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進む人材流動化と、若手の離職防止策に奔走する企業。労働市場の変化にどのように適応すべきか。

皆さん、こんにちは。今回は「人材流動化」について書かせていただきます。

今や、「転職1000万人時代」と言われています。おおよそ就業者の6人に1人が転職を希望し、そのうち転職をせずに同じ会社に留まっている人も一定数いるものの、人材不足や就業観の変化が背中を押していることもあり、以前よりも転職時に年収や職位が上がる事例の割合も増えてきています

個人が転職をキャリアアップにつなげることはもちろん、雇用の流動化が進み、人材が成長産業に移動することで好循環サイクルを生み出すことは、非常にポジティブなことです。

働き手となる個人が、多様な働き方や今とは異なるキャリアの選択肢を求めていることは確かですが、そのような新しいキャリアの選択肢を求める人材に対して、十分適切な受け皿を提供できているのでしょうか。

生産年齢人口が減少することが事実上分かっている中、各企業において、どのようにあらゆる年代、あらゆるバックグラウンドを持つ社員に長く活躍し続けてもらうような環境を構築していくべきなのでしょうか。具体的に考えていきます。

転職によって年収が1割以上増える人の割合が約4割と過去最高水準にある。人手不足やジョブ型雇用の広がりを背景に、働き手は転職に踏み切りやすくなっている。一方、外資系企業のように結果が出ない社員に降格や退職勧奨を実施する制度を国内企業の2割が導入する。人材流動化に伴い、日本の労働市場は変化している。

■転職成功者が増えている背景

今回ピックアップした記事の中には、転職成功者が増えている理由として、

背景にあるのは人材不足に加え、職務に応じて報酬が決まるジョブ型雇用の広がりだ。企業は職務に応じてポストごとに給与を決める。将来の職務が限定されず年功序列になりがちなメンバーシップ型より、働き手は転職時の待遇を把握しやすい。企業も募集をかけやすい利点がある。

とあります。従来の日本の「年功序列型」かつ「メンバーシップ型雇用」においては、一定の年齢を超えると転職は難しくなると言われていましたが、ジョブ型が進んでいる今、年齢問わず、各々のジョブやポストに合致したスキルや経験を持つ人材の採用がしやすくなっているのです。

その他にも転職成功者が増えている理由は以下の通りです。

●構造的な人手不足を背景に、働き手のキャリアチェンジの「機会」と「選択肢」が増加。
人材不足が常態化する中、求人数の伸びと転職数の伸び(さらに転職によって賃金が増えた人の割合の伸び)からも分かるように、労働市場において、働く場所や働き方を選ぶのは「企業」から「労働者」に移ってきていると言えます。そのような中で転職を希望する人にとって、どこでどのように働くかを考えた時に、以前よりもキャリアの選択肢が増え、“選べる”状態になっていることが分かります。

●働き手の価値観の変化により、キャリアに対してオーナーシップを持つ考え方が前提に。
昨今では、「一つの会社でできるだけ長く働き続けたい」人よりも「良い条件があればいつでも転職したい」という価値観に変わってきています。さらに、「自分のキャリアは会社から決められるものではなく、自分で設計したい」という価値観へと変化していることもあり、「自分の選択で前向きな転職をする」からこそ、転職への満足度が高まる状態になりやすいのだと思います。

●自ら望む働き方ができる企業への転職が可能に。
リモートワークやハイブリッド勤務など働き方の選択肢が増えたことによって、勤務地の制約が少なくなり、様々な業界・企業からのオファーが増えたことで転職者が増加しました。自分の希望する働き方を実現できるため、働き方に対する不満は持ちにくく、転職が成功したと捉える人も増えています。また、就労観や仕事に対する価値観が多様化したことで、自分に合う環境を求めて職場や仕事内容を変えることに躊躇する人が少なくなり、転職に対する抵抗感や心理的なハードルが薄れ、柔軟にキャリアを選ぶ傾向が出てきていることも大きな要因の一つです。

●新しいスキルを習得できる、または習得したスキルを生かせる企業への転職が可能に。
働き手のスキル習得への意欲が高まり、新しいスキルを習得するための研修や育成プログラムが充実してきたことで、それらを生かせる職場への転職者が増加しました。スキルを獲得し、仕事に発揮できる状態であれば、キャリアアップの可能性も当然高まります。また、企業のDX人材獲得のニーズが高まり、デジタル知識やスキルを保有する人材は引く手あまたという状況もあります。給与やポジションなどにおいて良い条件を引き出しやすく、転職の度にキャリアアップを実現した事例も従来よりも格段に増えています。

●転職支援サービスなどの高度化に伴い、ミスマッチになる確率を抑えた転職が可能に。
企業の求人活動において、採用プロセスや採用手法の「デジタル化」・「AI活用」が進み、求職者とのマッチングの精度が上がっていることによって、転職に失敗する確率が低くなっています。転職の際、何を重視するか(何を企業に求めるか)の判断基準が明確になっていれば、条件に合う企業や仕事内容の抽出が可能となり、転職によって得られる満足度が高い状態を保つことができます。

なお、転職によってキャリアアップした人が増えている一方で、転職数自体が増えている分、「思うような成果が全く出せない」または「イメージしていた働き方や業務とは違った」というような、いわゆる採用における“ミスマッチ”が発生してしまう事例も一定数存在しています。

中途入社は即戦力として期待される。成果を出せば待遇は上がるが、思うような結果が出なければ給与が減る。外資系はより明確に運用する。成果が著しく低かったり、組織内での行動に問題があったりすると「PIP」と呼ばれる業務改善計画を会社と社員が話し合って作る。改善計画に基づいて行動し、結果が出なかった場合、降格や退職勧奨にもつながる

とある通り、外資系企業に限らず日系企業でも、「降格」や「退職勧奨」などの対応をしている企業も少なくありません。ジョブ型の中途採用が増えていく中で、その特定のジョブが十分担えなかったとするならば、降格や退職勧奨などの選択肢を企業が持っていないことは不自然であり、今後、それぞれの企業に合ったやり方が模索・確立されていくのではないかと思います。

こちらの記事にも、

ジョブ型人事を導入した企業が、従業員の「降格」に神経をとがらせている。賃金の低下を伴う降格は、これまで日本企業があまり経験してこなかった。「不利益変更」と受け止めた従業員との間に紛争が発生する恐れもある。各社は降格確定前に「改善プログラム」を用意するなど、あつれき回避に工夫を凝らしている。

とありますが、ジョブ型を導入している企業の「降格」や「異動」、「賃金変更」などの運用は、これまで日本企業が経験してこなかった不測の事態が発生する可能性もあり、労使間のトラブル防止策を講じながら、ソフトランディングを目指さなければならないはずです。

■日本の労働市場の流動化は、今後どのように進んでいくのか

従来の「年功序列・新卒一括採用・終身雇用」を前提とした日本の雇用制度では、社内の新陳代謝は促進されず、さらに、自社のカルチャーや価値観に合わない人がいた場合も雇用し続けなければならないというデメリットがありました。記事の中には、

人材の流動化が進みつつある日本だが、世界的には遅れている。労働政策研究・研修機構によると、勤続年数が1年未満の雇用者の割合は米国や韓国など主要国は軒並み2〜3割前後であるのに対し、日本は7.6%と低さが際立つ

とあります。日経企業の社員の転職率、及び日本の労働市場の流動性が他国と比べて低いままだと、グローバル企業と比較して年収差が広がっていく一方です。

ですが、今後確実に人材流動性は高まっていくとされています。人材の流動化が進むと、企業の生産性が向上して経済成長につながるだけでなく、専門的な知識やスキル、経験を持つ人材を確保できる可能性が高くなり、企業と個人双方にメリットのある条件で、経営戦略・事業戦略の実行が可能になります。

こちらの記事には、

日本の働き手は減る。日本経済を成長軌道に乗せるために不可欠なのが生産性を高める労働市場の改革だ。時代の変化に追いついていない「昭和型」の働き方を改め、成長産業に人材を移す改革を進めないと日本企業は世界で戦えない

とあります。少子高齢化、労働力人口の減少によって人手不足に直面している今、成長産業や人手が足りない産業に正規雇用の労働者を移す環境を整備しなければならないことは明らかです。

今後、人材流動化に伴い柔軟で多様性のある環境を整えるために、日本の労働市場に求められることとしては、

<市場全体>

  • 政府や企業が健全な転職市場を形成していく

  • 転職時に職位や賃金が上昇する、健全な雇用の流動を促進する

  • 職業訓練など働き手への保障を充実させる

  • 企業と政府が連携しながら、リスキリングや学び直しの機会を促進する(リスキリングのための研修プログラムや補助金制度の拡充など)

  • 市場全体で働き方の柔軟性を向上させるとともに、個人がキャリアを自主的に形成しやすくさせる(時間や場所に縛られない自由な働き方、副業や兼業の普及など)

<企業>

  • 雇用流動化が進む中で、自社に適した優秀な人材を確保し、定着させる取り組みを強化する

  • 年功序列制度を廃止し、成果主義の導入など、仕事の成果をベースとした給与体系へとシフトする

  • 待遇や評価制度の見直しなど、多様なキャリアパスを提示する

  • 職務を明確にしたジョブ型雇用の導入を促進する

  • ポストの公募など、求めているポストを明確にして社内外から最適な人材を求める

  • 多様な人材(シニア層、女性、外国人労働者など)の活用と働きやすい制度や環境を整備する

  • 労働環境の改善とともに、メンタルヘルスへの配慮や働きがいを向上させる企業文化を構築する

などではないかと思います。ジョブ型雇用の導入や成果主義の導入、ポストや役割を明確にした雇用スタイルへと多くの企業が大きく舵を切っていけば、一つの企業に依存せずに、成長産業へと人材が振り分けられ流動性が高まり、個人も企業も成長していく土壌が整っていきます

雇用流動化が進むことで、

  • 自社が求める要件を満たす人材を採用しやすくなる

  • 新たな視点や多様なバックグランドを持つ人材との接点によって、知見やノウハウがアップデートされる

  • 即戦力となる人材を採用することで、育成コストの負担を軽減できる

などのメリットが得られますが、そのためにも働き手から選ばれる企業であり続けるための施策や工夫を施し、採用競争力を高めていくことで、雇用流動化のメリットを享受し、企業成長を実現させる確率が高まるはずです。

従来の「転職」のイメージ(基本的には「今の会社に不満があるから転職する」という考え方)から、今はずいぶんと改善され、就職先の企業を選ぶ段階で「転職を前提」としていることが新しい常識とされつつあるくらいです。より前向き、かつポジティブな理由で転職という選択肢を選ぶ人が増え続け、転職によって賃金が増える人が社会全体で多くなれば、労働市場全体が活性化し、経済にとってもプラスになるのではないでしょうか。

「キャリアアップ型の転職の事例を増やしていくこと」が、日本の労働市場を活性化するための重要なポイントとなることが明確な今、経済成長を促す労働市場の流動化に向けて、様々な制約を乗り越えていくべき時が来ていると言えるのではないかと思います。

■新入社員の離職が止まらない。今企業は何をすべきか。

労働市場の流動化は日本経済の発展のためには必要とはいえ、企業からすると、若手社員の離職に歯止めがきかなくなっている今の状態に頭を悩ませていることも事実です。

こちらの記事には、

厚生労働省は25日、2021年に大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に仕事を辞めた人の割合が前の年から2.6ポイント高い34.9%だったと発表した。05年卒以来、16年ぶりの高水準だった。

とありました。これまでは「3年以内離職率3割」と言われている中、それを超える水準にまで達しているということは、転職市場の活性化と同時に、企業においては「若手人材を定着させることの難しさ」が如実に表面化しています。こちらには、

学生優位の売り手市場の中、企業が若手社員の離職防止のために、入社前から社員交流や海外研修などを企画するなど、離職防止策に取り組んでいると紹介されています。

また、こちらにある通り、

離職防止を目的として、地方で採用した社員を本社で登用してキャリアを積む経験を提供するなどの事例もあります。居住地を問わない働き方で、実際に「転勤」しなくても、転勤しないと得られなかった経験を積めるように制度をアップデートしているのです。

もちろん、これらの働き方や制度も、企業の経営戦略や方針、その時のマーケットの状況に合わせて適切に見直しがされる時がくるはずです。ただ、企業が「転職してほしくない活躍人材」や「専門的なスキルや経験を持つ高度人材」に対して、転職先で得られる「条件(給与や評価)」や「労働環境」「働き方」「働きがい」以上のものを自社で提供できているのかを常にチェックしながら、軌道修正や改善を図っていく必要があるのではないかと思います。そうでなければ、人材流出に歯止めがきかず、企業成長も危ぶまれてしまうことは間違いありません。

たとえば、こちらにあるように

“これまでの常識”を根底から覆すような働き方改革に着手する企業もあります。働き方一つとっても、業界特有のものでどうしようもないと諦められていたことでさえ、企業や働き手の意識から変えていけば、より良いやり方や方法は見つかっていくはずです。「この業界(会社)ではこの働き方でなければやっていけない」「熱意さえあればどんなに大変な環境でも耐えられるはず」などというのは、もはや通じません。そのような価値観を押し付けてしまっていては、能力も才能もある人材がどんどん離れていってしまうことは目に見えています。

転職市場の変化を受けて、企業としては何らかの対応が必要であることは明らかであり、課題認識をしている企業は多いはずです。ですが、その対応が「制度改革」なのか、「企業風土そのものの改革」なのか、「人材戦略の大幅な変更」なのか、「採用戦略や採用手法の見直し」なのか、「人材定着のための工夫」なのかなど、定まっていない企業も少なくないと思います。

一つの会社に長く勤め続けることが当たり前ではない「人材流動化時代」においては、働き手から選ばれる企業になるために、今までの仕組みや制度、雇用慣行をアップデートする必要があることに疑いの余地はなく、それを最後まで完遂させる熱意や本気度が高い企業ほど、これから変化し続ける時代においても選ばれ続ける企業へと成長していくのではないでしょうか。



#日経COMEMO #NIKKEI

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