「出向起業」で鳶が鷹を生め!
会社ではできないけど挑戦したい思いをどうするか?
勤め人であっても、本気で物事に取り組んでいると、「組織の事情で挑戦できないが、どうしてもやりたい」何かと出会うことがある。それは会社員もそうだし、大学教員もそうだ。私の場合は、学生の起業に対して授業の枠にとらわれない支援がしたく、同時に企業に対しても直接的なかかわり方を通して自分の研究成果の実践がしたくなり、教員をしながら会社も作った。組織には組織の事情があり、それを超えるのは簡単ではない。しかし、自分で組織をゼロから立ち上げてしまえば話は変わってくる。
だが、当然のこととして、起業は大変な挑戦だ。どこかに勤めながら、自分の会社を作るとなると、ほとんど自分の時間なんてものは存在しなくなる。しかも、会社の立ち上げは思うようにいかないことの連続だ。やっていると、「なんで、こんな大変な道を選択したんだ?」と自問自答する場面がたくさんある。成功した後なら違うのだろうが、その途上にいる時点では、割に合うかというと割に合わない。
しかし、そんな大変な「勤めながらの起業」だが、他人に勧めるかというと胸を張って勧めたい。自分のやりたいことにダイレクトに挑戦できるという幸福は代えがたいものがある。
勤めながら起業するという選択肢
そんな「勤めながらの起業」を後押しする企業も増えてきた。そんな後押しする形式の1つとして、日経新聞の記事では「出向起業」が紹介されている。
「出向起業」とは、会社員が所属を退職せずに、出向の形で新会社を立ち上げる。事業がうまくいかないときには会社に戻ってくることができるし、うまくいったときに原籍とのシナジーがあればバイアウトもできる。事業の立ち上げも、原籍のCVCから投資を受けることで資金調達の負担も大きく軽減することが可能だ。
記事の中では、東レと日揮ホールディングスの取り組みが紹介されている。また、ホンダやPanasonicも似たような取り組みを行っている。会社を辞めなくても起業に挑戦できる時代がやってこようとしている。
企業にとって、将来の幹部候補の資質として「起業家精神」を求める傾向が強まっている。不確実性が高く、変化のスピードが早い現代において、伝統を守るのではなく、変化に応じて自らの在り方を変え続ける未来志向のスタンスが期待されている。この未来志向のスタンスを支えるのが「起業家精神」であり、「勤めながらの起業」は「起業家精神」を養うのに最適だ。
日本のイノベーションは、振り返ってみると企業発起業で生まれることが多い。シリコンバレーからゼロから若者が生み出す米国との大きな違いだ。豊田自動織機からトヨタ自動車が生まれ、アサヒシューズからブリヂストンが生まれた。富士通は富士電機から出てきた。これらの会社は、母体よりもはるかに大きな企業へと成長している。まさに鳶が鷹を生むのことわざが示す通りと言えよう。
「出向起業」などの「勤めながらの起業」の機会を活かして、是非、第2・第3のトヨタが生まれ出ることを期待したい。