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いつまで新型コロナを特別視するのか?

 国内の新型コロナウイルスの感染者が10万人を超え、2月5日現在で感染者累計は322万5464人、死者は1万9273人となりました。臨床現場としてはこれまでの流行の波の中で最も多忙をきわめてはいるのですが、連日の過熱した報道振りには正直なところうんざりしています。コメント依頼があるメディア担当者には都度、感染状況や対策だけを取り挙げるのではなく、できるだけ社会機能を維持する、歪んだ社会を戻すための前向きな内容にするように働きかけをするようにしていますが、やはり注目される話題の中心は外せないようです。

 現在のオミクロン株はデルタ株までの新型コロナの病態とは明らかに異なっており、これまでにない急速な感染拡大による社会機能維持の困難さの反面、感染者の臨床症状や感染形態などは例外はあるものの、インフルエンザとほぼ同等あるいはそれ未満のかぜ症候群とみなされる範疇である印象です。2009年に新型インフルエンザが国内で流行した当時、感染症法上の分類は現在の新型コロナと同じ扱いでしたが、法改正ではなく運用の変更で対応した経緯があります。

「集団的に発生しているものでなければ、感染症法に基づく医師の届け出は不要となる」。厚生労働省は09年7月22日、世界的大流行(パンデミック)となっていた新型インフルエンザの感染者を診断しても、学校など施設での集団感染の疑いがなければ、医師は保健所に患者の情報を報告する必要がないと通知した。5月に国内で初確認後、7月上旬には全国で2千人を突破、2週間後には5千人を超えた。感染者数は急増する状況で厚労省が全数報告の方針を転換したのは、ウイルスが強毒性でない可能性が高まったことが大きい。当時も検査体制が不十分な上、全数報告の対応で保健所の業務が逼迫したこともあった。

 国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが沖縄県のデータも含めて発表したデータによれば、オミクロン株のウイルス排出のピークは発症後3~6日と書かれています。これは自験例でも発熱初日に抗原検査を行い陰性である患者さんがより精度の高いPCR検査では陽性となる事例が少なくはないことからも、発熱初日ではまだウイルス量が増加していないことを示唆するものと考えられます。デルタ株までは発症2日程度前からウイルス排泄がピークとなると考えられていたため、発熱初日であれば抗原検査であってもほぼ陽性となり、感染者との接触者(濃厚接触者)に関しては2日前まで遡って調査をしていましたが、今回の知見に基づけばピーク時の2日前でも発症日より後になることから「濃厚接触者」を探す必要性はほぼなくなると言えます。また無症状者が感染能力のある(他の人に感染させる)ウイルスを排出する可能性は感染機会から6日以降は大きく減少することになり、待機期間もさらに短くすることが可能となります。

 琉球大学大学院の藤田次郎教授は沖縄での先駆けたオミクロン株の流行状況の知見から以下のように提言しています。

早くオミクロン株の本質に合わせた対応に切り替えて、経済を活性化させる方向にシフトすべきです。第5波までのように画一化された対応を、全国に先駆けて、沖縄から変えていく必要があります。今回、私が行った濃厚接触者の定義見直しの提案は、私自身が沖縄県専門家会議の座長として、県全体の医療や経済の状況、保健所職員への負荷など、あらゆる面を考えなければいけない立場から考え抜いた対応策です。

 これまでの流行の中で特に問題となったのは保健所業務の逼迫です。第5波の時期には自宅療養中の患者さんが適切な対応を受けることなく不幸な転機を辿る事例が散見されました。このような事態を未然に防ぐために、今回の流行では保健所が行っていた自宅療養者の健康観察業務を医療機関が担うように協力要請が出されています。また陽性者が自宅療養した際に同居家族が発熱などの症状が出現した場合には、医師の判断で「みなし陽性」とする指針も出されました。

 このような対応は新型コロナウイルス感染者の管理を保健所が行うのではなく各医療機関に任せるということであり、新型コロナ前に多くの医療機関で行われていた発熱患者の対応と何ら変わりはないのです。すなわちインフルエンザの場合、流行期であれば多くの開業医を受診した高熱患者さんは「検査をしなくてもインフルエンザ」あるいは「検査が陰性でも臨床診断でインフルエンザ」とされることが多く、何の迷いもなく抗インフルエンザ薬が処方されていたでしょうし、ノロウイルスによる感染性腸炎であれば検査は多くの事例で保険適用外ですので「ほぼすべて臨床診断」すなわち「みなし陽性」なのです。それなのにいまだに「新型コロナの可能性があるから受診してはいけない」「検査をして陰性でなければ診ることはできない」「院内で拡がったら閉院しなければならない」というような2年前と何ら変わりのない対応をしている医療機関も少なくはありません。さらに現場を見ていない一部の専門家と称する方は「重症化の可能性は否定できない」「人流を止めなければならない」「全く油断はできない」等々、いつまで同じことを言い続けるのでしょうか。とは言え、柔軟な医療体制を阻むのは新型コロナウイルス感染症が形式上の対応に則る「感染症法」における「新型インフルエンザ等感染症」であることが少なからず影響していると考えられます。これは前回の投稿でも提言したところです。

 以前に比べれば発熱外来を行う医療機関はかなり増えたと思われますし、日々尽力されている先生方もたくさんおられます。ただ、かかりつけもなく発熱により受診する患者さんにとっては自分の近くにあるどの医療機関で診てもらえるのかはわかりません。従って自治体は発熱患者さんが受診できる医療機関名の公表を行っているのですが、発熱外来を掲げているにもかかわらず公表しない医療機関も存在するのです。

東京都や大阪府は公表している発熱外来が指定医療機関の半数程度にとどまる。府の担当者は「公表すると患者が殺到すると懸念する医療機関が多い」と説明する。実際に施設名を公表した医療機関からは「事前予約なしで来る患者もおり、対応に追われている」との相談があるという。

 公表すれば患者が殺到する可能性はあると思いますが、公表しないことで公表した医療機関に丸投げするのはあまりにも無責任ではないでしょうか?地域医療のバランスをとるのが医師会の役割であり、しっかりとした旗振り役を担うべきです。また事前予約なしで来られる患者さんはどこでもおられますが、これに対しても医師会が主導となって情報提供体制を整えることである程度の対応は可能かと思います。

発熱外来は一般の外来診療と窓口を区分し、発熱などコロナ感染が疑われる症状がある患者を受け入れて診察している。厚生労働省は発熱外来に指定された医療機関に対し、発熱外来の医師が診察した患者ならばコロナ陽性かどうかにかかわらず、1人あたり3000円の報酬を加算している。施設内の感染防止対策を実施する費用を支援するとの理由からだ。さらに施設名を公表すれば2500円を上乗せする措置も21年9月下旬に設け、公表を促している。それでも公表に後ろ向きな医療機関がなお残る。

 一般の外来診療と窓口を区分することは望まれていますが、それができないことを理由に診療拒否をしている施設(主には内科)は少なくありません。発熱外来は内科を掲げる医療機関の半数程度にとどまっているようです。おそらくコロナ発生前は発熱患者と普通の患者を隔たりもなく診療していたと思われ、それこそ院内感染の温床だったのではないでしょうか。マスク着用を義務付け、人数制限をするなどの対応でも感染対策は機能するはずです。非公表の理由に関しては「単なる言い訳」に過ぎないように感じます。「できない」のではなく「できるための努力をしない」のです。わからなければ識者に問うなど解決策を講じるべきです。

関西のあるクリニックの担当者は非公表を選んだ理由を「院長1人が診察しており、公表すると電話が殺到して対応しきれなくなる恐れがある」と説明する。→私も1人で診察していますし事務職員も1人しかいません。公表しているので電話が殺到することもありますが、対応しきれなくなればお断りするのみです。そうならないようにするための方策を講じるのは地域医師会の役割なのではないでしょうか。
別のクリニックは「主にかかりつけの患者や近隣住民の発熱に対応するため非公表を選択した」と語る。→近隣住民の発熱に対応するためならばなおさら公表すべきなのではないでしょうか。近隣でかかりつけのない患者さんで発熱した場合、どの医療機関を受診したら良いかわからないと思います。
 日本医師会は発熱外来について「拡充に努める」としている。しかし、非公表の医療機関が残っていることについて、医師会の中川俊男会長は「医療機関の機能に差があるかというと、そうでもない。問題視はしていない」と語る。→医師会を代表する幹部の方々がこのように発言している以上、改善の兆しがみえないのも仕方がないのかもしれません。

 一方で埼玉県のように県と地元の医師会が連携し、県内すべての発熱外来を公表している自治体もあるようです。

埼玉県医師会の金井忠男会長は「県民は発熱したら検索して近くの医療機関に行けばよく、診察や検査ができないとたらい回しにされることはない」と話す。すべての発熱外来が公開されていることで「一部にコロナ診療が集中せず、風評被害も防げている」という。→ただ埼玉県在住の方から診療や検査をしてもらえないという問い合わせが来ることも時にありますが・・。

 オミクロン株では多くの患者さんの管理は外来診療で完結する(あるいは完結可能)であろうと考えられ、高齢者や基礎疾患がある方であっても外来受診ができるような方であれば、早期の内服薬投与により医師の管理下で自宅療養が可能なことは少なくありません。まさにオミクロン株であるからこそ該当患者さんと常時向き合わなければならないのは開業医をはじめとするプライマリケア医の役割であり、いまその役割を果たさなければいつ果たすのでしょうか。

#日経COMEMO #NIKKEI

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