公開情報から事実を追求する市民ジャーナリスト〜英べリングキャット
先日の日本経済新聞グローバルオピニオンコラムでは、英国拠点の市民による調査報道ウェブサイト「ベリングキャット」とその創設者であるエリオット・ヒギンズ氏のことが紹介されていました。以前から気になっていたべリングキャットについて調べてみたところ、調べれば調べるほど興味深い活動を展開し、真実を求める市民、メディア、政府からの注目を集めていることに驚きます。
「べリングキャット」とは「ベル(鈴をつける)+キャット(猫)=猫に鈴をつける」という「他人が嫌がる中で進んで難局に当たる」ことを描くイソップ寓話に由来する名前です。
例えばエリオット・ヒギンズ氏と仲間たちが今までに暴いた「事実」には以下のようなものがあります。
・ロシア軍が関与したウクライナ上空でのマレーシア機(MH17)撃墜事件
・英国で起きたロシア人元スパイの毒殺未遂事件
ヒギンズ氏はジャーナリズムやインテリジェンスの専門の訓練や職業経験がある訳ではなく、インターネット上の公開情報を誰でも利用できるグーグルマップなどのサービスを利用することで解析・分析するところが画期的です。世界各国のインテリジェンス専門家が見出すことが出来ないような事実を次々に暴き出したことでジャーナリスト、人権NGO団体などの間で高い評価を受けています。先月末にはべリングキャットの活動を描いたドキュメンタリー映画が優れたテレビ番組やその製作関係者を表彰する「エミー賞」を受賞したことも明らかになり、ますます活動の幅が広がっていきそうです。
フェイクニュースが世にあふれる時代、真実を突き止める新たな市民ジャーナリズムが注目を集めている。ネット情報に精通した先駆者たち「ベリングキャット」の活動を追う。
エリオット・ヒギンスが率いるグループは、画像分析や音声解析、位置情報の特定などに精通したメンバーとボランティアからなる。既存の主流メディアとは一線を画し、誰もがアクセスできるオープンソースの情報を使って、ウソと真実の見極めを行う。2014年にウクライナで起きたマレーシア航空機撃墜事件や、シリア内戦でのテロ組織による「集団虐殺」のニュースで、いかに情報がねつ造され、流布されていったのかを暴く。
NHK BS世界のドキュメンタリー 紹介文より
【映画の予告編】:本編はこちらのリンクから視聴可能です
冒頭ご紹介したべリングキャットがまとめたオンライン調査ツールのまとめ集は、公開されているグーグルドキュメントに26ページにも渡ってまとめられています。オープンソース的に新しい情報も募っているので更に充実していくことと思われます。
べリングキャット設立のきっかけは2014年夏に始めたクラウドファンディングキャンペーンでした。当時少額ですが私も寄付をしたことを思い出します。2014年7月15日の立ち上げ直後の7月17日にはMH17撃墜落事件が起こり、一気に世界的な注目を浴びる組織に成長していたことに改めて驚きます。活動の様子は今年の夏にはポッドキャストもスタートし、来年にはヒギンズ氏の著作も出版される予定とのことです。
こうして世界中から称賛されるヒギンズ氏ですが、インターネット上ではロシア政府寄りのアカウントなどから「西側寄りのプロパガンダ活動家」として日常的に批判されていることも分かります。べリングキャットの資金源としてはジョージ・ソロスのような篤志家、市民インテリジェンスの手法を教えるワークショップ実施の際の収益などが半々ずつであり、CIAやMI6などからの資金援助は得ていない、とべリングキャットはその独立性を謳っています。
来年3月にはウクライナ上空でのマレーシア機(MH17)撃墜事件についての裁判が始まります。関与の否認を続けるロシア政府が明確な証拠にどう対応するのか、真実の行方はどこにあるのか、ますます注目があつまりそうです。
Photo by Franki Chamaki on Unsplash
参照記事:
欧州ニュースアラカルト:国際合同捜査を驚愕させた調査報道 MH17撃墜事件とベリングキャット - 毎日新聞