に浮いているのは、「我々の世界には無理なんだよ」とかなり可視化されます。無理を悲観的に捉えるか、諦念と捉えるか、あるいはそれによって元の文化への反発の契機と捉えるか、いくつかのカテゴリーに分かれます。

しかし、「我々自身の考えに根付いた」と思っていることが、実は袋小路に嵌っているケースが実は多いのではないか、少なくてもそれらを検証する価値があるのではないかと多々感じるのです。

イタリアのデザイン製品などのメーカーの人と話していて聞くセリフに「これだけ、細かいことに拘って気に入って買ってくれるのは日本の人に圧倒的に多い。他の国の人はここまで拘らない」があります。男性ファッションメーカーの人もそう語ります。

この真意をややいじわるに読み替えると次のようになります。「俺たちイタリア人の拘りはずば抜けているが、それを分かろうとするのは日本の人たちだけだ。ご苦労なこった」です。

ニッチ製品を好む共通点を認識しながら、それが世界の市場でどういう位置なのかを感覚的によく把握しているのですね。だから決して、この拘りで世界を征服しようなんてドン・キホーテのような思いに走らない。ある程度の「遊び」をもって構えているのです。

これがスケールアウトにさほどの情熱が入らないイタリアのビジネスパーソンの良さと悪さであり、それをまた本人たちは自覚しているのですね。「米国はスケールアウトをシステム化するのが得意で学ぶ点は多いが、何から何まで、同じする必要はまったくない」と。

しかし、同時に「世界におけるイタリアの役割は歴史のあり方を示すことだ」と言うわけです。このセリフは現在ストックホルム経済大学でイノベーションやリーダーシップを教えるロベルト・ベルガンティのものです。以前、彼と一緒に東京で日本の人たちと夕食を共にしている時、彼が「で、日本の世界における役割は何なんだ?」と聞いたのです。

困ったことに、こういうことを書くと、それではと生真面目に世界における言説を細かく調べようとする人がいるのが、これまた日本文化の特徴なわけです。そして、どこかに西洋中心主義的な精神性が潜んでいないかチェックし、そこを叩こうとするのですね。今の流行りですからね、特に。

しかし、まず、自分のなかにある「井の中の蛙性」とも言うべき癖というか性向をチェックするのが先でしょう。ディテールにフォーカスして集中心を発揮し過ぎ、外の世界の全体像が見えにくくなるのなら、やはりリスキーな姿勢なのです。

その誘い水になりやすいのが、実は「他国に絶対まねできない〇〇」との表現です。思考がそこで止まってしまうのを如何に回避するか?がもっと真正面のテーマになって欲しいです。目指すべきは、世界の〇〇文化への貢献であり、そこに日本の文化的特徴や傾向がどの程度に貢献するかを常に視野に入れておくことです。だからあえて言うなら、「他国に絶対まねできない貢献」ですね。昨今、何かにとりつかれたようにみなさんが使う「パーパス」も、こういう文脈にあるもんだと思うのです。

・・・ミラノは昨日も今日も雪で寒いです。

写真©Ken Anzai


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