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KPIは部分最適に走りやすく、判断も誤りやすいことを5000字ぐらいで説明する

 20年の世界経済は2.9%のプラス成長だった19年から大幅に悪化し、09年(0.1%減)以来のマイナス成長に落ち込みそうだ。90兆ドルある世界の国内総生産(GDP)が1年間で3%も縮小すれば、経済規模が2.7兆ドル(約290兆円)も失われる計算だ。
 日本は5.2%のマイナス成長を予測し、09年(マイナス5.4%)以来の大幅な落ち込みとなりそうだ。感染者数が57万人と世界最大の米国は、マイナス5.9%と急激な景気悪化が避けられない。経済活動が大幅に制約されたユーロ圏も、同7.5%と厳しい景気後退となり、外出制限が続くイタリアは9%のマイナス成長と予測した。

コロナが変えてしまうB2Bビジネスのあり方

新型コロナウイルスは、ビジネス環境、特にB2Bビジネスに大きな打撃を与えました。展示会はできない、セミナーも開催できない、テレアポしても顧客がリモートワークで出社していない、そもそも会いに行けません。

顧客との最初の接点から、受注まで、そして長期に継続して頂くまで、これまでのビジネススキームでは「顧客がオフィスにいる前提」「営業が顧客に直接会える前提」の座組みだった企業も多いでしょう。

新型コロナウイルスが、既存の仕組みを完全に崩壊させたのです。辛い。泣いちゃう。

THE MODELなB2B企業は、フィールドセールスで月額数万円、年間数十万円〜数百万円もするプロダクトを売らなければいけません。「売る仕組み」を、顧客と直接会わなくても成立する仕組みに変える必要があります。

そうなると、合わせて変える必要が出てくるのがKPIです。

例えば、アポ獲得や電話説明のハードルが幾ばくか高まり、今までのKPIで良いのか社内で議論が始まっていると感じています。

ただ、私自身の経験としては、KPIと事業管理は向いていないのではないかと感じています。KPIは部分最適に向いていて、各部署が一丸となって売上を達成しないといけない邪魔をする存在だとすら思っています。


ビジネスモデルが複雑になるとKPIも複雑になる

遠い昔、はるか彼方の銀河系で貴重な経験をしました。

B2B向けプロダクトを扱う事業で、各部署が与えられた全てのKPIを達成したのに、KGIが達成できなかったのです。

当時、従量課金のストックビジネス(通称チャリンチャリンモデル)を採択しており、複数のオプションもあったため、KGIからKPIへのドリルダウンは難しかったと思いますが、それにしても…と感じた記憶があります。

どのようにストックビジネスで金を稼ぐか考える際、料金体系はざっくり以下の5種類になるかと考えています。

■固定の料金体系が1つのみ
基本的には新規と解約だけを追うスクリーンショット 2020-04-14 23.09.32

■固定の料金体系が複数
どの新規プランが選ばれるかを追う。料金体系のアップグレードやダウングレードも考慮する場合も
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■固定の料金体系に1つ以上のオプション
上記に加えてアップセルとダウンセルが加わるスクリーンショット 2020-04-14 23.18.05

■従量の料金体系のみ
使えば使うだけ値段が上がるので、使用量を追う。〜以上は◎円、〜以上は◎円といった階段式と、1回につき◎円といった量式の2種類が多く、階段式は実質的に「固定の料金体系が複数」と同義。スクリーンショット 2020-04-14 23.14.15

■従量の料金体系に1つ以上のオプション
使用量だけでなく、上記に加えてアップセルとダウンセルが加わるスクリーンショット 2020-04-14 23.18.05

5種類のうち、下に向かうにつれて難易度と言いますか、考えなければならない指標が増えていきます。

昨今、B2Bマーケティング攻略が話題となり、新規獲得(一部アップセル)に目が向けられていますが、本来ならさらに見るべき指標があります。新規獲得だけでもこれだけ細分化されますが、アップセル(ダウンセル)や解約となると…もう大変だ。大変です。事件です。

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遠い昔、はるか彼方の銀河系では「従量(階段式)の料金体系に1つ以上のオプション」を採択していましたが、見るべき指標が本当に多くて、1本の線で追えずに苦労しました。

従量課金は特に予測モデルが難しく、外的要因+内的要因+長期需要など複雑なモデルを作成しましたが、完全に補足できずどえらい難儀した思い出があります。

本来のあるべき論で考えると、各部門を1本の線が流れるはずです(線の流れの異論は置いておいたとして)。どこがスタートかはさておき、仮にマーケティングに100万インプットしたら、線を辿ってどこで何万アウトプットされるかは雰囲気でも掴めるはずです。

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もっとも、実際の現場では、どう考えても何本かに分断されています。遠い昔、はるか彼方の銀河系ではそうでした。その結果、特定箇所の効率主義や部分最適が発生し、全体最適を計れませんでした。

ただ、それは「KPI設計が下手だから」では済ませられないと考えます。そもそもKPIで見ると、線で追えなくて当然だからです。


ボトルネックで考えるKPI設計

マーケティング部門で大量のリードを獲得したけれど、あまりに品質が悪いとインサイドセールスからクレームが発生した。

「顧客は◎◎が欲しいらしい」とカスタマーサクセス部門やカスタマーサポート部門から要望が上がったけど、開発側で他にやるべき改修が多過ぎて、リリースまで半年かかる。

或いはリリースしたとしても、顧客は使ってくれなかった。

胸が痛む経験ですね。実際に目の当たりにしてきました。組織は険悪な雰囲気になるし、原因究明も「他責」になりがちで面倒です。

こうした状況が発生すると、影響を喰らうのは後工程です。

インサイドセールスがボトルネックになって、フィールドセールスがパフォーマンスを発揮できなくなる。

開発(期間)がボトルネックになって、カスタマーサクセスやカスタマーサポートがパフォーマンスを発揮できなくなる(この逆もそう)。

拡大し続ける組織にボトルネックは常に付きまとうものですが、何とかならんもんでしょうか。

一旦、ここで考えるべきは「ボトルネックとは何か?」です。死ぬまでに後100回は繰り返し読みたい名著「ザ・ゴール」には、次のような説明があります。

「ボトルネックとは、その処理能力が、与えられている仕事量と同じか、それ以下リソースのことだ。非ボトルネックは、逆に与えられている仕事量よりも処理能力が大きいリソースのことだ。わかるかね」
「とにかく基本的な考え方は、ボトルネックのフローを需要に合わせるということで正しい。(略)ボトルネックは単に現実なんだ。ボトルネックが存在するところでは、生産システムから市場までのフローをボトルネックを使ってコントロールすべきだと提案しているだけだ」

「ザ・ゴール」は考え方を変えろ、と教えてくれます。

つまり、インサイドセールスが捌けないほどリードを供給したのが間違ってるし、開発が捌けないほど機能要求をリクエストしたのが間違っていると考えた方が良いのです。

前工程は、常に後工程の処理能力を意識して作業量を渡さないと、直ぐにパンクしてしまいます。

全体を俯瞰する管理職は、各工程の処理能力だけでなくフロー(後工程へのパス)を意識しなければいけません。局所的に処理能力を高めても、全体で能力に見合ったアウトプットが出るとは限りません。以下図がイメージし易いでしょう。

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マーケティングがシャカリキにリードを供給しても、インサイドセールスが1000架電しかできない点がボトルネックになり、フィールドセールスに最大100アポしか渡せません。

こうなると、直ぐに実施するべきは、インサイドセールスの処理能力の向上です。

処理能力強化の話になると、決まって「架電からのアポ率もう少し上げれないですか?」みたいな話になります。トークスクリプトを練習すれば上手くいく場合もあるでしょうが、リードの質に依るので、率向上に期待するのは極めて危ないです(だからこそ質が悪いとキレるのであって)。

考えるべきはインサイドセールスへのリソース(人)の投入です。

その場合、決まって費用対効果の話になります。ここで難しいのが効果をどこに置くかです。架電件数でしょうか。アポでしょうか。私は「人の移動によって生まれたアポ(訪問)からの受注金額で見るべき」だと考えます。

インサイドセールス単体で見れば架電件数とアポの向上ですが、それが後工程や最終工程でお金に変わる瞬間で捉えると、大きく意味が変わります。インサイドセールスの改善ではありますが、そのリターンを局所に絞って見てはいけません。

なぜならインサイドセールスのアポ供給量が増えない限り、売上も増えていかないからです。

KPI管理者は、KPIにばかり目が追うばかりに、少し離れた「売上」と紐付けて語るのを憚ります。でも、それをしなきゃいけないし、部門を統括するマネージャーはそれを言及しなければいけません。

KPIの弊害は、こうした費用対効果の計算に現れます。本来は線(フロー)で見なければならないビジネスを、点で計測しているおかげで部分最適に走ってしまうのです。

弊害はまだあります。KPIで管理していると、マーケティング部門は「効率良くやってくれた」「優秀である」と褒められたはずです。しかし実際には「作り過ぎの弊害」を引き起こしているので、本来であれば怒られてしかるべきです。

部門長が後工程を意識してKPIを作れれば良いのですが、往往にしてマーケティング〜営業のみが繋がっていて、あとは分断されているのではないでしょうか。その結果、点の管理が生まれ、生産能力がおざなりになった計画が立ち上がり、組織が疲弊していきます。


大事なのは効率ではなく生産性(売上)

KPI最大の弊害は「効率化」「最適化」だと私は考えます。言い方を変えると「指標に対する効率化」「指標の最適化」になります。

そもそも効率が高まれば、生産性(売上)も高まるでしょうか。

いや、私は違うと思います。先述の例の通り、マーケティング部門単体で効率良くやったとしても、その先にボトルネックがある限り、全体として売上が高まるとは限りません。

1つの部署が効率良くやったとしても、お金を生まなければ良い改善とは言わないのではないでしょうか?

先ほど「リリースしたとしても、顧客は使ってくれなかった」事例を紹介しました。これも近しい話で、開発陣の100あるリソースを全て金に変える筈が90か80ぐらいしか変えられなかったと捉えるべきです。金にならない20のリソースは、なぜ動いたのでしょうか。

結局は、必要なタイミングで必要な機能を提供できなかった阻害要因があるはずです。そして大半は「いま必要な機能が必要以上にある」ことに起因しています。

こういう話をすると「仮に後工程がボトルネックだったとして、何かをさせないともったいない」「開発のリソースを金に変えられなかったとしても、稼働しているのは良いことだ」と話す人がいます。

本当でしょうか? 処理しきれないリードの束なんか、製造業で言えば在庫が増えているだけです。金に変えられない改修なら運用保守に加勢した方が良いでしょう。

1人1人の効率が下がろうが、ボトルネックを下回らない限り本来は何も問題は無いはずなのです。なのに「遊ばせるわけにはいかない」「KPIを達成しなければならない」と非ボトルネックを稼働させる。それが無駄やムラ、不具合を引きおこす原因です。

SaaS型ビジネスモデルはよく「バケツの穴」が話されます。でも、本当に話さないといけないのは「もっとも処理能力が低い部署以上に水(売上)が貯まらない」ことについてです。フローで見て、処理能力が低い部署が売上を作る、と言い切っても過言ではないでしょう。

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KPIから一番弱いボトルネックが分かるか?

各部署を各APIで管理するのではなく、フローで管理すれば全体の「生産能力」に着目できます。

よく例えで出すのが、病院の改善です。病院に入ってから出るまで、だいたい1時間〜1.5時間ぐらい掛かります。長いですよね。

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上図の通り、患者の待ち時間を短縮するために医者の診察時間を短くする、会計にかかる時間を短くするのは殆ど効果はありません。

それよりも待ち時間を短縮した方が、全体にかかる時間は大いに減らせます。業務上の何らかのボトルネックが発生しているから待ち時間が長いわけで、解消すれば病院全体としての生産能力は向上します。

部署が大きくなるほど、縦割りに裁断されて、KPIという達成すべき指標が渡されます。「KPIを達成したけどKGIを達成できなかった」過去の経験はまさに、ボトルネックを考慮しきれなかった、つまりフローで追い切れていなかったからだと今になってわかります。

KPIに効率を求めてしまうと、コストを投下して売上をあげる話になかなかなりません。効率を上げれば現状のコストでも売上はあがるんじゃないの、なんて話になりがちです。

「売上」「利益」に目を向けるべきです。一部のKPI指標の効率が悪くなるという理由で、間違った意思決定を下してはいけません。

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図を再掲しますが、100アポ→180アポを獲得するために、一時的にアポ率が悪くなる可能性も大いにあります。しかし、その結果、フィールドセールスに供給できる訪問が増え、売上が増えるなら本来は良い筈です。

仮にKPIにアポ率を設けてしまうと、指標が悪くなるので「ダメでした」とみなされてしまう。それを避けて人を増やすのを渋るのを「KPIに縛られたダメな意思決定」と言います。

おそらく、KPIとは本来、部門を横断して作られる部門長マターではないのかな、と考えます。少なくとも現場が「これを指標にしよう」と作るべき指標ではありません。調整をするべき人が調整を怠ると、地獄を見るのは間違いないでしょう。

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