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CES2020:溶け始めた業種業界の境界線

CES2020が閉幕した。今年は、明らかに中国系企業、とりわけ安全保障の観点からもトランプ大統領に目の敵にされているデジタル系の企業が出展を控えているのが目立った。昨年大きくブースを出していたなかでは、例えばアリババやJD(京東)といった企業の姿はなかった。

一方で、HaierやTCL、CHANGHONGなどの昔ながらの家電が中心のメーカーは、おしなべて昨年と同等規模で出展を続けていた。HUAWEIは、比較的大きな出展をしていたものの、スマホ端末とスマートウォッチを地味に出しているといった印象で、展示が心なしかスカスカしているように思われた。ひょっとすると、当初予定していた出展内容を間引いたせいなのかもしれない。こうした動きに比例するかのように、大陸から来たと思しき中国人と思われる参加者の姿も目立たないと感じた。

それ以上に印象的で、今年のCESを象徴するのではないかと思ったのは、既存の業界や業種を超えた各社の動きだ。

SONYがクルマを展示したことは、日本でも大きく報道されていたと思うが、これがひとつの典型的な動きである。展示には常に人だかりがしていたが、私が行ったときには複数の来場者がドイツ語を話しており、ドイツの自動車関連産業の人が見に来ているのかと推測された。それだけ、既存の自動車業界にもインパクトが大きかったのだろう。

また、Amazonは自動車関連の展示が集まるNorth Hallに大きくブースを構え、モビリティの世界にも本格的に手を伸ばし始めていることをうかがわせる。

HYUNDAIは、Uberと組んだ有人ドローンと、モジュール型で単なる移動手段にとどまらず病院や書斎や貨物輸送など多様な使い方が出来る自動運転のモビリティに加え、そこにドッキングするステーションのコンセプトを提示していた。

ここで提示されていたコンセプトビデオが指し示す未来は、日本で盛んに報じられたTOYOTAのWoven Cityと同一線上ないしはその先にあり、むしろTOYOTAよりも幅広く未来の街の姿を提示しているように感じた。もちろん、HYUNDAIが実際にドローンなどまで実際のプロダクトとして作れるかどうかはわからないし、ビデオの作りも説明調でクリエーティブディレクターが監修したような「美しさ」はないかもしれないが、建物とクルマ、つまりは動産と不動産の違いが相対化される未来を明快に描いている点で、非常に印象的だった。

そして、デルタ航空(以下、デルタ)が、SONYやPanasponic, LG,SAMSUNGといった家電メーカーが長らく主役で、CESの本家本元ともいえるCentral Hallに出展したことも、インパクトが大きかった。キーノートにもデルタが登場していたが、注目したいことは、この出展のメインがデルタの「オープンイノベーション」の展示であった、ということだ。

展示の目玉は、スタートアップ企業と組んで顧客である旅行者の空港でのパーソナライズサービスを強化するものであったり、旅客機のメンテナンスをする従業員をアシストするパワースーツのようなものだったりするのだが、これを「オープンイノベーション」とは言わず、顧客や従業員の満足を高めるサービスへの取り組みとして提示したことには、深く考えされられた。

「オープンイノベーション」という言葉が流行りもののように踊りがちだが、その真の目的は顧客や従業員にとっての自社の価値を高めることに他ならない。そのための手段・手法としてオープンイノベーションがあるのであって、目的ではないのだ、ということを、改めて突きつけられたように感じた。そして、その「突きつける」という言葉とは対照的に、現役のデルタの従業員が来場者に対して、一般的なイベントコンパニオンではなしえないレベルの高いプロフェッショナルな接遇をしていたことは、多くの人の印象に残ったようで、この点に言及する知人が多かった。

例を挙げだせばきりがないが、こうした動きから見て取れることは、あらゆる業界業種で、垣根が崩れる、ないしは溶ける動きが起き始めている、ということだ。主要企業の出展場所が、従来のホールの区分けを超えて動いているし、またスタートアップと大企業の関係も相対化しつつある。家電というB2Cビジネスが出発点だったCESに、半導体産業や自動車部品メーカーといったB2Bビジネスの企業が出展することが当たり前になり、さらにはモノのメーカーではないサービス業までもが出展をするようになってきた。

広い意味でのスタートアップにしても、デルタのような動きのほかに、Central Hallに加えてSandsにもブースを構えるPanasonicのような動きも出てきている。多くのスタートアップが目標とする「世界を変える」方法も、今までとは違う流れが出てきているのではないだろうか。

これは、大きくとらえると、農業分野で言われている「6次化」のような動きが、すべての産業でおきつつあり、また求められていると理解してもいいのかもしれない。

こうした動きを捉え、自社がどの方向に進むべきかは、あまりにも変数が多く、無数に選択肢がある。進むべき方向について、調査などで結論が出るものではなく、各社が、つまりは経営者が、意思をもってリーダーシップをとり、思い描く未来に向かっていくしかない。未来を最も正しく予測する方法は、そういう未来を自ら作ることだ、ということを改めて痛感する。

そして、境界の消えた、いわば更地の未来の産業地図の陣取り合戦が起き始めているのだ、とも言える。そこでは、明らかに先行者が利益を取る世界になる。もちろん、その過程で失敗する会社も出てくるだろうが、失敗しない方法が確立される頃には、大方の「場所」、特に優位性があり有利な「立地」は先行者に占められてしまっているのではないか。

そんなことを感じた2020年代最初のCESだった。

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