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気候変動分野の取り組みを強化するメディア業界

米大手新聞社ワシントン・ポストが「気候変動」や「ウエルネス(心と体の健康)」分野での報道を強化し、それぞれ20人程度の編集部員を新規に雇用する、という記事が目に止まりました。

記事の見出しを見て感じたのは、今まであまり注力されてこなかった「気候変動」分野において、ここ数年来、スポットライトがあたりつつあるという潮目の変化です。

国内でも日本経済新聞などでは「気候変動エディター」という専門の記者が存在し、紙面全体で「脱炭素」を取り上げる記事が増えていることは感じるものの、全体的に見れば「まだこれから」というメディアが国内外でも多いの現在の状況と思われます。

同時に感じたのは、政治分野に強みを持つワシントン・ポストならではの背景として、トランプ政権時代に有料購読者、広告主を集めていた政治関連の記事が以前程読まれなくなり、ウェルネス・気候変動など、若年層が興味を持ちそうなテーマに力を入れる必要性が生じているのではないか、ということです。

昨年4月のAdWeekの記事によると、フィナンシャル・タイムズはサステナビリティに関連したキャンペーンの価値は(直近24ヶ月で)3倍になったと推定しているとのことです。銀行、ハイテク企業、消費財ブランドなどの主流の広告主がこの話題に触れるようになり、持続可能性の証明について話したいというブランドが増加していることが報じられてます。

こうした機運、潮目の変化はとても素晴らしいと思うのですが、一方で気候変動分野の報道の現場においては大きな課題があることを先日オックスフォード・クライメート・ジャーナリズム・ネットワークにより開催されたセミナーを観て感じました。スピーカーでメディアと気候変動についてのアドボカシー活動を推進しているウルフギャング・ブラウ氏 @wblau による『気候変動:ジャーナリズムの大きな試練』と題した講義では、気候変動を報じる際の現在の課題と今後の可能性に関し、1年間の研究を踏まえ、語られてます。

例えば、現場レベルのオペレーションレベルの課題として、以下のような課題が挙げられています。

『気候変動:ジャーナリズムの大きな試練』ウルフギャング・ブラウ氏のスライドより
  • 気候リテラシー:ジャーナリスト、読者ともに、科学的な知見に基づいた専門的な知識が求められること、また、IPCC、COP等の略語、略語、専門用語が多すぎること。

  • 組織的な問題:現場の記者が書いた気候変動関連の記事が重要性を理解していないデスクなどによって記事化されない、紙面やサイト上のよい位置に配置されにくい。

  • オンライン上の荒らし:気候変動否定論等によるオンライン上の誹謗中傷やヘイトスピーチに悩まされるジャーナリストがいることも残念ながら紹介されてます。特にメンタルヘルスの問題は深刻で、会社の枠を超えてフラットな立場で情報交換・共有を欲する現場の記者の要望がとても強いことも紹介されてます。

  • インパクト指標:ページビュー、クリック率、ソーシャルメディアでのシェア率、セッション時間、スクロールの深さなど、最も一般的な指標においては気候変動関連の記事は読まれにくい傾向は依然存在するため、記事によって会話や行動が生まれる等の指標も必要なのではと指摘されてます。

  • ビジュアル:気候変動関連の記事につけるビジュアル画像として山火事やソーラーパネルなど、いつも同じビジュアル素材しかなく、危機を煽ったり、マンネリ感をもたらしていること。

今年の3月下旬には以下のようなサステイナビリティに関連したイベント「Sustainability Week」もThe Economist主催で開催されるとのこと(今年で7回目)。主要ニュースメディアによる気候変動、サステナビリティ、脱炭素に関連した取り組み強化はますます加速していくのではないかと感じます。

7th annual Sustainability Week(The Economist)

Photo by Noah Buscher on Unsplash

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