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スタートアップとNPO/NGOを結ぶ線上にあるもの

スタートアップに関わる仕事を始めて10年以上になるが、いつも悩ましく思うのはお金のことだ。

ベンチャーキャピタルなどの投資家がリスクマネーをスタートアップに投じ、それを元手にスタートアップが通常の融資や手持ち資金では成し得ない急成長を遂げる。それによって、成功したスタートアップのメンバーと共にリスクを取った投資家が資金を回収しリターンを得る。この基本的な仕組みについては必ずしも悪いものではないと思う。投資家の期待が、短期間のうちに成果を得られるようにスタートアップを駆り立てる。

ただ、これが行き過ぎればスタートアップも投資家も、金のために踊る結果になってしまう。ユニコーンがもてはやされることについても、そうした功罪を感じることがある。下記の記事で紹介されている「2つのビーアンドビー」は、こうした課題を表すエピソードだろう。

昨今では、自治体がユニコーンの輩出を目標に掲げることもあるが、それによって地域経済が発展する面もあるものの、お金に振り回されるという負の側面もないとは言えないことは、記事を読めば分かる通りである。

そもそもスタートアップと社会貢献を目的とした組織である NPO や NGO は、営利か非営利かという点は違うものの、組織構造としては非常に似たところがある。どちらも若い人が中心になって組織が作られることが多く、またその組織の活動目的は社会課題の解決というミッションドリブンであるという点でも共通する。

このため、組織体として抱える問題は NPO・NGO とスタートアップで共通するところが多い。これは、両方のタイプの組織に関わる経験を通じて、私が感じていることだ。

一方、大きな違いは、営利か非営利かの違いによってお金の使い方に差が出ること。端的には、組織に所属するメンバーへの報酬の違いとして現れる。NPO や NGO を見ていると、活動目的とするミッションには共感していながらも、報酬が十分ではないことで、やむなく組織を離れる人たちもいる。NPO や NGO の給料では、家庭を持ったり子供を持ったりすることが難しいというケースもある。このため、私のかかわった組織では、長く在籍するのは女性、という傾向があると感じられた。未婚であれば親元にいて、結婚してからは共働きだが、パートナーの男性の給料が将来の出産・育児を支える主軸になる。このため、女性に比べ男性、特に若い男性がNPOやNGOに専従で働き続けられるケースは少ないと感じていた。NPOやNGOに活動資金を寄付する人たちは、社会課題の解決自体には関心があるものの、そのための組織運営に資金が必要である点についての理解や関心は薄く、結果的に課題解決のためのお金はあっても解決にあたる人に払うお金がない、という状況も見聞きした。

それを思うと、スタートアップが大きな成長を成し遂げ、それに応じて十分なお金を得ることや、ストックオプションで将来の報酬のチャンスを確保できることは、目的に共感して働くことのサステナビリティを担保する、という一面があると思う。また、営利組織としての会社は、法律で定めたルールを守る前提で、何にどうお金を使うか、稼いだ利益をどう使うかの自由度は高いとも感じていた。

こうしたことを考えると、社会貢献的な活動でありながらもビジネスとして一定の収益を生むことが、結果的には社会全体にとっての利益を最大化するために大切なことなのではないかと思う部分がある。

幸い、昨今では下記の記事にある通り、「ソーシャル・インパクト」が成功を測る指標のひとつとして加えられ、それを狙うスタートアップへの出資も増えており、また「ソーシャルインパクト・ボンド」による資金の供給・循環も増えつつある。

お金の問題は常に悩ましいところではあるが、お金がなければ始まらないし、一方でお金だけを追い求めることになれば組織としての目的が狂ってしまい、そこにいる人が働く意味を見失ってしまうこともあるだろう。

岸田政権が「新しい資本主義」の構想に着手したという。果たして、こうした課題に応える構想がまとまるのか。見守っていきたい。


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