江戸時代の日本もソロ社会だった【江戸01】
生涯未婚率の上昇や婚姻数の低下などのニュースは、少子化や人口減少の危機の最大の元凶のように因果関係を推測されて、「このままでは国が亡ぶ」という言説も流布されていますが、日本が皆婚社会だったのはここ100年くらいの特殊な出来事であって、そもそも日本人というのは未婚も離婚も多い人たちであることを知らない方が多いようです。
つまり、日本のソロ社会化とは決して日本史上未曾有の出来事ではなく、むしろ、明治民法を起点とする皆婚社会こそが長い日本の歴史の中では「異常な時代」だったと言えるのです。
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まず、離婚に関して言えば、江戸時代から明治初期にかけての離婚率は、当時の世界一レベル。現代の離婚率世界一はロシアの4.5(人口1000人当たりの離婚者数、2012年)ですが、江戸時代はそれを超える4.8だったといわれています(2006年参議院調査局第三特別調査室「歴史的に見た日本の人口と家族」より)。
未婚についても同様です。以前、歴史人口学者の鬼頭宏先生と対談させていただいた際に伺ったのですが、17世紀くらいまでは日本の農村地域でさえ未婚が多かったそうです。
結婚して子孫を残すというのはどちらかいえば身分や階層の高い者に限られていて、本家ではない傍系の親族や使用人などの隷属農民たちは生涯未婚で過ごした人が多かったのだとか。たとえば、1675年の信濃国湯舟沢村の記録によれば、男の未婚率は全体で46%であるのに対して、傍系親族は62%、隷属農民は67%が未婚でした。
農村よりも未婚化が激しかったのが江戸などの都市部です。幕末における男の有配偶率を見てみると、現代の東京の有配偶率よりも低かったと言われています。
江戸もまた男余りで有配偶率は低く、独身男性たちであふれたソロ社会でした。
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このグラフでもおわかりのとおり、男女で有配偶率が大きく違います。それは、江戸が相当な男余りの都市だったからです。1721(享保6)年の江戸の町人人口(武家を除く)は約50万人ですが、男性32万人に対し、女性18万人と圧倒的に男性人口が多かったのです。男性人口は女性の2倍、圧倒的に男余りでした。つまり、江戸の男たちは、結婚したくても相手がいなかったのです。
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以前、こちらのコラム連載でも書きましたが、現代の日本も未婚男性が未婚女性に比べ300万人も多い男余り状態です。江戸と今の日本はとても似ていると言えます。
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独身男性であふれていた江戸だからこそ、今に続くたくさんの産業や文化が芽生えたと言えるのです。江戸初期の経済は、参勤交代によって江戸に集積した武家たちによって支えられたと言われています。しかし、江戸中期以降は、下級武士だけではなく大名家も貧窮し、経済の中心は庶民に変わりました。そして、その消費の中心として活躍したのが、江戸に生きた独身男性、つまり「江戸のソロ男」だったのです。
このお話は、また次回にしましょう。
※男女人口の円グラフ、男女表記が間違えていました。訂正の差し替えをしました。