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「デジタル人材だけ別枠」は日本企業のジョブ型を推進するのか?

新入社員の処遇は一律が原則というのが、長らく日本の伝統的な人事システムだった。その原則の見直しが徐々に広まっている。特に、需要に対して供給が追い付いていないエンジニアをはじめとしたデジタル人材では顕著だ。人材獲得のために、新卒採用から別枠として処遇を変える企業が増えている。日経新聞の調査では、調査対象の100社のうち、約3割がデータ分析や人工知能などの専門人材を別枠で採用しているという。

まず初めの前提として、世界を見渡すと新卒採用の処遇を一律で決めるという商慣習を持っている国は日本以外にはほとんどない。これは、グローバルスタンダードが「仕事にヒトを付ける」という所謂「ジョブ型雇用」と呼ばれる形式であるためだ。給与や処遇は、入社した従業員がどのような仕事をするのかに応じて決まる。そのため、同じ新入社員でも仕事内容によって給与水準が異なるのが当たり前だ。

どのような仕事に就くのかは、学校教育で何を学んできたかによって決まることが多い。大学まで進学しているのであれば、その専攻を活かすことができる職に就く。大学に進学しないときには職業訓練を主目的とした専門高校で学んだことを活かす。ドイツなどのゲルマン系国家は専門高校の延長線上で仕事を探す傾向が強い。市場原理が働きやすい傾向にあるアングロサクソン系国家では、大学進学時にどの大学で何の専門性を身に着けるかで、卒業後にいくら稼ぐことができるのかシミュレーションのデータベースが公開されている。この内容が大学進学時の重要な意思決定の1つにもなっている。

このようなグローバルスタンダードに対して、日本企業はメンバーシップ型雇用という「ヒトに仕事を付ける」人事システムを伝統としてきた。給与や労働条件は従業員の持つ職務遂行能力とポテンシャルの期待値で決まり、どのような仕事に従事しているのかは関係ない。仕事内容と処遇を連動させてしまうと、人事異動で仕事内容が変わると給与や労働条件が変わってしまう。それでは「ヒトに仕事を付ける」人事システムでは具合が悪かった。

いま、デジタル人材のみ処遇を別にしようという試みが出ている。これは学術的な見方をすると、デジタル人材は基本的に専門性を活かす仕事が期待されて、それ以外の仕事はしないということが前提となる。つまり、1つの会社の中にメンバーシップ型の伝統的な人事システムと、ジョブ型のグローバルスタンダードな人事システムが同居するハイブリッド型の運用をしていると言える。

日本企業のジョブ型への移行は、まだまだ試行錯誤の段階にあって、各社が自社なりの最適の形を模索しているところだ。ハイブリッド型は、日本の商慣習にジョブ型を馴染ませる過渡期の運用といえる。その結果として、数年後には、欧米のように完全にジョブ型に移行する企業もあれば、伝統的なメンバーシップ型の人事システムを維持することで競争力を維持する企業も出て来るだろう。そのような「日本式経営」と一括りにはできない、各社各様の人事システムが混在する将来が予想される。グローバルスタンダードへの転換に積極的な日立や富士通や、テレワークの導入にも保守的な多くの地方企業(地方のテレワーク普及率は1割程度)など、時代の変化への対応から、既に一括りにはできない将来の日本の人事システムが垣間見えている。



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