「労働関係法令遵守」は人的資本の情報開示の中でどう位置付けられているか
岸田総理は、人的資本の情報開示について開示内容を充実させる等と述べたようです。
人的資本の情報開示については、色々な解説がなされていますが、人材版伊藤レポートの立案を担当した立場から見ると、自らのツールやサービスを売るために都合よく解説しているものも多く、誤解を招くような解説も多いというのが正直な印象です。
特に、弁護士がこのテーマについて解説すると、労働関係法令遵守に引き付けているものも見られますが、この点については、少し留意が必要です。
そこで、今回は、(自分も弁護士である点はおいておき)元経産省人材室の担当として人的資本の情報開示と労働関係法令の遵守状況の開示について書いていきます。
確かに機関投資家は注目している
機関投資家は人材関連情報のなかで何に注目しているか、というと、確かに労働関係法令の遵守状況に注目しているようです。
このことは人材版伊藤レポートの参考資料集に掲載されているデータからも見て取れます。
人材版伊藤レポートは労働関係法令遵守をどう位置付けているか
では、現在の人的資本政策の始まりになっている人材版伊藤レポート(1.0)では、労働関係法令をどう位置付けているかというと、「触れていない」というのが正解になります。
元担当者からすると、これは「労働関係法令はどうでもよい」という趣旨ではありません。人材版伊藤レポート(1.0)は、労働関係法令の遵守を“前提”としつつ、そこから+αの戦略面の構築と開示を求めているからです(そもそも所管法律でもない労働関係法令の遵守を経産省が言うべきかという問題もあります。)。
参考資料のデータもネガティブな意味合いで使っている
このように言うと、「機関投資家は労働関係法令の遵守」に着目しているではないか、と思われるかもしれません。
しかし、人材版伊藤レポートの中では、上記のデータについては、むしろ「労働関係法令の遵守が多く、経営戦略と人材戦略の連動などの戦略面への着目がない」という点と、「そもそも「特にない」が多いという点を示す、ネガティブなデータとして示しています。
労働関係法令遵守と経営戦略との連動を意識
繰り返しになりますが、人材版伊藤レポートも労働関係法令の遵守を無視しているわけではないです。
そのため、労働関係法令の遵守を経営戦略との統合的ストーリーの中に位置づけ、示すことができるのであれば、その文脈においてこれを開示することは考えられるでしょう(他方で、「労働関係法令を遵守していません」と開示することはないでしょうが)。
ただ、機関投資家が着目しているというデータがあるという理由で、何の脈絡もなく「労働関係法令を遵守しています」と開示するのはあまり意味はなく、人的資本政策の中で求められていることでもないといえます。
人的資本の情報開示にあたっては、人材版伊藤レポート(1.0)をよく読んでいただき、何を求めているのかを理解したうえで進めていくことをお勧めします。
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