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目標はガンジー、マザーテレサ 〜 答えのない時代のスローリーダーシップとは

(Photo by Masaaki Komori on Unsplash)
持続可能な社会の必要性が叫ばれる中、ファストフードとスローフードの対比のように、さまざまな分野で「使い捨てのファスト」から「循環のスローへ」とのシフトが起きつつある。

答えのある(と思われていた)時代には、ゴールを示し、そこに強烈に向かっていくことを先導するのがリーダーシップだと思われてきた。しかし、答えのない時代、それは答えのわからない時代ではなく、単一の正解がない時代に、「わかりやすいゴール」に強烈に向かうリーダーシップほど危険なものはないだろう。

答えのない時代、リーダーシップはどのように発揮すればいいのだろうか?


今までのリーダーシップが通用しない

リーダーシップの概念が、いま大きく変わろうとしている。リーダーシップの一般的な定義は、Goal(目標やビジョンを提示し)、Alignment(集団の活動の照準を合わせ)、Influence(他者に影響を与え、変化を起こす)の3つから成る。しかし、組織やチームがリモートワークで協業するようになり、顔を合わせない中で、いかに集団の活動を目標に向かわせるか、これまで以上にリーダーシップの発揮が難しくなっている。さらに、2030年のSDGs(持続可能な開発目標)や2050年カーボンニュートラル達成への国際的合意によって、企業は利益を上げることが最大の目標であるといった経済的合理性だけでは、目標を示したことにならない時代となった。つまり、答えのない時代に、顔を会わせない集団に対して、どのようにリーダーシップを発揮すれば良いのか、それが大きな問題なのである。

リモートで相手を動かすことはできない

次の記事は、コロナ禍によって国境間移動が制限されたことによって、企業などがオンラインで国境を越えて仕事を発注する動きが、とてつもないスピードで加速していることをデータで示してくれる。国際間移動ができなくなることで、国に閉じて仕事をしなければならない圧力もあれば、フルリモートになったことで、逆に国境を越えて働くことのデメリットが消失してグローバル化が進展するという逆の圧力もあるということだ。

私自身のこの二年間、大きなプロジェクトでも、対面で一度も会ったことのないメンバーがいることが当たり前になった。仕事がプロジェクトベースになるので、同じプロジェクトに入っていない社員とのコミュニケーションが急減することも起きるようになった。プロジェクトが忙しくなると、たんなる顔合わせ的なオンライン会議は形骸化していくこと多く、ましてや「通信環境が悪いので顔表示なしで」となってしまうと、もう話を聞いているのかすら分からなくなった

このような物理的な場所のみならず、言語や文化の壁もリモートワークによって消失しようとする中、「リーダーシップの発揮の仕方」を変えていく必要がある。リモートでいくら相手を説得しても、オンライン会議をプチっと切ってしまったら、相手はもう会議のことは忘れて、すぐに違うことをしているだろう。

答えのない時代のリーダーに必要な「時計の支配」

次の2つの記事が示すとおり、多くの企業や自治体で、2030年SDGs達成に向けて「何かやらねばならない」と躍起になっていることがうかがえる。

しかしこれまで日本の企業も行政も、もっぱら「答えがある時代」の管理型経営しかしてこなかったため、「答えのない時代のリーダーシップ」をもっとも苦手としている。いま起きていることは、「SDGsという答えのようなもの」にとにかく取り組もうとしているが、実際のところ「いったい何をしたらいいか分からない」という状況ではないだろうか。

次の書評で紹介された「リーダーの言葉」という本では、リーダーは2種類の仕事の概念を使い分ける必要があるという。「赤ワーク」では「時計のような正確さ」で仕事を進め、「青ワーク」では「時計を支配」して選択肢を増やすという。試写会後に大きくストーリーを変更して大ヒットした「アナ雪」のチーフ・クリエイティブ・オフィサーは、締め切りにとらわれず青ワークに取り組むようチームを導き、さらに「何をしてもいいとしたらどんなものが見たい?」と問いかけたという。

会社全体で、「時計を支配」して、遠回りを楽しむことで成果を上げている会社もある。次の記事は、「漁業をやってみたい」という社員に一年間の出向を命じるような、ユニークな経営を実践している。「マーケティングと釣りは似ている」という名言も飛び出す。

スローリーダーシップ

スローリーダーシップは、時間の制約から自由になるリーダーシップだ。短期的成果や時間に追われて、「できそうな落としどころ」を目標に設定するのではなく、「長期的かつ本質的に大切なことを追求する」ためには、時計を支配する「スローリーダーシップ」が必要だ。

ぐいぐい引っ張るファストリーダーシップと、本質を追求するスローリーダーシップでは、「リーダーシップに対するイメージ」が大きく異なる。ファストリーダーシップの象徴が戦国武将ならば、スローリーダーシップの象徴はガンジーやマザーテレサであろうか。

ガンジーやマザーテレサになろうと言われるとちょっと重すぎるが、共通していることは、「周りがなんと言おうと自分の信じる行動をすること」、その一方で「声なき声を丁寧に聞き続けること」、そして「短期的な解決を求めずに本質を追求すること」が、こういった社会変革に共通するスローリーダーシップの特徴である。

つまり従来のリーダーシップが、Goal(目標やビジョンを提示し)、Alignment(集団の活動の照準を合わせ)、Influence(他者に影響を与え、変化を起こす)で発揮されるのに対し、スローリーダーシップは次の3つの要素で構成される。

スローリーダーシップの3つの要素
1)自分軸のリーダーシップ(「なぜ私が」という想いを提示し)
2)多様性のリーダーシップ(立場や価値観の違う人の声も聞き)
3)不確実性のリーダーシップ(単純な答えを求めず本質を問う)

答えのあることを前提とした時代は、「やるべきゴール」に対して、それを引っ張ることがリーダーシップだと考えられてきた。答えのないことを前提とした時代のリーダーシップでは、「私」の想いを提示すると同時に、立場や考えの違う「他の私」の想いも引き出すことが大切になる。多様な意見から謙虚に学び、目標が違うと思ったら時間を支配し、本質的な問いの追求をリードし続けることが必要になる

答えのない時代に、当てずっぽうでファストリーダーシップを演じるのではなく、自分と向き合い、他人の声を聴き、本質を追求し続ける「スローリーダーシップ」を探究してみてはいかがでしょうか。

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