世界の悩み、日本の悩み~IMF見通しに映る日本の孤立~
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世界の悩み、日本の悩み~IMF見通しに映る日本の孤立~

適度な減速はむしろ朗報
10月12日に発表された秋季IMF世界経済見通しは世界経済全般にわたって成長率が引き下げられました:

今回のサブタイトルは『Recovery During a Pandemic Health Concerns, Supply Disruptions, and Price Pressures(パンデミック中の回復~公衆衛生の懸念、供給混乱、物価圧力~)』と現在リスク視される論点が並べられました。もっとも、ここで挙げられた3つの論点は相互連関しており、「デルタ変異株の感染拡大により世界の供給網が寸断され、需要超過の状況が極まって物価が上昇している」というのが実情でしょう。世界経済におけるいずれの地域もこれらのリスクから逃れることはできておらず、ここまで破竹の勢いを誇った米国も英国も2021年に関し下方修正されています(それぞれ+7.0%→+6.0%、+7.0%→+6.8%):

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しかし、それでも欧米経済は潜在成長率の倍速で走っており、インフレ圧力の高まりが懸念される状況を踏まえれば、この程度の減速は朗報にも感じられます。世界経済全体では+6.0%から+5.9%へ下方修正されているものの、仮に+5.9%であっても現行統計が遡れる1980年以降では最高の成長率です。過度に悲観視する必要はないでしょう。

日本経済の悪化は別次元のもの
なお、2021年予測に関し、先進国全体では+5.6%から+5.2%へ下方修正されていますが、これは上述した米国の▲1.0%ポイント下方修正の影響が非常に大きそうです。米国以外ではドイツ(+3.6%から+3.1%へ▲0.5%ポイント)および日本(+2.8%から+2.4へ▲0.4%ポイント)が大きいです。下方修正の理由に目をやると、米国は4~6月期に関しては大幅な在庫取り崩し、7~9月期に関しては消費減速が指摘されています。在庫取り崩しは供給制約の影響も当然あるでしょうが、力強い需要の結果という側面もあります。ドイツに関しては生産活動全般にわたって部品不足が響いており、依然として国内製造業の力が強いことが裏目に出ています。

片や、日本に関しては「7月から9月までに発せられた4回目の緊急事態宣言の影響」を指摘され、世界経済が直面するリスクとは別の次元で悪化していることが分かります。

そうした日本の特異性は予測修正の経緯を見ても明らかである。図表は2021年と2022年の世界経済見通しに関し、G7諸国に関する予測修正幅(4月→10月)を比較したものです。予測修正幅に関し、2021年分を①、2022年分を②とした場合、その合計がマイナスになっているのは日本だけです。裏を返せば、日本以外の先進国では春先以降、紆余曲折はありながらも「思っていたより調子が良い」というペースで走れているが、日本だけはそうではないという話です:

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世界はアフター・コロナ時代の悩み、日本はコロナ禍の悩み
さらなる感染拡大が見込まれないとした場合、今後の世界経済の焦点は「供給網の復元はどれくらいで進むのか」という点にかかっています。それにより、どれほどのペースで需要超過幅を縮小できるのかがインフレ圧力の抑制にも効いてくるはずです。今回のWEOでは2022年半ばにはインフレ率がパンデミック以前のレンジに収束することが予想されています。

IMFのベースシナリオは保守的になりがちであることを差し引いても、あと半年ほどは現状が続くというイメージになります。ちなみに、こうしたインフレ圧力の「燃料」の1つがパンデミック下で蓄積した民間部門の過剰貯蓄です。供給制約は問題ですが、より不運なことは過剰貯蓄に根差した需要の爆発が重なっていることがインフレ圧力を一段と押し上げていると考えられます。図に示されるように先進国の多くは未だこれを多く抱えており、その分、需要が吐き出される余地があるという理解になります:

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IMF推計の過剰貯蓄を参考にすれば、日本はカナダに次いで世界で2番目に大きく、過去の傾向から推計される貯蓄額の倍額の水準(約200%)まで高まっています。しかし、世界と日本の違いは「貯蓄を開放する」という段階に至っていないことでしょう。これほどの貯蓄があっても消費・投資が盛り上がる兆候はなく、逆に成長率の切り下げが続く背景には何があるのでしょうか。様々な要因が考えられますが、やはり成長期待が全く持てないということなのでしょう。IMFが世界経済に対して「供給網の寸断」や「インフレ高進」をリスクとして指摘する傍らで、日本に対してだけは「緊急事態宣言の影響」と整理しているのが象徴的です。

世界はアフター・コロナ時代の悩み(供給網の寸断やインフレ高進、需要超過など)を抱えているのに対し、日本だけはまだコロナ禍に苦しんでいます。その日本のワクチン接種率は今や英国を抜き世界トップ集団に入り、死者数なども極めて低水準に押えられているというのは皮肉な話であり、率直に、拙い防疫対策により自滅した結果と言わざるを得ないでしょう。

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04年慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会(EU本部)などを経て08年10月より現職。著書に『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』。所属学会:日本EU学会。※コメントは個人的見解であり所属組織とは無関係です