クラウドファンディングが、音楽業界のブラックボックスを解放していく
前回、これまでMotionGalleryに掲載してきたクラウドファンディングのプロジェクトがこの社会を変えてきたというお話をした。映画やアートのプラットフォームだと思われがちなMotionGalleryだが、その他のクリエイティブなプロジェクトも、もちろんたくさん掲載されきた。今回は音楽にスポットをあてて、社会にインパクトを与えてきた事例を振り返ってみよう。
クラウドファンディングのプラットフォームが起こり始めた2011年、今のようにたくさんの人が配信で音楽を楽しむことも、それにより音楽業界の収益構造が大きく変わることも予想こそされていたがリアリティはなかったのではないだろうか。MotionGalleryでクラウドファンディングに挑戦したプロジェクトは、音楽業界のファンとアーティストのあり方を変えることで社会に大きなインパクトを残した。
例えば、16年間走り続けて来た侍JAZZバンド「PE’Z」の 一夜限りのラストライブの永久保存版映像を作るというプロジェクトや、
vo.佐藤伸治の急逝から20年、『フィッシュマンズ』の映画化プロジェクトが大きな支援を集めた。これらはファンの絆によってバンドの歴史を彩れることを証明した。
まだ全く認知されていなかった2013年に風営法の問題提起を行った『SAVE THE CLUB NOON』。今でこそ、風営法に対する世間の認識が大きく動き、「東京ナイトメイヤー構想」も立ち上がるほど世論が高まっているが、その全ての起点となったのがこの『SAVE THE CLUB NOON』といっても過言ではない。
映画『SAVE THE CLUB NOON』は、2012年4月、風営法により摘発された大阪の老舗クラブ[NOON] (前身[club DAWN])。 クラブミュージックのみならず様々なジャンルのアンダーグラウンドな音楽シーンを支えた、いわばカルチャーの電波塔だった NOONへの「感謝」、そして「救済したい」という想いを伝えるべく、豪華ミュージシャンたちは20分や30分の少ない持 ち時間でマイクをリレーする……。この映画は昨年の7月、4日間に渡り開催されたイベント『SAVE THE NOON』を追いかけたドキュメンタリー映画。
まさにこのNOON裁判が世論を大きく動かしたのだが、この動きの始発点にいたのがこの『SAVE THE NOON』だった。なので逆に言うと、当時クラウドファンディングで劇場公開費用の300万円を集めるのは大変な思いをしたなあと今でも本作のプロデューサーであり、写真家の佐伯慎亮さんや宮本杜朗監督とも今でも語り草になっている。当時「風営法」の問題があると呼びかけてもなかなか響かずクラウドファンディングも苦戦。この関係者の煮えたぎる思いがなぜ数字に結びつかないのか。3人で悩みに悩み、そしてキャンペーンの舞台をNOONのある大阪から、東京に移し、風営法の問題を提起するイベントをやり続けた。
結果として、「風営法の何が問題なのか」という理解が広がり、またたくまに400万円を超える応援が集まった。そんな大きな一石を投じた映画の公開から、更に歴史を創ることとなるNOON裁判へとつながっていくのであった。我々は本当に、このプロジェクトで、音楽の周りにある環境を大きく変える事が出来た、そんな大きなプロジェクトだと思っている。
現在進行形で支援を集めている、宍戸留美による「声優、宍戸留美が歌う架空のキャラクターのオリジナル応援ソング!!」。18歳でフリーアイドルとなって現在のインディーアイドルブームの先陣となっている宍戸留美。現在、アーティストとレーベルや事務所との新しい関係性が見直されたり、作り直そうとする機運があるなかで、それをかなり前から取り組み、そして活躍してきた彼女の歌手活動の新しいフェーズに、クラウドファンディングという仕組みが活用されているのは偶然ではないかもしれない。
才能があれば、事務所や組織の後ろ盾などなくても、個人で世界と闘える、そんな世界観はクラウドファンディングのベースにある。そんな新しいアーティスト像が生まれてくる、そんなプロジェクトだと思う。
「フジロック、NHK Eテレ、パリコレ、YouTube世界4位・・・
いろいろ話題のエレクトロポップデュオ「レ・ロマネスク」と日本の老舗NGOのJVCが奇跡のコラボ?!」は、話題性抜群のアーティストが、JVCというNGOが30年以上活動を続けているカンボジアでの活動を音楽で応援するというまったく新しい、社会貢献と音楽活動の道筋を作ったプロジェクトだ。
バンドの有終の美を飾る、眠っていた作品を呼び起こす、問題提起をする、コラボレーションを実現する...これまでレコードレーベルや音楽事務所がになってきた公開されていなかった役目は、クラウドファンディングによってファンの手に渡っていくのかもしれない。