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ジョブ型雇用と解雇の話- Are you ready to get fired?

こんにちは。Funleash志水です。前回のパーパスについての記事もスキやメッセージをありがとうございます。最近は経営や人事以外の皆さんにも読んでいただけるようになり、嬉しく思います!

さて今日のテーマは「ジョブ型と解雇」。この数年、経済紙で話題のジョブ型について。ああ、うちの人事が入れようとしている制度だけどよくわからないな。そう思われるかもしれませんが、将来的に皆さん自身が経験するかもしれない内容なので最後までお付き合いください。

昨年の今頃、ジョブ型の目的や効果についてnoteを書きました。長年ジョブ型の設計と運用をリードしてきた人事のプロとしてコンサルが知らない実務の観点から要点を解説しました。
目的や概要を整理したい方は、まずこちらから。

あれ以来、ジョブ型議論はますます白熱し、猫も杓子もジョブ型笑。
「生産性の低い日本企業が生き残るためにはジョブ型導入が不可欠」といった声に列島が包まれている感覚を覚えます。90年代に成果主義を導入した大企業が失敗を認め、数年後に廃止したことは記憶に新しいですが今回は成功するのでしょうか。

そもそも制度だけで解決するほど人や組織の課題は簡単ではありません。日本企業の制度の複雑さは世界でも有名です。乱立しているさまざまな制度が蔦のようにからみあってます。これらの施策を紐解きつつ連動させ、文化として根付かせるには想定以上のエネルギーが大変な道のりでしょう。

日経のジョブ型に関する主要な記事がクリッピングがされていました。


非常に重要な論点を提示していると目にとまったのがこちらの記事。

解雇規制の緩和は人材の流動性を高めるので、新たな求人企業に出会い、就職しやすくなる側面もある。全体的にマッチングの機会が増えることで
適所に適材が配置され、雇用のミスマッチの解消が期待できる。

ジョブ型を導入するにあたり、企業は「降格」「減給」をはじめ「解雇」に向き合うことになります。職務で求められる責任を遂行していない、あるいは会社が期待している成果が出ていない場合、職務とのミスマッチが発生するからです。

皆さんは降格や減給については理解できると思いますが、解雇についてはいかがでしょう?

日本は世界でも解雇が難しい国の一つだといわれています。(欧州の一部は日本と同様に難しい国もあります)労働法によって働き手が守られているという意味では素晴らしいことです。一方で、解雇が規制されているがゆえに抜け道を見つけて不当解雇を強いる悪しき経営者人事がいることも残念ながら事実です。解雇の件数自体がまだ少ないため、適切にできる日本企業はほんの一握りでしょう。

「ジョブ型と解雇」について説明する前に、まずジョブ型導入のプロセスを整理しますね。下の図をご覧ください。(なんとなくの理解で大丈夫)

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特に注目していただきたいの③職務評価(測定)→④等級決定→⑤職務のスライド⑥給与制度の決定。
ここでミスマッチが起こることが多いのです。どういうことかというと、このプロセスで、「現状」の等級・役職および給与の実態と「組織としてあるべき姿」との間の齟齬が明らかになるのです。

例えば以下のようなケースがよくあります。

①部長の職務なのに、下級クラス(係長)と職務内容が同等だった
②上司よりも部下の職務における責任範囲が大きかった
③部門を率いる部長と社長秘書の給与が(役割はまったく異なる)のに同水準だった

さあ、どうします?当然ながら、ミスマッチを解消しようとする原理が働きます。企業によっては、該当する社員が退職するまでは現状維持というソフトな選択をしますが、これを機にシビアな決定、つまり、降格(昇進もあり)や解雇を実行するところもあるでしょう。

ふたたび、上の例を使って解説します。以下のようなアクションが想定されます。

①の場合は他部署へ異動・降格(大幅に給与が下がる時は退職勧奨も)
②部下を昇進し新しい等級・役職を付与。給与もアップ
③報酬を大幅に下げるか、秘書から部長と同レベルの仕事に異動

職能制度とは全く異なるため「職務」と「人材」を切り分けられず混乱しますよね。これまで給与は仕事ではなく人に対して決められていたので、職務と連動するのはイメージしづらいかもしれません。

少し話がそれますが、キャリア初期のころ、プロジェクトリーダーとしてエグゼクティブや事業リーダーに説明をすることがありました。米国人の社長に下のメッセージを伝えて激怒(英語で)されました。役員や部門のリーダーから怒鳴られたこともあります笑

「あなたの秘書は職務と給与が見合っていません。新しい等級を適用して(降格)、給与を下げなくてはなりません。もし今の給与水準を維持したければ、より大きな職責の職務を用意することが必要です。」

総論賛成、各論反対の社長や上層部リーダー、社員に丁寧に説明し受けれ入れてもらうのも人事の役割。ジョブ型の難しさはここにあります。

ひらたくいうと、ジョブ型とは「職務内容に対して報酬が決まる」制度。ミスマッチが起こった場合には、現在の職務と同等の職務(等級・給与)に変更になったり、給与変更が発生します。組織内に職務がない場合には、外部で探さないといけなくなります。

上の記事では「労働者が解雇された理由がスキルの陳腐化ならば、新たなスキルを習得する職業訓練の機会を用意すればよい」とあります。実際にはスキルではなく、職務で求められている成果で判断されます。(後に説明しますがスキルの陳腐化での解雇は困難です)
ジョブ型導入で「いきなり解雇」というのは考えられません。ただし、「移行期間」中に、職務で求められている成果がでないと判断された場合には、「降格」「解雇」が起こる可能性は恐らくありえます。

ちなみにジョブ型人事の外資企業では、個人の業績が未達の場合には「PIP(パフォーマンス・インプルーブメント・プロセス)」というプログラムにより、一定の期間、成果を観察します。上司と本人が共に業績改善のために取り組むのです。成果主義の外資系企業では即解雇のイメージがあるようですが、そんなことはありません、(成果が達成できていない社員は、自ら悟って解雇の前に辞めていくことの方が多いかもしれません)

では、本テーマである「解雇」について説明します。簡単にまとめると、以下の3種類があります。松竹梅を用いて解説します。

(松)整理解雇:会社の事業の継続を図るために従業員を解雇する方法。部門閉鎖や事業撤退、職務廃止など。日本ではリストラと呼ばれる。

(竹)普通解雇:労働基準法と労働契約法に基づいて解雇をする方法。解雇の理由には客観的合理性と社会通念上の相当な理由付けが必要。雇用主には30日以上前の通知か、一カ月分の給与を支払う義務が課される。

(梅)懲戒解雇:社内の秩序を著しく乱した労働者に対して、ペナルティとして行われる解雇のこと。

松の場合、会社の業績が悪く組織をスリム化するために職を失うわけですから、会社都合の退職金、有給消化分などに加え、特別退職金がかなり加算されます(業界にもよりますが、6カ月〜12カ月給与が上乗せされることが多い)早期退職プランも、松に分類されます。

解雇という場合には、通常「普通解雇」を指します。この解雇は「正当で合理的な理由」をエビデンスと事実で証明しなくてはなならないので、ハードルが高いといえます。1カ月の給与と有給分が一般的で、松より金額が少なくなるので竹とします。

最後の懲戒解雇は服務規程を違反した場合(外資では差別やハラスメントなども該当する)のペナルティなので給与などは一切支給されません。これを実行するには労基署所長の認定が必要であり、時間がかかるため、よほどのケースでない限り、企業は避けたがります。

実は、松と梅の間に「合意退職」という裏メニューがあることは、あまり知られていません。松には該当しないけど梅にするには法律的にやや難しい。少しだけ給与を上乗せして(松と梅の間で)社員に提示し、「自ら退職を選んだ」という形で退出を促すのです。解雇と自己都合の中間のイメージですね。退職勧奨といわれることもあります。

外資でも、実際には「解雇」ではなく、裏メニューの「合意退職」を適用するケースが多いです。社員と会社の双方が合意しているため、揉めずに迅速に進むメリットがあります。

ジョブ型導入に伴う降格や減給、職務が見当たらない場合には、この裏メニューが適用されるのではないかと予想しています。

解雇は悪だと社会で認識されています。そのため多くの人が解雇はひどい、やるべきでないと考えます。

反論されるかもしれませんが、私は「解雇支持派」です。もちろん、いきなりの解雇や不当解雇はいかなる場合にも絶対に許されません。あくまで、財務的な支援、キャリア支援サービスなどできる限りのサポートがある前提です。これまでの組織への貢献に感謝してそこに報いる十分な報酬、キャリアカウンセリング、社外で必要なスキルの習得機会などを提供し、転職支援も行う。・・社員に真摯に向き合い、誠意をもって支援することが解雇(または裏メニュー)の必須条件です。

昔の上司から言われた言葉です。

会社の都合で一方的にキャリアを決め、長い間さんざん働かせておきながら、年を取ったら、スキル・能力がないと放り出す日系企業と、組織に向いてない場合は早めに伝えて金銭的支援を行って退出してもらう外資とどちらが誠実なのかな?

皆さんはどう思います?

一生懸命頑張っても上司から評価されない、職務でなかなか業績が上がらない。成果が発揮できない理由はさまざまです。社員だけの責任ではありません。
職務と能力・スキルがミスマッチと判断された会社に残るのは精神的に辛く、ストレスが伴います。

組織や職務に向かないと分かったら、1日も早く自分の能力が発揮できる外の機会を探すほうが幸せではないでしょうか?世の中には素晴らしい会社や機会がたくさん。必要とされる場所はあります。金銭的な支援があれば、前向きにその選択をするのもありではないのか。これが私の持論です。

ジョブ型による降格や解雇だけではなく、倒産、買収・売却、事業縮小など、これからは何が起こるかわかりません。明らかなのは、定年まで雇用が保証されていない時代に生きているということ。

どんなことが起こっても、自分らしくしなやかに生きていくために準備をしておく。恐れや不安が和らぎますし、選択肢も広がります。

これを読んで未来のキャリアに向けて準備を始める人が一人でも増えたら嬉しく思います。

未来 (1)