イギリスでは「ネットゼロ・ダッド」現象なるものが台頭しつつあるとのことです。先月末のエコノミストの記事によると、彼らは気候変動自体にはあまり関心がないにもかかわらず環境技術の導入に積極的であると指摘されています。この年齢層には気候懐疑論者もいる一方で、多くの中年の父親たちはヒートポンプや電気自動車などのソリューションを熱心に受け入れ、見知らぬ人に自分の設備を誇らしげに見せているそうです。オンラインコミュニティで技術的なことについて議論し、性能を比較し、省エネ対策を実験していますが、一定の経済力、住宅所有などのゆとりがあることで高価な環境技術への投資も可能になっているとの分析です。新しい技術は初期は高価であっても多くの人が利用することで性能が向上し、価格も低下して普及するという点を考えると、「ネットゼロ・ダッド」は気候変動対策において実は貴重な存在なのではないか、と感じたことを覚えています。

果たしてこうした現象は日本でも起きているのでしょうか？近年、日本でもEVや太陽光パネル、蓄電池、高断熱窓など「エコな最新家電」に熱中する消費者層が静かに台頭しているようです。

なぜ中年男性がエコ製品に熱中するのか？

彼らの購買動機の中心にあるのは、意外にも「環境のため」という純粋な理想だけではありません。最も強い動機は「経済性」です。EVのランニングコストの安さ、太陽光発電による電気代削減、断熱リフォームによる光熱費カット——こうした「家計にやさしい」というメリットが彼らの財布の紐を緩めます。特に2022年以降の電気代高騰は、「省エネ設備への投資」という考え方を加速させました。

また、見逃せないのは「技術好き」な気質です。従来からハイブリッド車やホームシアターなど新しいテクノロジーに興味を示してきた彼らにとって、最新の脱炭素ガジェットは新たな「おもちゃ」でもあります。自宅に太陽光パネルや蓄電池を設置してエネルギー自給を図ることは、一種の「家のアップグレード」として自己満足や所有欲を満たす側面もあります。

コミュニティで盛り上がる「エコお父さん」たち

興味深いのは、こうした「ネットゼロ・ダッド」層がオンライン上でコミュニティを形成している点です。EVオーナーたちは「EVごはん」と称する活動で充電スポット周辺のグルメ情報を共有し、そのコミュニティには1万4千人以上が参加。太陽光発電オーナーも「太陽光発電所ネットワーク」などで設置経験や発電データを交換しています。XやFacebook、YouTubeなどでは、自家発電量の報告や断熱リフォーム体験談などを投稿する「エコお父さん」が多数見られます。

彼らは環境活動家のように声高に主張するわけではなく、むしろ「省エネで賢い暮らし」に静かなプライドを持ち、同好の仲間と交流することで満足感を得ているようです。

社会的背景と今後の展望

この現象の背景には、政府の「2050年カーボンニュートラル」宣言以降の政策支援があります。EV購入時の補助金や住宅の断熱改修補助など、手厚い支援策は中年世代の背中を押したようです。また東日本大震災以降の防災意識の高まりも、蓄電池やEVの「非常時電源」機能への関心を高めました。

当初は40～50代男性中心だったこの動きですが、最近では女性や他世代にも広がりを見せています。ポータブル電源では女性購入者が急増し、EVには60代以上も関心を示すなど、「家計を守る」「家族を守る」という普遍的な動機が世代や性別を超えて共鳴しています。

今後も電気料金の高止まりや補助金政策が続く限り、この「ネットゼロ・ダッド」的な消費者層は拡大し続けると思われます。彼らの「実利的な環境配慮」は、必ずしも理想主義に基づくものではないかもしれませんが、結果として日本の家庭部門の脱炭素化を加速させる重要な推進力となるのではないかと期待しています。

📬気候変動・クライメートテックをテーマにした記事をキュレーションするニュースレターを日本語と英語で配信しています。よろしければご登録ください🌏🙂

・Climate Curation(日本語）: https://climatecuration.theletter.jp/
・Japan Climate Curation（英語）: https://bit.ly/JapanClimateCuration

▶2021年夏以降気候変動・脱炭素・クライメートテックについてCOMEMO記事として公開した記事のリスト