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温暖化の目標は、バナナのたたき売りではないわけで。

2050年あるいは今世紀後半と言った長期にわたるわが国の温暖化対策の戦略案がまとまりました。パブリックコメントの受付等を経て、国連に提出することとなります。

今の案に書かれている「目指すべきビジョン」をご紹介すると、”最終到達点としての「脱炭素社会」を掲げ、それを野心的に今世紀後半のできるだけ早期に実現するとともに、2050年までに80%の削減に大胆に取り組む”となっています。

2050年ー今から約30年です。現時点で日本が1年間に出す温室効果ガス(ほぼCO2)は約13億トン。近年で最も排出が多かった2013年(福島原発事故によって日本中の原発が停止していたことが大きく影響)だと14億900万トンでしたので、この年を基準にしたとしても、14.09×0.2=2.8億トン。80%削減というと、2050年に日本が輩出できるCO2は3億トンにいかないわけです。今の鉄鋼産業と化学産業から排出されるCO2を足すとだいたいこれくらいになってしまいますので、もし2050年にこの2つの業界が今と同じ技術で、今と同じ生産量を維持していたとすると、日本はそれ以外何もできないということになってしまいます。それでは国として、国民の生活や経済活動を維持できません。もちろん鉄鋼産業も化学産業も技術革新はあるでしょう。ただ、鉄鋼産業のCO2削減対策として日本の鉄鋼業界が進めるCOURSE50という研究プロジェクト(2050年までの実現を目指すことからこのプロジェクト名になっています)では、鉄鉱石の水素還元と、排出されるCO2をアミン系の溶液をくぐらせて分離・貯留するCCSを併用して、だいたいCO2の3割削減が可能になるとしています。逆に言えばここまでやって3割なわけです。

こういう技術の実態を知っていると、安易に「もっと野心的な目標を」ですとか「イノベーション頼みでいいのか」と言った批判はできません。日経の社説「温暖化対策の長期目標は『野心的』か」毎日新聞の社説「脱炭素への長期戦略 新たな技術頼みでは危ない」はそういう意味でどちらも、残念ですが上滑りな記事になってしまっています。80%では野心的とは言えない!90%だ!いや、95%だ!!と目標を引き上げてもいいですが、根拠のない数字はバナナのたたき売りよろしく、他国から見ても安く見えるというか信頼できないと思いますよ。

環境問題って、ついきれいごとを言ってしまいやすいというか、きれいごとを言っている人の方がいい人に見えるので、朝日新聞の「消えた『石炭火力全廃』 有識者懇の座長案に産業界反発」という論調になりがちなのですが、この記事も誰が高い目標を言おうとした、かではなく、誰が責任をもって掲げた目標の達成まで考えたか、の視点で考えれば書き方が全く異なってくるわけです。

イノベーションがカギであることは、パリ協定にも書かれていることで、各国の長期戦略を見ても、イノベーションの重要性は繰り返し書かれています。日本はコスト目標も含めて書けることをできる限り書いたという点で、むしろ評価されてもいいように思います(ほかの国より遅かったんだからそれくらい当たり前と言われそうですが)。ということで、ぜひイノベーションを実現して、実際に世界のCO2削減に貢献する日本であってほしいと思います。


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