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フリーランスを単に「労働者」としただけで全て解決ではない。まず「何を」保護するかの議論を先行すべき

こんにちは。弁護士の堀田陽平です。

今日から6月ですね。私にも31歳の足音が迫ってきています。

さて、フリーランス(ないしは自営ワーカー)の保護に関する議論が海外でも進んでおり、日本においても、昨年度末、フリーランスガイドラインが策定されました。


以下の記事にあるように海外では、労働者として扱うといった判例が出されたり、労働者として扱うといった法令が制定されたりする等の動きが見られます。


もし「労働者」になるとどうなるか

日本においても、諸外国と同様に様々議論がされており、フリーランスガイドラインでは、大きくは競争法でフリーランスの取引を保護するという方向性が示されています。

他方で、「労働法で保護すべき」、「労働者として保護すべき」といった声も聞かれるところです。
そこで、仮に、フリーランスを「労働者」とした場合、どうなるかを考えてみます。

①雇用の安定
まず、「労働者」となれば解雇権濫用法理の下で雇用が安定するかという点を考えてみると、フリーランスを単に労働者にトレースした場合、フリーランスは、期間を限定して契約を締結しているため、無期雇用にはならず、有期雇用となるでしょう。
有期雇用となった場合、確かに、雇止めが無効となる可能性はありますし、期間途中の解雇は極めて厳格に審査されます。ただ、雇止めの無効の前提には、契約更新への期待等が必要になりますので、全ての場合に雇止め無効による雇用保障がなされるわけではありません(そもそも完全な雇用保障というものはない。)。

仮に無期雇用となった場合であっても、職務等が限定される形となる可能性が高く、使用者となる企業の解雇回避努力義務は緩和される可能性もあります。

②賃金
賃金についても、確かに、労基法では、賃金支払の確保は厳格に要求されています。
しかしながら、労基法は、必ずしも月給の固定給であることは要求していません。
フリーランスを「労働者」に含めたとしても、出来高制(この場合、一定額は保障されていますが)やアルバイト的な時間給となる可能性があり、毎月固定で安定した給与が支払われることにはならないと考えられます。

③労働条件の変更
賃金も含めて、労働者の労働条件の変更については、合理性がなければ容易に不利益な変更ができないということは確かです。しかし、これは逆を言えば、合理性ある場合には、フリーランスの合意なく労働条件の不利益な変更を行いうるということです。
実は、契約法の考え方からすると、一方的に契約内容を変更し得るというのはかなり特殊であり、むしろこの点は、フリーランスにとって不利に作用する可能性もあります。

④雇用保険
フリーランスを労働者に含めることで、雇用保険により失業給付等で一定の生活の安定を確保したいという希望もあるでしょう。
しかし、そもそも、雇用保険もすべての労働者が適用されるわけではないことには注意が必要です。
これはコロナ禍における各種助成金との関係でも問題になりましたが、雇用保険の対象となるのは、週所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある人です。

したがって、週20時間未満の場合等には、結局、雇用保険の対象となりません。

 「労働者」となることによるフリーランスへの負担

①指揮監督に服することになる
フリーランスガイドラインでも明確にされたように、労働者性は、指揮監督にあることがポイントとなります。
それは裏を返せば、フリーランスを「労働者」に含めることで、使用者(とされる者)の指揮監督下に置かれるということになります。
つまり、指示された業務は拒否できず、これを拒否すれば業務命令違反となります。

そうすると、すきま時間を利用するようなギグ・ワーカーはじめ、フリーランスの自律的な働き方を阻害する可能性があります。

②企業の服務規律に服する
さらに、労働者は、企業秩序維持の観点からの懲戒処分等を受けることになります。これは、ある意味仕事とは直接関係のないところについても、組織的な観点から制裁を受けることがあるということです。

まさに、このような組織的な観点からの制裁があり得ることは、多くのフリーランスは想定していないことではないでしょうか。

単純にフリーランスを「労働者」としただけでは非正規雇用の問題に直面する

フリーランスを「労働者として保護する」、「労働法で保護する」という議論は、大きな議論であり、好まれやすいようには思います。

しかし、よく考えてみると、「労働法」で保護するとしても、そもそも「労働法」なる法典は存在しないのであり、より具体的に考える必要があるように思います。

しかも、その「労働法」においても多様な仕組みが存在しており、さらに、「労働者」の領域においても非正規雇用等様々な問題が存在しています。
フリーランスが「労働者」となったとしても、多くの場合、非正規雇用となり、結局、非正規雇用の問題に直面する可能性があります。

したがって、フリーランスを労働者的に扱う議論をする場合には、非正規雇用の問題を含めて雇用政策と併せて議論をする必要があるでしょう。

まず「何を」保護するかを議論すべき

冒頭述べたのは思考実験的に考えてみたものですので、実際には様々な雇用形態のパターンがあり得ようかと思います。

ただ、単に「労働者」となればと全てが解決することにはならず、それだけでバラ色の世界が待っているわけではないでしょう。

むしろ、「何を」保護するかという点を先に議論し、それに必要な施策を検討するほうが、より効果的な施策が導き出されるのではないでしょうか。


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