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過剰な自己否定の弊害ー「日本は環境後進国」の思い込みが強すぎる。

エネルギー・環境問題に関心が高い学生さんと話していて、常々、「日本は環境後進国」という思い込みがあまりに強いことに困惑します。
でもそれも仕方のないことでしょう。メディアの報道や環境NGOの方たちが仰っていることを見ればそう思うのも当然です。
エネルギー問題に関する番組の構成台本をいただくと、だいたいこんな言葉が躍ります。直近出たインターネット番組の構成台本から引っ張ってみましょう。
>COP27では「化石賞受賞」
 >世界に遅れる日本の脱炭素
 >福島原発事故から 11 年…進まない日本のエネルギー構造改革
それぞれの記述に対する疑問は後述しますが、まず前提として、私は「日本の取り組みは十分だ」と言いたいわけでも、「お国自慢」に走りたいわけでもありません。日本の弱みと強みを明らかにして、どうすれば気候変動問題という世界的な課題に日本として貢献するかを考えたいと思っていますが、強みがあることにも気がついていない、気がつけない方たちがとても多いのです。過度な自己肯定も自己否定も、共に前向きな議論の邪魔であり、まずは正確な現状認識をして、議論の前提をフラットにしたいと考えています。

メディアでよく見る典型的な3フレーズ

まず、一点目の化石賞です。私の発信をこれまでご覧いただいた方には繰り返しになるかもしれませんが、化石賞とは国際環境NGOが気候変動対策に後ろ向きであると認定した国や地域、国際機関などに与えるもので、要は彼らから批判されたということです。COPが開催される2週間の会期中毎日、1位から3位まで発表されるのですが、その批判の妥当性に首をかしげることも多々あります。
というか、そもそも主催者自らが"Show time"というように、会場の片隅でやっているイベントのようなものですし、基本的に気候変動問題の世界では、先進国が悪者。欧州生まれの環境NGOが多いので、勢い、米国、日本、豪州あたりが持ち回りで受賞するというのがいつもの景色。
加えて言えば、COP27の期間中に、「270GWの石炭火力発電所を増設する(ちなみに、いま日本にある石炭火力発電所全部で60GWです)」と公言した中国も、現状世界中から石炭を買い漁っているドイツもCOP27で化石賞をもらうことはありませんでした。これだけで化石賞とはどんなものかを推して知るべしでしょう。これを国際的に批判されているから日本は恥ずかしいと単純に報じる日本のメディアは、自らの検証能力を疑った方が良い。妥当な批判であれば甘んじて受けるべきですが、化石賞を受賞した理由も良く分析していない報道がほとんどです。

数年前、ポーランドで開催されたCOPにて撮影

2点目の「世界に遅れる脱炭素化」について考えてみましょう。日本は2013年以降、7年連続でCO2を減らし続けています。なお、ここ2年ほどは、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う経済停滞によって、世界全体でCO2排出量は大幅に減少しました。経済復興に伴って今年は日本も含めて増加に転じる可能性があるでしょう。この2年ほどはコロナという特殊事情があったとはいえ、2013年以降日本がCO2排出量を減らし続けてきたことは確かです。「世界に遅れる日本の脱炭素」とは何を指してのことなのでしょうか。
 
3点目の「福島原発事故から 11 年…進まない日本のエネルギー構造改革」ですが、「エネルギーの構造改革」には非常に長期の時間を要することへの認識が不足しています。
日本は2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロ化(カーボン・ニュートラル)を掲げています。今から約30年後ですが、エネルギーインフラを作り変えるという観点からは30年というのは決して遠い未来ではありません。いま建設中の発電所は30年後でも現役で稼動しているでしょう。それを前提にしなければ投資するという判断はなかなかできません。原子力発電所が最たるものですが、発電所だけでなく送電線含めて、エネルギー関連の施設はみんな「迷惑施設」です。街の再開発などもそうですが、地域の理解を得ながら社会インフラを整えていくというのは非常に長期の時間を要します。10年でどのような状態になれば「エネルギーが変わった」と思うのか。クライテリアを示さず「変わってない。ダメだ」とする批判が多いのですが、批判ありきになっていないでしょうか。
なお、日本はこの10年、相当の再エネ大国になりました。再エネ派の方たちは必ず電源構成に占める再エネの発電量の比率で語り、「50%近くに達するドイツなどと比べて日本はまだ20%程度」と批判するのですが、再エネ設備の導入量で言えば日本は世界第6位、太陽光発電の導入量では世界第3位です。日本の太陽光発電導入の増加スピードは、世界にこれまで例がないものです。「進まない」とは何を指しての批判なのでしょうか。

自動車政策とエネルギー政策の共通項

モータージャーナリストの池田さんのこの記事は、私と同じ問題意識なのだろうと思います。
トヨタは日本を諦めつつある 豊田章男社長のメッセージ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

私も、委員を拝命する経済産業省の「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」で、「現状否定から入り過ぎではないか」と申し上げたことがあります。あえて付け加えるなら、役所の方はさすがにわかっておられるとは思っていますが、メディアや政治家の中に、日本を過度に否定する動きがあり、それに引っ張られてしまっているように私には見えます。
日本の自動車メーカーの「対応遅れ」を批判する記事は数多く目にしてきました。例えば下記のような。
出遅れた日本のEV、受託生産に活路を 村沢義久氏: 日本経済新聞 (nikkei.com)

ただ、池田さんが記事で引用されているように、日本自動車工業会さんの資料は、2021年に公表されたものですが、日本はこの20年間、他国に突出して自動車からのCO2排出を減らしてきたと示されています。

また、エネルギー経済研究所の試算(リンク先資料のスライド30)では、自動車生産額あたりのCO2排出量が、日本は他国に比べて相当低いことも示されています。池田さんが仰るように、Toyotaさんが日本を諦めて出ていくということは、日本の雇用が失われるといった問題だけではないのです。

こうしたデータのとり方にはいろいろな考え方があって、これだけが真実というつもりはありませんが、こうしたデータも示されていることはもう少し認識されてほしい。そして、こうした強みを活かして世界に貢献できることは多々あるのに、日本はダメ、後進国、といった批判ばかりが若者の耳に届いている現状はとても悲しいと思います。

できていないこと、やるべきことを認識することも大事。
でも、できていること、やれていることを認識することも同じように大事。
若い人に、過度に「日本は恥ずかしい」なんて思いを抱かせないでください。若い学生さんたちが、日本のポテンシャルを信じて、エネルギー・環境分野で起業することを徹底的に応援する一年にしようと思っていますので、年始に当たり、メディアの方たちに心からお願いする次第です。
 

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