今こそ経済安全保障への対応が必要な理由
「トランプ2.0」日本や欧州どう向き合う 識者に聞く 白石隆氏/キショール・マブバニ氏/ケストゥーティス・ブドリース氏 - 日本経済新聞
バブル崩壊以降の日本経済は、マクロ安定化政策を誤ったことでデフレが長期間放置されてしまいました。そして、設備への成長投資が十分になされなかったこともあり、経済成長が長期停滞を続ける「失われた30年」という状況が続いています。
設備や人への投資を促して経済の長期停滞から抜け出すためには、経済全体や企業それぞれの成長期待が高まることが必要であり、それによって設備への投資が拡大すれば、需要拡大を通じた生産性向上により賃金も上がり、経済成長の好循環につなげることができるでしょう。
対外経済状況は、自由主義と権威主義といった異なる政治経済体制間での緊張の高まりを背景とした不確実性の高い状況に変化しています。実際、我が国の交易条件は為替レートや輸入価格、輸出競争力等の要因によって左右されるが、米国の交易条件が安定的に推移しているのに対し、日本の交易条件は90年代後半以降、著しく悪化しています。
こうした中で、政府も将来にわたる我が国経済安全保障上の産業・技術基盤として、コンピューティング、クリーンテック、バイオテック、防衛等の分野が不可欠とし、それぞれの分野で特に重要なサプライチェーンに注目し、その維持や発展に政策資源を集中的に投資するとしています。特に、経済安全保障上重要なサプライチェーンにおいてカギを握る物資や技術を特定した上で、技術革新の動向に加え、我が国における相対的な優位性や対外依存度を分析把握し、強靭化に向けた適切な政策手段を当てはめていくとしています。
日本の製造業賃金は2022年時点でシンガポールや韓国の3分の2程度の水準まで下がっていますが、人件費だけで考えれば、依然として生産拠点としての優位性はタイやフィリピンなどの新興国に分があります。このため、日本が立地競争力を得るには、コモディティ化した製品というよりも、そうした新興国では供給できない高い技術に裏打ちされた製品を生み出す国になることが求められます。そのためには、高度な研究開発を可能とする人材投資も必要でしょう。
為替動向にかかわらず、気候変動対策や経済安保、格差是正等の将来の社会・経済課題解決に向けてカギとなる技術分野や戦略的な重要物資、規制・制度等に着目し、国内の強みへの投資が今まで以上に必要となってくるでしょう。