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『大企業=安泰』の時代の終焉。就職先を「大手かスタートアップか」の二択で選ぶべきではない理由。

皆さん、こんにちは。今回は、こちらのテーマに沿って書かせていただきます。

就職活動を始めると、誰もが直面するのは「就職先をどのように選ぶか」ですが、これには答えがあるわけではありません。

何の事業をやっているかで選ぶ方がいいのか、どんな環境で働くことが自分に合っているかで選ぶ方がいいのか。ネームバリューがある企業がいいのか、将来性がある企業を見極める方がいいのか。
それまでの人生で直面してきた、「どの高校、どの大学がいいのか」「どの部活に入ろうか」「アルバイトは何がいいか」というような選択とはまた違い、急に難易度が高い選択を迫られて戸惑う人が多いはずです。

そのうちの「大手企業がいいかスタートアップがいいか」で迷う人は多く、よく質問を受けることも多いです。

具体的にどのように就職先を選定していくのが良いか、考えてみます。


■就職先の選定軸

就職活動の面接において、「企業選定の軸は何ですか?」という質問を投げかけられるという人が多いと思いますが、この「就活の軸」とは、企業や仕事を選ぶ上での自分なりの基準のことを指します。面接官はこの質問によって、候補者がどのような考え方をする人なのか、どのような価値観を持った人なのか、自社にフィットするかどうかを見極めているのです。

答え方は様々で、

自分の好きなことややりたいことを仕事にしたい(好きなこと/興味があることを重視)
これまでの経験が活かせる仕事がしたい(自分の強みや武器が活かせるかを重視)
社会貢献につながる仕事がしたい(社会的意義を実感できるかを重視)
社員(人)や社風(文化)が自分に合っている職場で仕事がしたい(自分に合う環境かどうかを重視)
確実にキャリアアップできる職場で働きたい(肩書きや年収など、好待遇かどうかを重視)
無理せず長く働ける職場で働きたい(ワークライフバランスなどプライベートとの両立ができるかを重視)
自分の成長を実感できる職場で働きたい(自己成長や自己実現ができるかを重視)

などの答えが比較的多いように思いますが、中には今回のテーマのように、「大手企業かスタートアップか」という“選択式”で、選考を受ける企業をいきなり絞っていく人もいます

では、どのように就職先を選定していくのが良いかですが、まず前提として、会社の従業員数や支社の数などの“規模”だけで企業を選ぶことはオススメしません。また、創業から何年たっているかという“創業年数”だけで、歴史のある企業だからこの先も将来安泰であるというような考え方も少し危険です。

「歴史ある規模の大きな会社=大手企業」であることは間違いありませんが、一昔前のように「大手企業に入ると確実に安定したキャリアが描ける」というわけでもないのです。終身雇用は崩れ始め、早期退職や転職が当たり前の時代になっています。

リーマンショックやコロナショックなど、誰もが予想すらしなかったような危機は数年に一度のペースで確実に訪れます。過去の歴史を見ても、そのような経済危機に直面し、生き残りをかけた努力を必死で行わなければならない場面に何度も遭遇しているのは、規模の小さい企業に限った話ではないのです。

大事なポイントの一つは、「自分にとってどのような企業が理想のキャリアパスに近づけるか」「自分にとってどのような企業が、将来のビジョンから逆算した時にその実現確率が高まるか」という目線を持つことではないかと思います。

●大手企業を選ぶ理由としては、

・大手企業に入社すれば拍が付き、転職もしやすい
・スケールの大きな仕事に携わりたい
・研修機会や育成制度が整った会社で確実に成長したい
・給料やボーナスが安定していて福利厚生も充実している
・社会的信用が高い
・人材が多く多様な人脈が作りやすい

●スタートアップを選ぶ理由としては、

・「安定」よりも「挑戦」を選びたい
・個人の自由度や裁量権が大きい環境で働きたい
・若いうちに多くの経験を積みたい
・誰かに決められたことをするよりも、自分で仕事を生み出していきたい
・経営の意思決定が早く、成長スピードが早い環境で働きたい
・ルールや常識、前例に囚われずに柔軟に働きたい

などが挙げられます。

一概にどちらが良いということはありませんが、それぞれメリットデメリットがあるため、二者択一ではなく、選択肢をもっと広げて考えた方が良いのではないかと思います。

たとえば、直感的に「大手企業が良い」と思ったとしても、なぜ大手企業が良いのかをブレイクダウンしていき、そこに「仕事のスケールの大きさ」と「育成環境」などの要素があった場合に、その要素をコアな選定軸に据える方がよほど現実的です。そしてその場合、「スケールの大きな仕事とは何か」「自分が求めている育成環境とは何か」を考えていった先に、結果的にスタートアップ企業を選択することも十分あり得る話なのです。

このようなステップを踏まずに迷わず「大手企業が良い」と思う人の多くは、「他者から評価されやすい(すごいと思われたい)」「スタートアップよりもリスクを抑えられる(リスクは避けたい)」のような要素が少なからずあり、「何の事業をやっているか」「どのような収益モデルで将来はどんな会社になることを目指しているのか」という本質的な部分が欠如しているように思います。

まずは、他者からどう思われるかを気にして企業を選定するよりも、自分がやりたいことに合致しているかなど、本質的な軸で選定し始める方が、良い結果につながるでしょう。

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■大企業からスタートアップに転職する人も増加

スタートアップへの転職意欲が高まっている。エン・ジャパンが30~50代のミドル世代にアンケート調査したところ、全体の8割近くが転職に前向きなことが分かった。事業の革新性や裁量の大きさが魅力のようだ。一方で「年収が下がっても転職したい」との回答は2割程度だった。スタートアップの待遇改善が人材獲得のカギを握る。

とありますが、一度大企業に就職した後、スタートアップへの転職を検討する人も増えています。大企業に入れば必ず昇進や昇給が保証されているわけでもありませんし、働き方や価値観が合わないと感じる若い人も少なくありません。

スタートアップへの転職意欲が高まっている背景には、他にも「スタートアップで働く同世代の働きぶりを見て、危機感を抱く」といったものや、「大手企業に憧れて入社したものの上が詰まっていて、自分がある程度の肩書きを得るまでに何年もかかる」という現実に直面したり、「安定した会社に入ったつもりなのに、このまま働き続けても50代、60代になって雇用が保証されない可能性がある」というような意見もあります。

「スタートアップ」の定義は実は曖昧で、創業から間もない企業もあれば、立ち上がってしばらくした企業、事業の拡大フェーズに入った企業、IPO間近の企業、さらに次のステップに入った成長企業など様々です。
資金調達に成功し、事業だけでなく人材に投資できるようになったスタートアップ企業が積極的に採用活動を行うことによって、大手企業から転職する事例がどんどん増えていることも、転職意欲が高まっている理由の一つです。

前述した通り、大手企業とスタートアップ企業はそれぞれの良さがあり、どちらが良いというのは人によって(企業によっても)異なるため、どの選択をしたら正解ということはありません。会社の規模に関わらず、会社の成長戦略や成長フェーズによって、どのようなスキルや能力を持った人材を欲しているのかも、常に変化し続けるものです。

「大手企業での経験を活かしてスタートアップで活躍する」、そしてその逆も然りで「スタートアップでの経験を活かして大手企業で活躍する」といった事例は増え続けると思います。

今後、大手企業とスタートアップ企業の間で人材流動性がこれまで以上に高まり、転職へのハードルが低くなり、個人としてのキャリアパスの選択肢が増えることが望ましいと思います。

■「企業選定の軸を定める」以外に大事なこと

これまで述べてきた「企業を選定する上での軸」以外で、就活を始める際に大事なポイントをいくつか付け加えます。

まずは、【外から見る印象だけで就職先を決めない】ということです。

中央省庁の幹部候補である国家公務員総合職が、就職市場で人気を下げている。2021年度試験の申込者数は12年度以降で最少だった。

・過酷な労働環境のイメージ
・学生のキャリア観の変化
・民間企業の採用拡大

などによって、国家公務員を希望する学生が毎年減少し、その結果、コンサルを中心とした民間企業に人が流れているようです。一方で、
・社会にとって必要な仕事をすることで社会貢献したい
・公共のために仕事をしたい
・やりがいのある仕事をしたい

などとポジティブな意見もあります。

高層ビルや大型商業施設を開発する総合デベロッパーに憧れる学生は多い。街づくりを担う華やかな業界イメージに加え、同じく給与水準の高い総合商社などに比べて残業が少ないとされるからだ。

デベロッパー業界は、学生から
・実際の仕事内容がイメージしやすい
・残業が少なく、ホワイト企業のイメージがある
・待遇の良さが魅力的

などと思われていることが多く、人気業界の一つです。華やかな印象を持たれる一方で、実際は泥臭い仕事も多いため、できるだけインターンシップなどを通して実際の業務を体験してもらい、学生とのミスマッチを防ぐ取り組みをしているようです。

新型コロナウイルス下でも、総合商社の就活人気は依然高い。2022年卒の就活生の人気ランキングでも、大手各社がそろって上位に並ぶ。

・給料などの待遇が良い
・就職先としてのステータスが高い
・グローバルなフィールドで自分を高めたい

などと、総合商社の人気は相変わらず高いです。一方で、
・上下関係の厳しさがある
・年功序列のため、第一線で活躍するまで長い時間がかかる

などの理由で、別の業界に流れる学生もいるようです。
学生からの人気の高い総合商社だからこそ、世の中的にはステレオタイプな業界のイメージが流布しています。

3つの記事を引用しましたが、共通しているのは、世間の業界や企業に対する印象と、実際の社内の様子(人や風土など)とでは、当然ギャップがあるということです。
自分が抱いているイメージとズレがないかを確認するためにも、周囲の声に惑わされず、自分の目で見て、自分の耳で聞き、自分の判断軸で、慎重に適した業界、適した企業を選ぶ必要があります

もう一つは、【素の自分をさらけ出した方が結果的に双方にとって良い】ということです。

たまたま当社の事例が掲載されていますが、

「当社の強みを生かした子会社の事業を考えてください」。サイバーエージェントはビジネスのアイデアについてお題を出し、それについて学生が即座にアイデアをまとめて回答するという選考を実施する。動画選考と集団面接の間などに実施する「トライアウト」というプロセスだ。
質問内容は面談ごとに変わる。毎回、学生の回答に面接官がフィードバックし、選考を通じてアイデアを磨き上げていく。同社の人事担当者の松村留里子氏は「取り扱うテーマは入社後の仕事にも近い内容だ。トライアウトでの社員との関わりを通じて自身の性格と企業文化が合っているか確かめてほしい」と狙いを話す。

とあります。さらに記事の中には、

こうした課題に戸惑う人もいるようだ。「選考を突破しようと思うあまり、面接官に刺さる『正解』ばかりを探している自分に気づき落ち込んだ」。数年前にサイバーエージェントの選考を受けた薬師寺健斗さん(仮名)はこう振り返る。

とありました。
選考を受ける学生は、
・質問に対する“正解”を探して答えようとする
・自分を偽って、会社に合わせようとする
・自分をいかによく見せるかを考える

ということは当たり前で、素の自分をさらけ出すことに抵抗があると思います。

ですが、多くの企業での新卒採用面接での質問は、いわゆる定型フォーマットの「志望理由」や「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」から、学生の本心を探るものにシフトしています。

学生の本来の姿を見るために、企業はあらゆる工夫を施しながら本音を引き出そうとしますが、ただユニークな質問をぶつけていれば良いわけではありません。
企業のカルチャーや働き方、価値観や理念に基づき、採用したい学生をしっかり見極めるための、一貫性のある選考フローが必要なのです。企業も学生もどちらにとっても、それぞれが偽りの姿を見せるのではなく、企業らしさ、学生らしさを十分お互いに伝え合いながら、ミスマッチを回避するための工夫をしなければいけないのだと思います。

■「挑戦」の解釈の変化

話を元に戻しますが、よく『大手企業は「安定志向」で、スタートアップは「挑戦志向」が強い人が集まっている』と言われます。果たして本当にそうなのでしょうか。

大手企業の挑戦とは、
・潤沢な経営資源を使って大きなリスクがとれる
・スケールの大きな仕事にアサインされる機会がたくさんある
・多様な事業経験によって、あらゆる能力を身につけることができる

スタートアップの挑戦とは、
・今までやったことがない、あるいは経験したことがないことに取り組める
・「自分で決める」経験をたくさん積める
・社員一人ひとりの役割の範囲が大きく、仕事に当事者意識を持てる
・経営者(またはそれに近い人)の目線に立って仕事ができる


などです。一概に大手企業は「挑戦できる環境ではない」と言い切れず、むしろある程度の安定が担保された中で、スケールの大きな仕事やプロジェクトに挑戦する機会は想像以上に多いのではないかと思います。

大手企業にもスタートアップ企業にも、挑戦志向が強い人もいれば、安定志向が強い人もいます。どの企業にいても、自社が挑戦できる環境であると感じるかどうかは、人それぞれなのかもしれません。
個人の挑戦意欲が高くなければ、目の前に転がっているせっかくの成長機会も見逃してしまっている可能性すらあるのではないでしょうか。


最後に、あくまで私の経験だけで申し上げますが、就活生の頃、大手企業かスタートアップかで最後まで悩みに悩んだ末、当時従業員数が100名程度の規模だったサイバーエージェントに就職を決めました。理由はシンプルに、IT業界が「成長産業」であること、そして「圧倒的な裁量権の大きさ」や「(会社と個人の)成長スピード」に惹かれたこと、さらに「自分で会社を大きくしていく(または業績貢献していく)実感」を得たいと思ったことが主な理由です。

私の場合は一度も当社以外の企業に勤めたことがないので、比較対象先がなく、この選択が正解だったかどうかは分かりませんが、少なくとも今まで一度も後悔をしたことはありませんし、その時の選択があったからこそ、これまで約20年近くにわたって会社がどんどん成長し大きくなっていく過程を目の当たりにし、会社の目標と自分の目標が重なってきたことに大きな喜びを感じています。

・市場の変化に対応しながら会社の形も変化させ続けてきたこと。
・会社が伸びている分、社員も同じように成長し続けてきたこと。
・自分のやりたいことを、仕事を通じて実現できているということ。
・若いうちから成功経験だけでなく、失敗経験もたくさん積むことができたこと。
・ベンチャースピリットを忘れず、自分たちで会社や事業を創っているという感覚を持てていること。

これらは、なかなか大手企業では得られない感覚ではないかと思っています。今もし私が就活生だとしたら、また同じように「スタートアップ企業」を選択すると思います。

就職先を決めることは人生の中でも大きな決断の一つであることは間違いありませんが、仮に失敗したと思ったとしても、それで人生の目標が叶えられなくなるわけでも、やり直しが効かないわけでも全くありません。

自分が選択した道が“正解”であり、自分が選んだ道を“正解”にする努力が必要であり、もっと言うと、必ずしも“正解”か“不正解”かにこだわる必要は全くなく、自分らしく、つらい時・大変な時・憂鬱な時がありながらも楽しくポジティブに仕事に向き合えていることが、何よりも重要ではないかと思います。


#日経COMEMO #就職は大手かスタートアップか

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