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ドラえもんの新作映画に学ぶ。決められた枠をどう捉え、新しいものを生み出すか。

「あんた20年後は、ドラえもんとクレヨンしんちゃんの映画だけ、ほぼ毎年見るよ」とミニシアターでイキってた大学生の私に囁いてやりたいです。
はい今年も見ました。『映画ドラえもん のび太と地球交響曲』。


昨今子ども映画も、私みたいな予想外・白目・引率大人たちの鑑賞にも耐えうるレベルの高さになっているともっぱらの評判ではあり、私もそう思いますがそれがかえって気になることもあり。
ただ今回の新作が、最近のドラえもん映画のなかでいちばん心が動き「決められた枠をどう捉え、どう新しいものを生み出していくか」の刺激を受けたので話をさせてください。そして完全にネタバレです。

選択と集中に敬意

ドラえもん映画においての枠、それは子どもが見る作品であること、仲間たちと冒険に出る話の筋、それぞれのキャラクター設定など定義していくと沢山あるとは思うのですが、そのなかで何を大切にし、焦点を当てたかの「選択と集中」の仕方に敬意を持て、私は好きと思えた、というのがとにかく結論です。もちょっと具体的に話しますね。

映画の価値=映画館で見てよかった、と思えるもの

まずオープニングの怒涛の映像と音楽が圧倒的で、それだけでもう映画館で見てよかった、お金払ってよかったと思えたこと。
映画の価値は沢山あるなかで「映画館で見る良さ」を選択し、冒頭にぶつけたことにリスペクトしました。

大きな強いテーマ、「音楽」に絞ったこと

「音楽」という普遍的なテーマではあるけれど、それゆえ強かった。またこれに絞ることで、すべての制作に骨格ができ、ぶれても必ず戻ってくる場所となれたはず。また「音楽の楽にある『楽しい』がこの映画らしさ」という趣旨の監督のインタビューにもあり、良いこと言ってやろう、みたいな気負いがなくよかったのです。

小さな裏切り・令和のアップデートへの挑戦の姿勢

今回ジャイアンは歌わず、しずかちゃんがバイオリンを弾かない、また戦う相手が人の形でなく言葉も発しないなど、王道を裏切るのはちょっと驚きでした。また戦い方も今までと違うのは、コロナ禍や世界での戦争を経て実感したことを昇華されたんだなと。

そしてチームリアルのび太の母としては、のび太の成長の描き方が沁みました。道具には助けられるけど、愚直に練習もする。結局すごーく上達はせず、苦手は苦手のまま。でもそこに喜びや彼なりの成長がある。
最近はそういう描き方が多いけど、今回が私には腑に落ちて、令和のドラえもんとしてのアンサーなんだなと受け取りました。
そして段々気づいたのが「今回は映画の形をしたコンサートなんだ!」ということ。(パンフにも記載が!)
たぶん好みが分かれるな…と思ったら、案の定、息子:すごく好き。今までのドラえもんで一番よかった。娘:「・・・」
でも好き嫌いが分かれるのって、いいクリエイティブと思う。

残すべき枠、超えるべき枠は何かを考える

ドラえもんでなくても、何かを定義する枠組みとどう付き合い、進化するかの模索は沢山あります。記事でも「銭湯」の元々の価値として大切にしながら、ひょいと枠を超えて、新天地原宿で挑戦するところなど様々に面白いです。

伝統がある芸能の世界、歌舞伎や宝塚などでも、ルパンやらナウシカやらチャレンジな題材もある。
しかしそもそも歌舞伎や宝塚に触れていた人だからこそ挑戦のすごさが分かる面もある。私もドラえもんの映画を結構見ているからこそ、今年の試みが新鮮だなと思えたり。
ドラえもんの枠組み自体知らない子たちがでてくるかもしれない。すでにその予兆はあるそうで。

「ドラえもんのアニメを見ないまま、大人になる子供が増えてしまう」。仕掛け人で藤子プロの関野亮央プロデューサーを動かしたのは将来への懸念だった。近年子供たちの関心はユーチューブ、ゲームなど多様になり、国民的アニメと言われるドラえもんですら「誰もが通る道」ではなくなりつつある。1980年代に一時30%を超えていたアニメ放送の視聴率は、最近は1桁前半まで下がった。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC28BB70Y3A221C2000000/

そうなるともう枠の形自体改めて見直すこともあり得るのかもしれない。
すでに毎年新作の映画と既存作も多いアニメで、描き方の齟齬を感じるし(それこそのび太のできなさの扱い方とかジャイアンのヤバさとか、しずかのジェンダー的役割とか)設定のだけの話でないかも…出会う場所やターゲットも?

そんなふうにして、枠を押し広げたり、縮めたり試行錯誤ながら、新しいものが生まれるのを考えるのは楽しいなと思う。また来月! 
そして娘、結局見出し画像の絵を描いてくれてありがと!

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近森 未来(資生堂クリエイティブ コピーライター)
ここまで読んでいただきありがとうございます。 読んで、少し心がゆるんだり、逆にドキッとしたり、くすっとしたり。 おやつ休憩をとって、リフレッシュする感じの場所に ここがなれたらうれしいです。