企業の成長のカギとなる企業文化の作り方。イノベーションが起きるカルチャーの共通項
皆さん、こんにちは。今回は「企業文化」について書かせていただきます。
ネットフリックスの成功の一因に「企業文化」があると言われています。
それを明文化したのがカルチャーデック。
(※カルチャーデックとは、企業がビジョン・ミッション・バリューなどの価値観や自社の文化について、既存社員や採用候補者に伝えることを目的としたドキュメントのことを指します。)
どんなカルチャーであれば企業の成長につながるのか。
時代とともにカルチャーの作り方は変わってきているのか。
具体的な事例とともに考えていきたいと思います。
合理的で簡潔な人事管理に悩む企業は多い。ウェルチ式と入れ替わるように関心を集めたのがネットフリックスだ。2009年に企業文化と行動規範を示す内部文書、カルチャーデックを公開すると業績に比例して注目度が上昇。ウェブサイトでも詳しく紹介し、経営者や人事責任者による解説本も登場した。
第1の鍵は自由と責任。「お役所的な決まり事」や手続きはやめ、トップダウンの指揮管理も減らし社員の自発性と創造性を引き出した。混乱しないか。きちんと成長できるのか。疑問への答えがフィードバックという第2の鍵だ。
成果や努力への助言を意味するフィードバックは大半の企業にある。しかし毎年か半年ごとの考課で行うのでは、対象となる仕事が「昔の話」になる。ビジネス環境の変化は激しい。称賛も苦言も役に立たず、人材育成につなげにくい。
ネトフリのフィードバックは原則リアルタイム。しかも立場の上下は無関係に360度から受け付ける。そのかわり陰口は禁止で、言いたいことは相手が誰でも本人に実名で伝えよ、と行動規範にも明記する。当初は抵抗感を覚える社員らも、いったん慣れると若手ほど「自分の成長につながる」と喜ぶそうだ。
■「自由と責任」のカルチャー
ネットフリックスが世界の変化に対応することができたのは、
・プロセスより社員を重視する
・効率よりイノベーションを重んじる
という、制約のない「自由と責任」のカルチャーがあったからこそです。
優秀な人材を集めるための組織作りは徹底していて、社員の休暇日数に関する規程はなく、経費規程、出張規程さえも存在しません。「NO RULES」でも触れられていますが、
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▽第1段階
有能な人材だけを集めて能力密度を高める
フィードバックを促し率直さを高める
休暇、出張、支出に関する規程などコントロールを撤廃していく
▽第2段階
個人における最高水準の報酬を払い能力密度を一段と高める
組織の透明性を強化して率直さをさらに高める
意思決定の承認を不要とするなどもっと多くのコントロールを廃止していく
▽第3段階
キーパーテストを実施して能力密度を最大限高める
フィードバック・サイクルを生み出し率直さを最大限高める
コンテキストによるマネジメントでコントロールをほぼ撤廃する
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というステップを踏みながら、
① 能力密度を高める
→優秀な人材で組織を作ればコントロールの大部分は不要になる
→能力密度が高いほど、社員に大きな自由を与えることができる
② 率直さを高める
→有能な社員がフィードバックすることでパフォーマンスの質が高まる
→お互いに対して暗黙の責任を負うようになり、従来型のルールはますます不要になる
③ コントロールを減らす
→管理職には「コントロール(規則)ではなくコンテキスト(条件)によるリーダーシップ」を意識させる
→社員には「上司を喜ばせようとするな」という指針を与える
の3つを徹底することで、世界と社員のニーズの変化に対応しイノベーションを起こすことに成功したのです。
たった5年の間に大きな事業変革を何度も起こし、(「郵送DVDレンタル事業」→「古いテレビ番組や映画のインターネット・ストリーミング事業」→「外部スタジオが制作した独自コンテンツのライセンス配信」→「自社でコンテンツ制作する体制を構築」→「世界190カ国を対象にコンテンツ配信をするグローバル企業へ」。)驚異的な成長を遂げた企業だからこそ、説得力があります。
■イノベーションを起こせる企業の特徴
引用した記事には、
カルチャーデックや解説書は先輩企業や人気の経営理論にも容赦ない。GEやマイクロソフトが誇ったスタックランキングは「チームワークを壊す」とかねて全否定してきた。アップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏をまねて製品や業務の細部まで口を出すマイクロマネジメントも「自主性を阻害する」と退ける。
グーグルが生産性の要とうたう心理的安全性(自分が受け入れられる空気)作りも不要。流行のエンゲージメント論(やる気が成果を左右するという主張)にも「やる気そのものが目的化する」と手厳しい。
とありましたが、いくつかの先進企業の事例を見ていきます。
●アマゾン
→元CEOのベゾスさんの言葉に以下のようなものがあります。
・私たちが他と一線を画す領域の一つは失敗だ。おそらくアマゾンは世界一失敗できる場所だと思う。
・発明と失敗は紙一重で、イノベーションには実験が欠かせないけれど、うまくいくとわかっていることは実験とは言えない。
・多くの大企業はたくさんの発明のアイデアを持っているけど、失敗が続く苦労を喜んで受け入れられていない。
通常はどの企業でも失敗の蓋然性が高いとそのリスクを前にして萎縮してしまいますが、アマゾンといえば「失敗を恐れない文化」が根付いていると認識している人は自社の社員以外にも多いはずです。高い失敗確率を喜んで受け入れ、失敗を良しとする社内体制を実際に構築しているのです。
●マイクロソフト
→マイクロソフトが一度はモバイル化、クラウド化という技術革新の波に乗り遅れてから復活を遂げる過程において、事業の変革だけでなく企業文化の変革にも着手した点は注目すべきポイントです。「PCからモバイルへ」「パッケージソフトからクラウドへ」という改革を断行する上で、企業文化の変革は必要不可欠でした。
「そんなこともう知ってるよ」という“固定マインドセット”から、「知らないから教えて」という“成長マインドセット”を重要視し、好奇心のカルチャー、共感のカルチャーを会社の中心に据えたそうです。
その結果、「柔軟性に欠け、階級や序列が幅を利かせ、自発性や創造性がおろそかにされていた」とされていたかつてのマイクロソフトの文化は、既得権益にしがみついて正しさだけを求めるのではなく、チャンレジや変化を促し、新しい取り組みを受け入れる文化へと変化していきました。
●グーグル
→チームの効果性に影響する5つの因子が「心理的安全性」、「相互信頼」、「構造と明確さ」、「仕事の意味」、「インパクト」であるとした中で、最も重要なのが「心理的安全性」であるというグーグル独自の研究は、世界的な心理的安全性ブームを作りました。ミスや失敗を非難されることのない、心理的安全性の高いチームの方が高いパフォーマンスを発揮するとしたのです。
その他にも「20%ルール」という、業務時間の20%を本業以外のプロジェクトに費やしてもよいとする仕組みなどもあり、働き方も含め社員を全面的に信用し、心理的安全性を担保した上で自由と責任をセットで与えています。
これらの先進企業の事例を見る中で、共通点を見つけるとすると、各企業の企業文化は、「それまでの歴史や日々の積み重なりによって自然と作られてきたもの」というよりは、「目指したい方向性や価値観を明確にした上で意図的に作られてきたもの」という点ではないでしょうか。
特に会社の戦略的に大きく舵を切る必要があるタイミングにこそ、企業文化もセットで変えていかないと、社員が目指す先が分からないままただ混乱だけを生み、結果的に戦略の実行フェーズにおいて期待する成果が出せないのです。
企業文化は「企業が発展するための前提となるもの」であって、「企業の成長を支えているもの」であると言えると思います。そしてそこには、「規律」や「ルール」、「マニュアル」を徹底してやってはダメなことを細かく定義していくよりも、自発性や創造性、チャレンジ精神、好奇心や探求心、チームワークや相互信頼などを生み出せるような、『自由度の高さ(もちろん責任はセット)』が重要視されていたことが分かります。
極端に言えば、優秀な人材さえ揃えることができていれば、社員に「自由と責任」を与えるだけで社員の士気が高まり、良いアウトプットをしてくれるということです。ただ、その前提には会社が求める一定の価値観が存在していて、社員はそれを体現することが求められているという点も補足しておきます。
■ネトフリ式のカルチャー作りが標準になるのか。
社員を大人として扱い、会社が過干渉しないネトフリ式が新たな標準になるかどうかはまだわからない。ネトフリ自身も「合う人と合わない人がいる」と認める。急成長を続けてきたため輝いてみえただけで、過去にもてはやされた幾多の経営論と同様、いずれ否定される可能性も十分ある。
一方でネトフリを追うように、カルチャーデック作りに取り組む企業も増えている。仕事の最大のモチベーションは恐怖や強欲、居心地ではなく仕事そのものの楽しさ。この発想がイノベーションや生産性向上のヒントを含むのも確かだ。
とありましたが、ネットフリックスの「自由と責任」のカルチャーは、優秀な人材を集め、コントロールを撤廃しクリエイティビティを高め、スピード感を持って柔軟性やイノベーションを生み出すためのヒントを与えてくれました。
「自由度が高く個人の責任意識が強い組織」と、「締め付けが強く他人に依存し個人が責任を持たない組織」とでは、どちらが想像力豊かに新しいアイディアを形にできるかを考えると答えは明らかです。
ですが、企業文化の醸成においては、正解・不正解はなく、企業理念の役割やその優先順位は必ずしも一様ではありません。全ての企業がネットフリックス式の文化を急に取り込んでも、機能するはずもありません。
通常はミッションやビジョンをベースに、コミュニケーションを組み立ててから改めて企業文化や価値観を明文化していくケースが多いと思いますが、言葉だけでなく、環境や場づくりを通じて企業文化を作っていくアプローチ方法も当然あります。
自社の事業モデルや会社全体の戦略、社員の価値観などにも合わせて、オリジナルな企業文化を醸成していくことが何より大事です。
最後に、ピーター・ドラッカーの「企業文化は戦略に勝る」という言葉。
戦略だけを一生懸命頭でっかちに考え続けていても、それを実行するチームや組織の風土、雰囲気、価値観、共通指針などが整っていなければ、せっかく考えた戦略をスムーズに実行できる体制がありません。逆に、素晴らしいカルチャーさえあれば、戦略が仮に十分でなくとも目標を達成させられる可能性は高まるということです。
会社に変革を起こしたいのであれば、まずはカルチャーを変える。
今まで作られてきた自社のカルチャーを良い意味で疑い、前例主義にならずに、常に「今の会社にとってのベストは何か」を考え、最善な道を選択していくことが求められているのだと思います。そしてそれは、経営層や管理職など会社の中の特定の人だけが考えることではなく、社員一人ひとりが自分事として捉え考えるべきことのように思います。そういう人が多ければ多いほど「戦略をも上回る、強い企業文化作り」の実現に直結していくはずです。
事業のビジネスモデルが時代とともにどんどん形を変え、アップデートされ続けていくように、企業文化の形も時代とともに変わっていくものであり、むしろ意図的に、大胆に、“変えていくべきもの”なのではないでしょうか。
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