企業内スタートアップの罠とジレンマ④〜ユニークじゃなければバリューじゃない(中編
© comemo992439091
お疲れ様です。uni'que若宮です。
企業内新規事業の連載も4回目。前回からは、僕の企業内スタートアップ論の一番のコアとなる、コアバリューについて書いております。
コアバリューはいかにあるべきか?
前回、コアバリューは「あれもこれも」にならず、”一つ”の本源的な価値が明確に据えられていることが重要、ということを書きましたが、このバリューは当然ながら、一つならなんでもいいというわけではありません。
「はたしてどんなバリューであるべきか?」について今回は書きたいと思います。
ちょうど今日、こういう記事を読みました。知ってる方は齢がばれる、Dr.マシリトこと鳥嶋さんの仕事論です。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1810/26/news017.html
このインタビューを読んで、さすがDr.マシリトはコアバリューしっかりしているなあと思いました。
さて、僕の考えるコアバリューの要件は
・1.ユニークである。
・2.浸透する。
・3.やらないことを決める。
この3つです。それぞれ、解説していきます。
1. ユニークである。
「ユニークでなければバリューじゃない」と挑発的なタイトルをつけているのでわかるかもですが、僕がコアバリューでもっとも大事にしているのが「ユニークさ」です。
まず、ユニークとはなんでしょうか?
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日本語の語感で「ユニークな服装をしている」とかいうとき、どこかしら「風変わりな、突飛な」という感じがありますが、「ユニーク」は別に変わり者である必要はありません。「ものすごく平凡」というのもユニークさなのです。
「uni」とは「1つ」ということ。「1つっぽい」というのが「ユニーク」です。
他にはない、世界に一つだけのバリュー。(ここからサビ)
※そうさ 僕らは 世界に一つだけの花一人一人違う種を持つその花を咲かせることだけに一生懸命になればいい
この他でもない、一人一人違う、というのがとても重要なのです。
そうなっていないバリューは、前回述べた「世界平和バリュー」に近づいてしまっている。
これはごく簡単なチェックで調べることができます。自分たちのバリューを、たとえば競合や類似するプロダクトなどに適用してみてください。そのバリューは他社にも当てはまらないか?もし他にも当てはまるとしたら、それはまだバリューがちゃんとユニークにはなっていない、ということなのです。
ユニークなコアバリューの事例として僕がよくあげるのが、スターバックス(以下スタバ)です。
スタバのコアバリューはThe third place。家でも職場でもない「第三の場所」ていうやつです。
このコアバリューの何がユニークなのか?
普通、コーヒーショップをやる時にコアバリューを定めるとしたら、「〇〇なコーヒー」とコーヒーにバリューをおきます。
しかしスターバックスは「場所」においた。これがユニークなのです。それは「究極いうと僕らが売るのってコーヒーじゃなくて場所なんだぜ」と宣言しているということ。
実は当初は、スタバもただのコーヒー豆販売店だったのです。ですが、前会長のハワードシュルツがイタリアに旅行した際に行ったエスプレッソバーに感動して、今みたいなスターバックスをつくりあげた。
https://matome.naver.jp/odai/2138579876601865101
そんなスタバだから、大事にするのは「コーヒーよりも場所」。ソファや照明にこだわったり、隈研吾と太宰府天満宮にかっちょいい店舗をつくったりします。コーヒー通からは「スタバのコーヒーは対して美味しくないのに高い」という批判も聞きますが、スタバにとってはそれでいいんです。コーヒーがコアバリューじゃないから。なんならコーヒーじゃなくなっていい。「プリンセスをモチーフにしたハロウィンプリンセス フラペチーノ®」だっていいわけです。
他のコーヒーショップがコーヒーで勝負する中、自分たちは「場所」で勝負する。まさにユニークバリューです。
ノマドワーカー御用達のスタバ。「Macbookドヤァ」という言葉がありましたが、
こんなことまで起こるのは、スタバが「場所」を提供する企業だからことの証左であり、ドトールには当てはまらないユニークなバリューなのです。
なぜユニークでなければバリューじゃないのか?
新規事業の相談を受けた時、よく「箱ティッシュになるな」という話をします。
研修やワークショップで「今この瞬間、部屋においてある箱ティッシュのブランドわかる人はどれくらいいますか?」という質問をするのですが、どのブランドか覚えている人はとても少ない。だいたい5%くらいしか答えられない。ブランドが答えられても「じゃあそのティッシュのメーカーってわかります?」と聞くと、答えられるのはさらに4分の1くらい。
しかし続けて「スマートフォンは何を使っていますか?」と聞くと、「iPhone6s」とかブランド名だけでなくモデル番号まで覚えている。メーカーを知らない、という人はほとんどいません。これはApple社のユニークバリューが箱ティッシュに比べ圧倒的に強いからです。
ユニークさが弱いとどうなるのでしょうか。
箱ティッシュのブランドをなぜ覚えていないか、と言えばそれは他でも代替可能だからです。いつもネピアを使っていても、スーパーに行って50円安かったらPBのやつを買っちゃう。それが箱ティッシュです。でもiPhoneを買いに行って、5000円安かったからGalaxyを買って帰ってきた、という人はあまりいません。
そしてこれは成熟市場になるにつれ、より重要になってくると考えています。モノが不足していた時代には、量としてニーズの方が大きいので、まったく同じようなモノでも作れば売れました。ですが、モノが行き渡った成熟市場ではユニークでなければ選ぶ意味がないのです。
「世界に一つだけのバリュー」、それは企業の存在価値そのものでもあります。
※繰り返し
もし、あなたの企業が、他と同じような事業しか展開していないとします。それは究極をいうと、なくてもいい事業だということになってしまう。なぜなら、競合でもそこを埋めることができるからです。反対にそこにしかない事業をやっていれば、代わりがいないので社会はそれを潰すことはできない。
同じようなものがたくさんあると、過当競争に巻き込まれることになります。値下げをしてどんどん利益幅を減らしていき、体力がなくなれば潰れてしまう。でも箱ティッシュのブランドが一つ今この世から消えても消費者はあまり困らないかもしれない。他のを使えばいい。企業にとって、事業として、これはとても辛い。
2. 浸透する。
次に大事なのが「浸透する」ということです。コアバリューを定めるにあたり、コアバリュー・マップというのを作るのですが、
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ここにある要素は、すべてコアバリューから導出される必要がある。
コアバリューは、ただのお題目ではなく、バリューチェーンや企業活動の全てを貫いていなければならないのです。
「浸透する」バリューの典型的事例としてあげるのがディズニーです。ディズニーには「魔法」というコアバリューがあります。
「魔法」というバリューを顧客に提供するために
・裏側を見せないようにバックヤードを全部地下に埋めたり、
・掃除するキャストがモップで突然ミッキーを書いたり、
・お土産にキラキラ光って動くギミックをいれたり、
・ロゴやサイトに妖精の粉のようなキラキラをまぶしたり
顧客とのタッチポイントの全てにおいてディズニーには「魔法」が浸透しているのです。
もしこれが崩れるとどうなるか?
一度、ディズニーシーに行った時、こんなことがありました。
シーの最後の目玉に「ファンタズミック!」というショーがあります。ディズニーシーで1日過ごし、最後のショーを下の娘を抱っこして見ていた時、急にショーの音が消え、真っ暗になった。
「あれ?どうした?」と思っていると、こんなアナウンスが流れました。
「本日のショー『ファンタズミック!』はシステムエラーのため、中止いたします。」
「魔法」が解けた瞬間でした。
「システムエラーて・・・」
せっかく「魔法」を提供しているディズニーなのだから、もちろん大人はわかっているにしても「ミッキーの魔法の杖が調子悪くて」とか言ってくれたらよかったのに。これ以来、長女はディズニーランドに連れていっても「ディズニーランドって夢と魔法の王国っていうか、作り物とプログラミングの国だよね」などというようになりました。(しかもこのショー、ドコモの提供だったりして、当時ドコモの勤めていた父はどうにも決まりが悪かった)
このように、コアバリューは顧客とのそれぞれのタッチポイントにちゃんと浸透していることが大事で、全てがそこに向かっていて初めて、顧客のなかでその企業のユニークなバリューが像を結ぶのです。
3.やらないことを決める。
三点目になりますが、実は日本の企業が一番苦手なのが「やらないことを決める」ではないかと思っています。
僕のコアバリューメソッドは、知る人ぞ知るゲームクリエイターの故・飯野賢治との出会いによって生まれていて、彼のメソッドを半分くらい受け継いでいるのですが、飯野賢治が晩年に手がけたプロジェクトに、旅館のリブランディングがあったそうです。
この旅館は「二人だけの時間」というのをコンセプトにし、「おふたりさま限定」というリブランディングで人気を取り戻したのですが、飯野賢治はこのバリューを徹底するため、「時計を置かない」「テレビを置かない」という「やらないことを決め」たのです。
https://www.tokinoyado.com/about/
夫婦二人で旅行に行っても、だらだらテレビをみてしまう。会話はほとんどありません。そうではなく、日常の時間も忘れて「二人だけの時間」を過ごすしてほしいから、その邪魔になるものは入れない。たとえ当たり前にあるものだったり、ないと不便でも時計すら置かない。バリューにプラスにならないもの、マイナスになるものは捨てる、という「捨てる勇気」がコアバリューに大事なのです。
もう一つの事例として、「やらないことを決める」の例でいつも挙げていたのはコカ・コーラ”でした”。コカ・コーラのコアバリューは「爽やか」や「リフレッシュ」で、これに沿って何をやらなったか?というとアルコールを売らなかった。
飲料メーカーにとって、アルコール飲料は常習性もありかなりのドル箱です。それでもやらなかった理由は、アルコールは必ずしも「爽やか」な体験ばかりではないから。二日酔いが酷い日には「爽やか」という言葉に殺意すら覚えます。そうするとアルコールにはバリューと背反する時がどうしても出てしまう。
ですが、コカ・コーラはこの春からアルコールを売り始めました。まだ日本のみのテストマーケですが、コカコーラほどのブランドカンパニーなので、考えなしにそうしたということはないと思います。コカコーラがコアバリューをどう変え、またこれまでとは違う価値をどのように育てていくのか、個人的にとても注目しています。
どうやってユニークなバリューを見つけるか?
さて、
・1.ユニークである。
・2.浸透する。
・3.やらないことを決める。
三要件について書いてきました。みなさんの企業の、事業のコアバリューはこれらの要件を満たしているでしょうか?
冒頭載せた、鳥嶋さんのインタビューでは
・1.ユニークである。
僕は良く新入社員に「なぜクレヨンや絵の具はあの数だけ色があると思うか?」と聞くのです。何でだと思います? 色が少ないと描く絵が限られるからです。いろんな絵が描けるように多くの色の数があるわけです。だから一色に限る必要はないのです。
・2.浸透する。
『ドーベルマン刑事』の例を話しましたが、1つの思い付きを作家に伝え、実際にやってもらったことで1位が取れたわけですよね。
・3.やらないことを決める。
そして本当に優れているのかを自問自答しながら、一つ一つ消していったんですね。その結果、残ったのがたった1つでした。「人より多く本を読んでいる」ということ、これしか残らなかったんです。あとは人より秀でている部分は何もないということが分かりました。
というあたりに対応するでしょうか。
とは言っても、やはり「鳥嶋さんのような人は不世出の天才で、自分はそんなに"ユニーク"じゃない」と思われる方も多いかもしれません。
ですが、前に述べたように「ユニークさ」というのは風変わりや突飛さではありません。自分では平凡だと思っているところにも、ユニークさというのは本来あるのです。
※繰り返し
ただこれを見つけるのはなかなか難しい。コアバリューの話を少しすると「ほえー、それはその通りですね!やってみます!」といって自社で取り組まれるケースもあるのですが、あとで聞いてみるとすごいほわっとした「世界平和バリュー」に終わってしまっているケースがとても多い。
というのも、「ユニークさ」を掘り出すにはいくつかの罠があり、それを掘り出すにはある種のスキルというか、”勘”のようなものが必要なのです。こういうととても偉そうで僭越なのですが、実際のところ、素人が浅い理解で見よう見まねでやると事故ってしまう。
次回はコアバリュー完結編として、ユニークなバリューを見つける上での罠やコツについて書いてみたいと思っています。
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