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それでも、あなたは東京にいくの?─ 10年で、まちは変わりうる

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「まちにとって学生が必要です。オフィスワーカーは昼間に動いてくれるが夜にいなくなる。住民は朝に家を出て仕事がおわると、夜に帰ってくる。大学生や専門学生は学校以外の行き場所があって、一日中まちを歩きまわり、まちを活性化してくれる」─ オーストラリアのメルボルン市の人から、「まちにおける多様な人々の必要性」を聴いた。

メルボルンで、こういう話も聴いた。いろいろな人と会って、対話することがクリエイティブ性や生産性を高める。クリエイティブの仕事をする人やアーティストや学生がまちに集まり、ブラウン運動のように、あっちにいったり、こっちにいったりする。まちのカフェや路地のテーブルに集まって、コーヒーを飲みながら相談しあったり、雑談をする。隣りの会話が何気なしに耳に入って参考になる。まちのなかでの適度な人の密度と距離感とノイズが、新たなアイデアをうむ。そのような人と人が行き来し交流しあって、自然に対話できるまちに人が集まる。

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「人口を増やすこと、人口が減ることをとめることがまちの存在理由ではない。最終的に残るまちは、そのまち独自の文化をもったまちではないか」─ 巨大津波に呑みこまれる前の名取市閖上地区の震災直前の2010年の「商店マップ」を前に、名取市役所の幹部からお聴きした。その閖上商店マップには数十店の地元店舗が集積し、閖上地区の人たちにとって、閖上のものの大半が揃う場所を示していた。

商店街を歩くと、お店ごとに会話をして、いろいろな情報交換できる。まちのなかでおこったことが右から左から上から下から横からと縦横無尽に情報は行き来していた。情報の交流は毎日のように続き、それが積み重なって「地域の文化」が形成されていった。名取市の幹部は、閖上地区の復興にあたって、震災前にあったこのまちの文化をいかにまちに埋めこみ、再起動できないかと語っておられた。

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閖上地区の商店マップをみたとき、大阪駅から徒歩15分くらいの住宅街にある中崎町というまちの姿を思い出した。全国中に空き家、空き地、シャッター商店街が増えるなか、10年で元気になったまちである。都心部の“昭和”の下町をカメラ女子がまちの風景を撮っている。アーティストがベンチに座っている。お洒落な帽子をかぶった初老の男女が歩いている。幼ない子どもを連れた若いお母さんたちが井戸端会議をしている。

メイン道路から入った狭い露地に、こじゃれた雑貨屋さんやギャラリー、個性的なレストランやカフェが現れる。住み家とお店が混じりあう。お年寄りと若い人とが混じりあう。新と旧とが絶妙な形で混じりあっている。一人のアーティストがこのまちの本質・意味を見出し、築130年の長屋を改修しカフェをつくり、地域のイベントに参加し、地域に溶け込み、地域の人々を巻き込み、地域の人と人とをつなぎ、ちいさな変化をおこした。無数の若者たちが「おもしろい」と感じて、その流れに参画し、“昭和”の長屋通りと露地の空気を変え、勢いを与えて10年でまちは大きくかわった。

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「バールは都市・地域の顔だ。店主やスタッフの個性でバールが左右され、地域の人がそれぞれのバールを育てる」と、イタリアのシエナのバールで聴いた。バールには仲のいい人が集まる。居心地のいいところ。朝起きて美味しいカフェオレをのんびりと飲む、コーヒーを飲みながら会社のミーティングをする、夕方友だちとワインを飲んでサッカーの話をする、たまり場であり、コミュニティの場である。まちのあちこちにバールがあって、バールがまちをつくる。

イタリアは「政治都市」ローマと「経済都市」ミラノに人口集中していない。たしかに両都市の人口は多いが、フィレンツェ、シエナ、パルマ、ヴェネツィアなど、それぞれ個性的な都市がある。イタリア南部からミラノへの人口シフトが一部あるが、日本のような大規模な都市間移動はない。それぞれの都市には、古くからの魅力的な大学が現代にもつづき、それぞれの地形・歴史の特徴、強みを活かした産業や企業があり、地域のなかで地域の経済がまわる。歴史軸と風土をベースに食・芸術文化を守り、質の高い生活を楽しむ。都市と都市との交通・物流ネットワークが整備されていて、都市と都市はつながっている。「この都市が好きなので、ずっとここに住みたい人が殆どです」、といったパルマのハム店の店主の笑顔が忘れられない。

様々な都市をまわりながら、日本も都市・地域の本来もっている本質・強みを掘りおこし、都市・地域のなかでつなぎあわせ再構築すれば、都市・地域を再起動できるのではないかと感じた。

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27015770W8A210C1ML0000/

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