見出し画像

アニメとゲームの国、日本はビジネスとして優位性を保てるか?

東京五輪の開会式でゲーム音楽が使われたり、アニメ・漫画がコンセプトの演出があったりして、「日本はアニメのゲームの国になったのだな」と感じた方も多いのではないだろうか。たしかに、日本のアニメ、ゲームといったサブカルチャーは世界中で大いに人気がある。反面、ビジネスとしてみたときに、そこまで楽観視できる状態にはない。

コンテンツとしてのゲームの弱さ

ゲームの業界は、ビジネスとしては2つの領域に分かれている。1つは、「スマホゲーム」と呼ばれるスマートフォンで遊ぶことができるゲームだ。もう1つは、「コンシューマーゲーム」と呼ばれる、PS5 や Switch、 Xbox などの遊ぶために専用の機器が必要となるゲームである。PCで遊ぶゲームも、ビジネスとしては「コンシューマーゲーム」の中に含まれる。

世界市場において、「スマホゲーム」では日本の存在感は著しく低い。5年前までは、まだ存在感を保っていたものの、近年では見る影もない。2016年にはトップ10に3タイトルが存在し、第1位もミクシイの『モンスターストライク』だった。しかし、2021年上期では9位にサイバーエージェントの『ウマ娘プリティーダービー』がランクインしているだけだ。反対に、5年間で中国企業の存在感が増している。2016年には1タイトルしかなかったが、2021年には4タイトルがランクインしている。

日本企業の低迷には、「ガチャ」と呼ばれる悪名高い課金システムへの世界的な批判があったりもした。しかし、1番の原因はスマホゲームであっても海外のゲーム会社は世界市場をはじめから前提として開発を行っている。特に、中国は政府によるネット統制が厳しいため、早い段階から海外展開をして脱国内市場を目指す傾向にある。それに対し、日本のゲーム会社は日本市場を重視しすぎるあまりにビジネスとして差をつけられてしまった。

スマホゲームに対して、コンシューマーゲームでは日本企業の存在感がまだ維持されている。その最たる理由は、PS5 や Switch などのゲーム機を開発しているという強みがあるためだ。プラットフォーマーであるため、日本メーカー製のゲーム機のシェアを維持できているかぎりは市場での存在感を維持できる。

2020年のゲーム会社の収益ランキングをみると、1位にソニーが位置し、3位が任天堂、9位にセガサミー、10位にバンダイナムコエンターテインメントと4社がランクインしている。しかし、1位と3位のソニーと任天堂はゲーム機の売り上げも含むため、ソフトウェア単体での売り上げをみると順位を下げることになる。

コンシューマーゲームの市場でも、優位性を発揮するのは中国のテンセント(第2位)だ。第4位~第8位は、米国企業が占め、コンテンツの競争力としてはスマホゲーム同様に中国と米国企業に続く形となっている。

スマホゲームでもコンシューマーゲームでも、世界市場で売れるコンテンツを作ることができていないことが課題だ。

クリエイターを冷遇してきたツケを黒船で払わされる?

アニメ業界も、ゲーム同様に楽観視できる状態にはない。そもそも、日本のアニメ業界にはクリエイターに利益が還元されにくく、アニメ制作会社の経営体質の弱さとクリエイターの貧困が構造的な問題になっていた。しかも、制作活動も、関係者があまりにも多く、複雑になっているために自由度が低いものになってしまっているという課題があった。

今年、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で再び社会現象を起こした庵野秀明監督も、2014年の講演でアニメ業界の構造的欠陥を言及し、「このままではアニメ業界は先細っていく」と警鐘を鳴らしている。

この問題に対して、近年、解決のために積極的に動き出した企業がある。しかし、それは日本企業ではない。FAANG(Facebook, Amazon, Apple, Netflix, & Google)の一雄である Netflix だ。 Netflix は、日本でアニメーターの育成支援を始めると発表し、受講生の生活費と授業料を負担すると発表した。

同時に、アニメ業界への投資も積極的に行う。アニメ制作会社に直接、製作を依頼することでアニメ業界の収益性を改善し、作品制作の自由度も高めようとしている。昨年2月には、同社は日本のトップクリエイター6者(CLAMP、樹林伸氏、太田垣康男氏、乙一氏、冲方丁氏、ヤマザキマリ氏)とパートナーシップを結んでいる。

日本のアニメ業界を有力な投資先としてみているのは、Netflix だけではない。ディズニー傘下のルーカス・フィルムも同様だ。もともと、ジョージ・ルーカスは大の日本好きで有名だ。スターウォーズは黒澤明監督先品から大いに影響を受けている。そのルーカス・フィルムも日本のアニメ制作会社に注目をしている。ディズニープラス「スター・ウォーズ:ビジョンズ」は、日本のアニメ制作会社に依頼した短編アニメーションのオムニバス作品だ。アニメ自体の出来にはファンから賛否両論があるものの、ビジネスとしてみたときには面白い。日本のアニメ制作会社に米国の資本力が加わることで、ビジネスモデルは大いに変わるだろう。

Netflix やディズニーが、日本のアニメ産業を改善させる白馬の騎士になるのなら良いことだ。しかし、外国資本は投資用語としての「ホワイトナイト」となる可能性もある。投資用語としてのホワイトナイトとは、敵対的買収にあったときに、友好的な第3者に「ホワイトナイト」として代わりに買収してもらうことだ。資本力の弱い日本のアニメ制作会社は、資本力のある海外の企業にとっては良い投資先であると同時に、美味しい買収先にもなり得る。

2010年代後半以降、アニメ制作会社の M&A や資本業務提携も盛んになってきた。2018年には、ジーベックの映像制作事業がサンライズに譲渡され、2019年にProduction I.Gに吸収合併された。今は国内の業界だけでおさまっているが、海外の資本が入ってきてもおかしくはない。

現状、ゲームとアニメは世界的に評価されている日本の重要な産業にまで成長している。しかし、どちらの業界も世界市場との兼ね合いで見たときに楽観視することは難しい。ゲーム業界はスマホゲームとコンシューマーゲームの両方で世界市場でシェアを取ることができるコンテンツが課題であり、アニメ業界はクリエイターの財政的な課題が海外資本にとって魅力的な投資先となり得る。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?