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テレワークの生産性を高める4つの整備

「働き方」は個人が自由に決める時代

日本におけるテレワークの現状は、見事に二極化して落ち着いてしまった感がある。日本全体を見渡すと、テレワークは世界と比べて後進国と言える現状だ。7割強の企業はテレワークを実施していない。

その一方で、テレワークを使いこなしている企業も一定数ある。ヤフーでは、従業員の約9割がテレワークで仕事の効率が向上する、もしくは変わらないと評価している。その結果、国内なら居住自由で朝11時に出勤できる場所ならどこに住んでも構わないという。福岡の様に空港が町中にある5分にあるような都市(福岡空港は博多駅から電車で5分)だと、片道2時間半で品川に着いてしまう。朝8時半に家を出て、空港のラウンジで朝ご飯を食べ、飛行機の中でメールチェックをして、11時にオフィスに到着だ。

テレワークで国内のどこからでも働けるということは、働く場所だけではなく、就業時間のような時間からも解放されることがセットとして付いてくる。ユニリーバ・ジャパンの人事制度は、名前からしてこのことを表している。同社は2016年から「WAA」(Work from Anywhere and Anytime「どこからでもいつでも働ける」)を導入している。

テレワークは丁寧に準備をしたから成功している

当然、テレワークがうまくできるかどうかは企業や業種によって向き不向きがある。生産拠点という物理的な現場を持ち、それが競争優位の源泉となっている製造業では、テレワークはうまくいかない。また、飲食店の様に接客と料理の提供を生業としている企業も難しい。しかし、そのような企業であっても、リアルな現場を必要とする職種ばかりで構成されているとは限らない。日産自動車や富士通の様にリアルな現場を持っていてもテレワークで生産性を高めている企業はある。全体か部分的かは異なっても、理屈上はほとんどの企業でテレワークを実施できる。

それであっても、この手のテレワークの成功事例を紹介すると「この会社だからできたんだ」「IT業界だからできるんだ」という声が耳目に触れる。ヤフーアカデミア学長の伊藤羊一氏は、ヤフーがテレワークをうまく運用できているのはIT企業だからではなく、10年にも及ぶ準備の成果だと述べている。ヤフーにおける取組事例は同氏のコラムに詳しいので是非、参照いただきたい。

それでは、今回のコロナ禍では急なことで対応が間に合わなかったが、これを切っ掛けとしてテレワークを普及していきたい企業は何から手を付けるべきなのだろうか。また、準備といったところで、何をすべきなのか。

ヤフーをはじめとして、リクルートやサイボウズ、日産自動車、富士通のような、テレワークで生産性の向上に成功した事例を整理していると、4つの分野でテレワークのための整備をすることが効果的な取り組みとして見えてくる。

テレワークの生産性を高める4つの整備

環境の整備

1つ目の要素は、環境の整備だ。自宅でも仕事環境が整えることができるように、設備購入やWifi環境整備の補助金、機材の貸し出し、必要なソフトウェア(クラウドベースのコミュニケーションツール、ファイル共有アプリ等)の提供などが当てはまる。情報漏洩などのセキュリティ強化のため、仮想デスクトップ環境(VDI)のようなシステムの導入をするところもある。

テレワークをはじめとしたDXを進めるためには、初期費用と定期的なメンテナンス費用が必要とされる。このコストを負担することができずに変革に二の足を踏むことになるケースは多い。ニッセイ基礎研究所の金明中氏は、テレワークが日本で普及しなかった理由として、設備投資や従業員への支援など、環境面での整備が十分ではないと指摘している。

上司・部下間のコミュニケーションの整備

テレワークに対する不安でよく聞かれるのが、上司が部下の働きぶりを知ることができず、コミュニケーションも取れないというものだ。最近は、「そもそもコミュニケーションをとっていなかったのにテレワークになって騒ぎ始めた」という笑い話も聞かれるが、対面ではなあなあでもなんとかなっていた上司と部下のコミュニケーションが、テレワークだと生産性に直結して響いてくる。能動的にコミュニケーションをとろうとしなければ、テレワークでは完全に交流が絶たれることになる。

伊藤羊一氏のコラムにもあるように、対策は管理職に対して部下とコミュニケーションを持つように徹底するしかない。この制度自体も運用が難しく、うまくいっている企業とそうではない企業に差が大きいのだが、1on1ミーティングを週1回などの短いスパンで頻繁に行うことで改善してる企業はいくつも確認できる。ただ、1on1ミーティングを運用するためには、フィードバックをする上司とフィードバックを受ける部下双方に対して教育訓練に投資が必要だ。コンカーの三村 真宗社長は、特にフィードバックを受けた側がどのようにフィードバックを受け入れ、解釈し、行動に落とし込むかのトレーニングが重要だと述べている。

部署内の同僚間のコミュニケーションの整備

テレワークでコミュニケーションに断絶が生まれやすいのは、上司と部下だけではない。部署内の同僚の間でも同様だ。特に、日本の職場は諸外国と比べたときに交流のある人間関係が希薄な傾向にある。

リクルートワークス研究所による「5カ国リレーション調査」では、調査対象5カ国(日本、アメリカ、フランス、デンマーク、中国)の中で、日本の社会人の人間関係が乏しく、そのほとんどが家族と職場にしかないと述べている。その中でも、比較的交流のある職場の同僚(65.2%)であっても、5カ国中最下位だ。

共に働く同僚とのコミュニケーションを円滑にするための仕組み作りは、テレワークにとって重要だ。特に、顔が見えない相手に対して、人は厳しく当たりがちになる。そのため、お互いに思ったことを率直に言い合えるような心理的安全性の構築がオンライン上だからこそ、対面よりも重要性が増す。

部署間のコミュニケーションの整備

仕事におけるコミュニケーションで、上司と同僚と同じようにトラブルが起きやすいのが、共にプロジェクトにかかわる他の部署だ。昔から、新製品の売り上げが思うように伸びなかったときに、開発部門は営業の実力不足を指摘し、営業は開発部門が市場を無視していると互いに責任を擦り付け合うと言われるように、部署間の関係性は繊細だ。

テレワークで部署内のコミュニケーションの頻度が減らないように施策を講じるとともに、部署間のコミュニケーションの頻度も減らないようにする必要がある。社内SNSのフォーラムを作ったり、部署横断のオンライン勉強会や研修、eスポーツ大会などのレクリエーション等、意識をしてコミュニケーションの機会を作り上げることが肝要だ。何もしないまま放置すると、同じ会社にいながら、違う組織の人間の様に社内がバラバラになってしまう。

雑なコミュニケーションのツケがテレワークで露わになる

これら4つの要素は、何もテレワークだから新たに生まれたものではない。そもそも、テレワークではなくとも、対面だけの働き方の頃から注意すべきものばかりだ。しかし、対面の時にはやらなくてもなんとなく仕事ができてしまう。そのため、問題が顕在化しにくい

テレワークでは、意識をして動かなければ、社内のコミュニケーションがまったく失われてしまう。そして、危険なのはコミュニケーションをとらずに自分のペースで勝手に仕事をするというのは、そこそこ仕事ができる従業員にとって非常に楽なことだということだ。ルーチーンで言われたことや決まったことだけをこなすのであれば、コミュニケーションをとらなくても成果を出せてしまう。また、最低限ミスが生じない程度の仕事の質でなんとかなってしまうときも同様だ。

このような職場では、従業員の成長は望めず、仕事の質もいい加減なものになってしまう。そこからイノベーションが生まれたり、競合に差をつけるような優位性が生まれることもない。

テレワークで成果を出している企業は、このような社内のコミュニケーションの在り方を見直し、より良いものへと昇華させる努力を続けてきた。この努力の積み重ねが、テレワークによる生産性の向上という結果を導き出していると言えよう。


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