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「ブラック・ショールズ」と理系人材

金融のデジタル化で、ITを使ったフィンテックの活用などが広がっています。この流れを受け、金融機関のトップに求められる資質も変わり始めているようです。新コラム「金融コンフィデンシャル」では、メガバンク「2強」で理系トップが誕生する可能性を解説しています。

金融コンフィデンシャルは原則週初に公開します。通常のニュースでは埋もれてしまいそうな背景や水面下の動きをベテラン記者が描く新コラムです。

記事では、理系人材として三菱UFJフィナンシャル・グループ副社長と三菱UFJ銀行副頭取を兼務する亀沢さんを紹介しています。数学的思考を必要とする分野の責任を担っています。詳しくは記事で確認してください。三井住友FGのほか、すでに理系人材がトップの保険会社も登場します。亀沢さんについては、日経電子版の人気コラム「ストーリー」でも詳しく紹介しています。

もともと金融業界には保険の商品設計に取り組むアクチュアリー(保険数理人)など理系出身者はいましたが、急速に理系人材のニーズが高まったのは1990年代後半ではないでしょうか。デリバティブの理論価格を算出する「ブラック・ショールズ方程式」を構築したマイロン・ショールズ氏がノーベル経済学賞を受賞したことで、理系人材に注目が集まりました。ある大学の理系研究室から初めて銀行員が誕生したのもこの時期です。

当時は金融数学を専攻しない確率や統計分野の学生も、一生懸命この方程式(確率微分方程式)を学び、数学が明らかにする経済の仕組みにとりつかれました。正規分布や分散など数学知識で経済現象を分析できることに一種の楽しさを感じていたのではないでしょうか。就職活動では、国内外の金融機関が優秀な理系学生を採用しようと、研究室OB経由で食事に誘ったり、特別セミナーに招いたりしていました。大手行の行員に何度も食事に誘われ、へとへとになっていた理系学生もいました。

デジタル化の流れを受け、再びメガバンクの採用担当者が理系人材の囲い込みに走り回っているようです。コラム迫真では、理系学生からの認知度の高くないメガバンクが、理系の研究室訪問を増やしたり、理系向けインターンシップ枠を拡大する現場を紹介しています。

数学的知識がないと株の値動きのリスク管理すらできません。消費者行動を知りたい業種であれば、データアナリストは不可欠です。金融業界に限らず、理系人材へのニーズは、今後も膨らみそうです。

(デジタル編成 島田貴司)