EU「サステナブル・ファイナンス」の基準作りは進むが。
世界が必要とする大幅な、今までとは次元の異なる量のCO2を削減するには、官の資金投入だけでは当然足りず、民間資金も活用することはパリ協定にも書かれています。
パリ協定9条3項などから関連の記述を抜粋すると下記の通り。
・世界全体での努力として、先進国は、公的資金の重要な役割に留意しつつ、様々な財源からの気候資金動員を継続してリードしなければならない
・その資金動員は過去の努力からの前進であるべき
・先進国は既存の動員目標を2025年まで継続し、 2025年までにCMA(*会議体の名前です)は、新たな全体定量目標を年間1000億ドルを下限値として設定する。
先進国全体ではありますが、年間1000億ドル以上を動員するには、官民ともに資金の流れを変える必要があり、「様々な財源からの」という表現で官以外の資金動員も否定されなかったという訳です。(途上国を中心に、民の資金動員は政府が約束できるものではないという主張もあり、これを否定されると官の資金だけでこの金額を達成しなければならないので、先進国側にとっては民の資金動員を否定させないということは結構な交渉ポイントでした)
そうした流れに基づいて、EUがサステナブル・ファイナンスの基準作りを進めていることは、私自身も今まで何度か書いています。(カッコ内はweb掲載月)。こうして見ると、結構書いてますね・・。
「続・気候変動を動かす金融・投資の動き─TCFDの提言案を読む」(2017/3)
「天然ガスにもダイベストメントの波が来るのか?── TCFD最終報告書を踏まえて考える気候関連財務ディスクロージャーの展望と課題」(2017/9)
「拡大する「ESG投資」の課題は何か─気候変動に関する投資家エンゲージメントを巡って」(2018/11)
「COP24でみた、気候変動を動かす金融・投資の動き」(2019/3)
「GPIFが採用したS&Pのカーボン・エフィシエント指数にみるESG投資の課題」(2019/3)
「気候変動に関する情報開示を求める株主提案はどこまで認められるのか
── エクソン・モービルに対する株主提案を例に考える」(2019/6)
「EUタクソノミーに関する議論の進展─ 欧州委員会TEGのテクニカル・レポートを読む」(2019/8)
「金融機関の炭素関連資産情報開示と気候関連リスクのストレステストについて」(2019/10)
「サステナブル・ファイナンスと銀行の自己資本比率規制─ 金融規制に対するEUタクソノミーの波及を考える」(2019/9)
「EUの気候変動金融ベンチマークに関する議論の進展─ 欧州委員会TEGの最終レポートを読む」(2019/11)
何をもって環境に配慮できているとするのかといった基準は必要で、そうでないと「適当なエコ」が蔓延することになります。ただ、その基準が実効的かどうかはその国の置かれた状況によって違いますし、あまりに理想主義的な基準にすればかえって環境配慮にはならないという問題も起こり得ます。
例えばEUの策定しているサステナブル・ファイナンスでは石炭火力発電は全く認められませんが、アジア・アフリカなど途上国を中心に今後もエネルギー需要は伸び、石炭火力も拡大することはIEA(国際エネルギー機関)なども予測する通りです。そうしたなかで「石炭はダメ」という基準を世界全体にかけようとすると何が起きるかというと、結局そういう基準をすり抜けられる国からの資金・技術がそのニーズを満たすという恐れがあるわけです。
EUのサステナブル・ファイナンスに関する記事として、ブリュッセルの竹内記者が書かれた下記の記事は正確なものですが、EUのサステナブル・ファイナンスの動きを見るたび、「自分たちの策定した基準を世界標準にしたい」というEUの野心はいかがなものかという気がします。もちろん、民間資金の流れに長期的かつ公共的視点を入れることはとても重要なので、それ自体を否定しているわけではありません。それぞれの国や地域で考えていくべきことだろうなと思っています。
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