見出し画像

「起業は必然である」時代に生きている。

今、日本の大学生から就職の相談を受ければ、「どこでもいいから、仕事してみなよ」と答えます。大手だろうが、スタートアップであろうが、まず「仕事するって何?」が自分なりに掴めなければ、どうしようもないからです。大学生の就職人気企業ランキングを見れば、大学生がビジネス社会をほとんど把握していないのは明らかでしょう。

幸いにして、日本でも転職はかなり一般化してきましたから、ある程度、自分の進みたい方向が見えたとき、その時点で分野や職種を決めて良いわけです。

というのも、かなり意欲的に自分の人生を生きたいと願う若い人にとっては、既存の大手は当然、スタートアップさえなかなか満足できるものではない。だから、自らがスタートアップを立ち上げることも含め、何年かを経て歩む道の修正・変更は既定路線とさえ言えます。

かつては、「とりあえず大手に勤め、大きな組織の論理を知っておくと後々役に立つ」とアドバイスしていましたが、今はぼくもそう思わなくなったのです。

欧州で長く日本や各国からの留学生、イタリアの学生、それに21歳の息子とその周辺の人たちと接することが多いです。その結果、この大きく社会が変化している状況にあって、「起業は必然である」とさえ確信するようになりました

(そもそも、ぼくに相談にくる若い人で「一生安定した生活を送りたいのですが」というタイプは稀である、ということは前提にしています。)

大手企業の人たちが考えることが通用しづらくなる

ぼく自身、新卒で日本の大手企業に入り、その後、退職してイタリアに来て独立しました。新卒で企業を選ぶとき、裾野の広い業界として自動車メーカーを選んだのですが、それは転職を視野に入れていたからです。当時、自動車産業から他の産業に移るのは可能でしたが、その逆は難しかった。よって転職で有利なところにいようと思いました。

イタリアに来て独立しても大手企業を取引先とすることが多く、かつての大きな組織のなかで仕事した経験はかなり活用できました。組織人の行動パターンや時間感覚など、(正直言えば)嫌になるほど分かりました。

(一方、自分のなかにある「大手の癖」が抜けるに、思ったより時間がかかることにも焦燥感を覚えました。例えば、何か新しいことを発案したとき、即、企画書にまとめようとする癖などです。)

しかし、じょじょに新しい企業が取引先に登場してくると、ぼくの知っている大手の思考パターンが、相手をみるときに邪魔になっていると感じるようになります。

ぼくは新しいコンセプトを生むことに生きがいを感じます。欧州を自分の活動場として選んだのは、欧州に新しいコンセプトが生まれやすいと気づいたからですが、新しい企業の方が新しいコンセプトに関心がある場合が多いので、「大手の論理がおっぴらには通用しづらくなりつつある」と実感します。

(ここで思い出したのは、自動車会社に勤めていた当時、組織の上にいる人たちに対して「会社や業界のことは詳しいかもしれないが、社会全体についての見識には同意できないことも多い。この人たちに自分の人生を預けて、あとで後悔しないか?」と思っていたことです。)

要するに、情報を独占していた時代の大手、情報が分散している時代の大手、ここには大きな乖離があることを目のあたりにするのです。

国際貢献をする職場は国連やJICAだけではない

気候変動などを起点に、人権を含みサスティナビリティがより大きな課題になり、企業の社会的責任に対して人々は敏感になっています。特に、ぼくの周囲にいる若い人たちに、それを感じます。ミラノの大学で会う学生、息子の友人たちも、当たり前のように、敏感です。

日本には「日本の若い人は、欧州の人ほどにそうした問題に関心がない」と話す人もいます。が、ぼくは日本にいる感度の高い若い人とたくさん会ってきたので、その人たちをマイナーと位置付けるには躊躇します。

マイナーと表現するよりも、むしろ先を走っているケースも少なくないのを鑑みると、彼ら彼女らにこそ道案内をしてあげようと思います。

その一つの試みが、今年の春に服飾史研究家・中野香織さんとの共著で出した『新・ラグジュアリー 文化が生み出す経済 10の講義』です。サステナビリティや人権、国際貢献に関心がある日本の若い人たちが、国連組織や日本のJICA(国際協力機構)にしか自分たちの選ぶ道はないと思っている。

国際ロビー活動を行うNGOを情報収集のために頼りにしても就職先として視野内にないことが多いし、いわんやサステナビリティや人権に前向きに取り組もうとしているラグジュアリー分野の企業など「考えたこともない」と言うのです。

30代以上の人もこの現実を知らない、新しい情報に貪欲であるはずの若い人も知らない。とにかく、世界にはさまざまな選択肢と可能性があることを知って欲しいと思ったのが、上記の本の執筆の契機の一つになっています。

ものすごく比喩的に言うならば、美術館や教会に展示された絵画を観賞用に眺めるだけでなく、この作品がアート市場に入った場合どう扱われるのか?とリアルに考えてみる。このような思考パターンや意欲、あるいは好奇心が、職場の選択に対しても有効だと思うのですね。

それを熟練した大人たちは、若い人たちに教えていかないといけません。

時代が大きく動くなか、若い人を満足させる職場はなかなかない

大人のつとめを言う一方、あえて申せば、日本に限った話ではなく、いまどき、感度の良い若い人がほんとうに満足できる職場なんてそうそうありません。これだけ情報が豊富にありそうであっても、そうなのです。

先に書いたように、時代が大きく展開している現在、既存の組織が若い人が考えているスピードと感覚でついていこうと思うこと自体、かなり無理があります。スタートアップでさえ、必ずしも、それを叶えているとは言い難いかもしれません。

例えば、サーキュラーエコノミーの旗を振っている企業はありますが、どこまで本気なの?と思うならば、若い人は自ら起業した方が良いでしょう。起業化の敷居は圧倒的に低くなっているし、その行為を社会に広く低コストで知らしめるシステムも揃っています。

だから、起業は必然なのです。

にもかかわらず、仮に既存の企業にいて会社に不満を抱えながら我慢する一方ならば、「起業しないのなら、不満もそこまでなのだろう。夢にもたいしてこだわっていないに違いない」と見られることを意味します。

だから、新卒の人には、まずは企業規模は二の次で、面白そうな企業に就職をすることを奨めます。仕事は面白いと経験するのが大切です。

そして転職の場合は、スタートアップか自ら起業することをアドバイスします。スタートアップに転じるにしても、自らの起業を一度は考えた上で結論を出すように話しています。

写真©Ken Anzai



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?