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気候変動関連経済が猛烈な勢いで広がる予兆〜米インフレ抑制法がもたらすインパクト

この夏米国で成立した「インフレ抑制法(Inflation Reduction Act=IRA)」という名の気候変動対策法案により、クライメート・エコノミーが一気に爆発するだろう、と米国老舗メディア『アトランティック』誌の記事が指摘しています

記事の中では、先月末に投資銀行のクレディ・スイス社のアナリストが作成したアメリカの新しい気候変動法に関してのレポートを紹介しつつ、いかに今回の法律が大きなインパクトをもたらすかが述べられてます。

IRAは「今後10年、あるいはそれ以降、産業全体に大きな影響を与えるだろう。最終的にはアメリカ経済の方向性を形作る可能性がある」とクレディ・スイス社のレポートは指摘してます。その理由として主に3つの点が紹介されてます。

  1. IRA は議会が考えているより 2 倍の支出をするかもしれない。IRAの最も重要な条項の多くは、電気自動車やゼロ・カーボン電力に対するインセンティブ等、「上限のない」税額控除が特徴。実際、多くの人や企業が税額控除を利用するため、IRAの総支出は8000億ドル(約116兆円)以上となり、議会の予測の2倍となる可能性がある。連邦政府の支出は民間投資を促進する傾向があるため、今後10年間で経済全体の気候変動への支出はおよそ1兆7000億ドル(約246兆円)に達する可能性がある。

  2. 現在既に世界最大の石油・天然ガス生産国であるアメリカが「世界有数のエネルギー供給国になる準備が整っている」こと。IRAは、あらゆる形態のエネルギー生産においてその優位性をさらに高め、「低コストのクリーン電力と水素の生産、インフラ、地中貯蔵庫、人的資本において競争優位に立つ」ことができる。2029年までに、米国の太陽光発電と風力発電は1メガワット時あたり5ドル以下となり、世界で最も安くなる可能性があるとレポートは予測してます。

  3. IRAは共和党の票を一票も入れずに可決されたものの、例え2024年に共和党の大統領が当選したとしても、この法律を廃止となる可能性は比較的低いと結論づけてます。むしろ、共和党寄りの州は、IRAから最も多くの投資、雇用、経済的利益を得ることができるだろう、とレポートは指摘しています。大企業にとって、IRA は「リスク軽減から機会獲得へと決定的にナラティブを変えた。企業はもはや、炭素税などの将来の気候変動規制への備えがないことを心配する必要はなく、エネルギー転換(とIRA)がもたらす経済成長を逃すことを恐れるべきなのだ、とマイヤー氏は指摘しています。

今回の記事で印象的だったのは気候変動担当のスタッフライターのロビンソン・マイヤー氏がクライメート・エコノミーの今後の発展に抱く期待と興奮です。以下は彼がクレディ・スイス社のレポートに触発され彼が綴った未来予測です。

気候変動に関連する産業で働くアメリカ人の数は、今後爆発的に増加するでしょう。気候変動関連産業は、いわゆる「テック」化する。私は高校時代、オタクで夢想家だったので、TwitterやFacebook、Flickrなど、当時のスタートアップ企業には注目していました。ちょうど『ソーシャル・ネットワーク』が公開された2010年頃、業界の価値観が変わり、技術職はダサい楽天家が選ぶ職業から、多くの野心的な大学生が選ぶ一般的な職業になったことを覚えています。気候変動に取り組む企業にも、同じような変化が訪れようとしている。機会があまりにも大きく、資金があまりにも説得力があり、問題があまりにも魅力的なのだ。
最後に、気候変動に長く携わってきた者(2015年からこのテーマを担当するようになった私も含めて)は、この新しい才能の氾濫に興奮し、謙虚ささえ持つべきである。そして、脱炭素社会への道には、常に新しい人材、投資、そして善意の注入が必要なのです。もし、あなたがまだこの業界で働いていないとしても、気候変動という問題を常に気にかけているならば、今こそ参加するチャンスです。エンジニアはもちろん、プログラマー、会計士、マーケティング担当者、人事担当者、顧問弁護士など、あらゆる人のためのスペースが用意されているのです。気候変動との闘いは、今後4年間で、過去40年間よりも大きく変化する。私たちの人生の偉大な物語は始まったばかりなのです。ご乗船を歓迎します。

The Climate Economy Is About to Explode [The Atlantic 2022/10/5]

以上、とても熱量の高い記事と感じたのでご紹介してみました。気候変動、そしてClimate Tech に関しては過去に何度も「今こそネットスケープが登場した時のような黎明期だ」と予測する記事がありました。なので今回の見立てがどこまでの精度の高さを持っているのは分かりません。とはいえ、ここ数年の気候変動対策に対するビジネスを通じた取り組みの機運は肌感覚としても現実味が増していると感じます。

昨日10月18日にはBloombergNEFによるレポートについて書かれた以下の記事が公開され、こちらの記事では「new Edison-level transformation under way(新しいエジソン・レベルの変革が進行中)」と技術的な進歩を前向きに評価する分析やチャートが数多く紹介されてます。

87カ国が到達したクリーンエネルギーの転換点〜太陽光発電、電気自動車、グリッドスケール電池、ヒートポンプなど、世界はグリーンテクノロジーの大量採用の時を迎えようとしている。

現在、87カ国が電力の5%以上を風力や太陽光発電で賄っており、クリーンエネルギーへの移行が本格化しています。米国は2011年に5%を達成し、昨年は再生可能エネルギーによる電力供給が20%を超えました。もし米国が他の先進国のトレンドに従えば、今からわずか10年後には、風力と太陽光が米国の発電能力の半分を占めるようになるだろう。これは、主要な予測よりも数年、あるいは数十年早い数字である。

Clean Energy, Electric Cars Are Hitting Tipping Points for Global Mass [2022/10/19 Bloomberg Green]
BloombergNEF

また、今週米国シアトルで開催されているビル・ゲイツ氏率いるブレークスルー・エナジー・ベンチャーのカンファレンス(ハッシュタグ: #BESummit2022)が開催され、公開されたブログ記事の中でゲイツ氏は過去2年間にベンチャーキャピタルが1,300社以上のクリーンエネルギー関連新興企業に約700億ドル(約10.4兆円)を投じていることに手応えを感じている様子が伺えます。

こうして米国で進んでいるテクノロジーによる気候変動対策の取り組み、スタートアップの成長、投資に関しては「Climate Tech」、日本語文脈では「気候テック」と呼ばれることが多いです。国内においてはこの夏以降「GX(グローバルトランスフォーメーション)」という言葉で脱炭素に取り組む機運が高まっていることが伺えますが、時に英語と日本語で翻訳・置き換えをしながら、海外の動向も踏まえ、国内でもこうした機運が高まっていくことを期待しています。

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