見出し画像

ブックストア・エイド基金が最終日を迎えて思うこと。

お陰様で全国のミニシアターを支える為の緊急対策のクラウドファンディング
『ミニシアター・エイド基金』が日本のクラウドファンディング史上最高額となる3.3億円を集めで完了致しました。皆様本当にありがとうございました。ちょうどミニシアター・エイド基金が終わってしばらくして、各地で緊急事態宣言も解除されてきています。しかし、ウイルスの感染力と緊急事態宣言に相関は無いので、引き続きミニシアターも大変な闘いが続くことは想像に固くありません。ひとまず起きてしまった行動変容から、再度「これまでの映画館の日常」を取り戻すまでには大変な労力と時間がかかるのではと思います。それまで気を緩めずに、我々も精一杯サポートしていきたいなと思います。

というかたちで本来なら、

の後編を書くべきかもなのですが、
今MOTIONGALLERYでは、
①ミニシアター・エイド基金
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid
②ブックストア・エイド基金
https://motion-gallery.net/projects/bookstoreaid
③小劇場・エイド基金
https://motion-gallery.net/projects/shogekijo-aid
④山小屋・エイド基金
https://motion-gallery.net/projects/yamagoya-aid
と4つの緊急支援基金を行っています。
それぞれ、これまでMOTIONGALLERYが10年間一緒に歩んできた、そしてそもそもMOTIONGALLERYが立ち上がる目的であった、広義の文化芸術の為のプロジェクトです。

今日は、ブックストアエイド基金について書かせてください。

ブックストア・エイド基金は何故立ち上がったのか

それは、まさにミニシアター・エイド基金が立ち上がった直後でした。

阿久津隆(作家、本の読める店 fuzkue)さん、内沼晋太郎(ブック・コーディネーター)さんから、ミニシアター・エイド基金と同じ様に、コロナ禍で経営の困難さがましている書店も支える活動ができないかと相談頂いた事がスタートでした。

ミニシアター・エイド基金も、目標金額1億円を突破したとはいえ、まだまだ道半ばで全然落ち着いてはなかったものの、ここでも「やるしかない」と思いました。
クリエイティブ全般の活動を支えて来た『MOTION GALLERY』では、当然ながら本や書店のプロジェクトも数多くこれまでやってきた、だからこそ恩返し(といっていいのかはわかりませんが)の気持ちもありますし、全ての業界・すべての人に被害が及んでいるコロナ災害だからこそ、ミニシアターのサポートだけではいけない、ここで終わってしまうと誤ったメッセージを発信してしまうことになると感じていた危機感とも合致しました。

物心ついたころから、よく入り浸っていた近所の本屋さん。
そこで出会った本の数々は、自分の血肉になっています。

映画や現代アートは、何かそれまでの人生観や世界観を大きく揺さぶられる経験がとても多い。だから鮮明に覚えている作品は、同時にそれを見た映画館や美術館の記憶も一緒にしまわれています。

一方、書店は何か違う気がしました。
何か絶対に町から失ってしまってはいけないものであるのは間違いないけれども、ミニシアターともミニシアター・エイドとも違うものになりそうなこの感覚は何ののか。

そんなことを、同じく発起人として活動している
武田俊(編集者、文筆家)さん、花田菜々子(作家、書店員)さん
を加えた5人で話していたら、出てきた言葉は「森林浴」でした。

確かに、
映画やアートのような数時間で摂取して衝撃的に揺さぶられる体験というよりも、
本は、日々少しづつ摂取し、そして反芻して血肉になっていく感じがあります。
映画やアートがコーヒーなら、本は酸素みたいなものかしら。

だから、本屋さんがまちに必要不可欠であり、人が本屋さんに行って感じる得も言われる幸福感って、町に公園があり森林浴をしにいくような感じなのではという、一つの結論は、とても納得感があったものでした。

実は、ブックストア・エイドのビジュアルもそういう議論から出てきたものです。

画像1

このビジュアルは、惣田紗希さんの素晴らしいビジュアルを使用させて頂いています。本当にありがたいです。

ブックストア・エイド基金は、書店の何を助けるのか

ミニシアターと書店との違いは、そんな体験の部分だけでなく、
エイドの目的にも出てくるよねという議論もありました。

書店は、ミニシアターと比べても、その内容も大きさも経営形態も多種多様。圧倒的に店舗数も多い。そしてなんといっても

①三密が運命づけられているわけではない
②購入と鑑賞が一体ではない

というところがあるかと思います。

①に関しては、お客さんを予約制にする、お店の換気を良くしておく、などの工夫で、感染対策と営業の両立を図れる部分もある気もしています。おそらくそういう判断もあってか、実際にGW中から書店の営業再開の動きは始まりました。

②は、コロナ禍に関係なくAMAZONなどのECの台頭により普遍的な課題になっているところかと思いますが、映画館との大きな違いはまさにここだと感じました。
映画は、基本的には映画館というフォーマットでの上映を前提に製作されています。そのため、映画館がなくなる事は映画が死ぬ事とイコールです。
(映像と映画の違い、ネットフリックスオリジナルは映画ではないと言っていいのか(ROMAは完全に映画といってよいものでしたし)という話はめっちゃ長い話になるのでこ子で割愛)

一方で、書店は販売するところではあるけれでも、(当然ですが)本屋で読むことを前提に本は作られていないので、ECで買うことと何が違うのか・本屋がなくなることと出版文化がなくなることはイコールであるんだ、という事を伝える事、書店の体験提供価値のクリスタライズがかなり重要であり大変であるというところが、おそらく「ミニシアターを救おう」という言葉の持つ直感性と大きく違うところかなと思います。

それを踏まえて、ブックストア・エイド基金はクラウドファンディングのページでこんなステートメントを出させて頂きました。

すべては助けられないかもしれない、でも、そのきっかけは作れるかもしれない
「ブックストア・エイド基金」は、わずか3日で1億円を集めたことでも話題の「ミニシアター・エイド基金」に影響を受けています。「ミニシアター・エイド基金」と同じように、みなさんの支援をクラウドファンディングで集め、存続のための新たな一手を模索中の書店・古書店の動きを止めないための緊急支援です。そのため「最たるリターンは書店・古書店の存続」とし、できるかぎり多くの金額を対象となる書店・古書店に還元します。

一方、ミニシアターと書店・古書店とは、それぞれの地域の文化を担う大切な存在であるという共通点があるものの、いくつか異なる点もあります。

まず、長時間を密室で過ごすことが営業の前提となるミニシアターと異なり、書店・古書店は立地や物件環境にもよりますが、いわゆる「3密」状態を可能な限り避けての営業ができないわけではありません。また、前述のように営業スタイルも多様であり、インターネットを介した販売(EC)や、本の販売以外の業態との掛け合わせなど、売上を得る手段が完全に閉ざされているというわけでもありません。

しかし、書店も古書店も、もともと厳しい業界です。この状況が長期化すれば、対応しきれずに閉店を余儀なくされる書店・古書店が大量に出てくることは避けがたいと考えられます。現在、開店しているところも休業しているところも、ECその他で売上を上げているところも、本来継続していくために必要なだけの利益を上げられているところは、よほど特殊な状況下にない限り、ほぼ皆無といってよいはずです。

いま書店・古書店に必要なのは、この状況下を生き延びるための方法を考える時間だと、私たちは考えています。集めるのはその時間を稼ぐためのお金です。

ただしもうひとつ、ミニシアターとは異なる最大の課題は、書店・古書店はその数が圧倒的に多いということです。統計上だけでも書店は1万店以上あり、全古書連の加盟店だけでも2000店以上あるといいます。実質的に営業をしていないところや、実店舗を持っていないところを差し引いても、一方で統計に含まれない書店や全古書連に加盟していない古書店などを加えれば、合わせて1万店を下ることはないでしょう。しかし、クラウドファンディングの支援総額を1万店で割ってなお、実効力のある金額を分配をするためには、途方もない金額が必要となるでしょう。

運営に携わる私たちは、企画当初からそのことに悩み続けています。この取り組みが完全でないことは理解しています。しかし、それでも、書店・古書店が元気を失ったり、まちからなくなっていく姿は見たくない。そのために小さくともできることがあるなら、やらないよりは、とにかくスピーディに立ち上げるほうがいい。そのように考え、急ピッチでヒアリングや準備をはじめ、企画の発表から1週間足らずでプロジェクトのスタートに至りました。

「ミニシアター・エイド基金」と異なり、参加書店・古書店は公募で、自己申告という形を取っています。立ち上げの告知からプロジェクト開始までの期間は短いものでしたが、困っているという自覚と、困っている人であるほど探しているはずのこうした情報にアクセスする早さとに、委ねる方法をとりました。何を線引きの要件にしても、書店・古書店の困窮度合いを、第三者がはかることはできない。よって公募を前提とするというのが、私たちの考え得る限り、もっともフェアな方法でした。

そうした方法を取っているため、いまの時点では、あなたの家の近所の書店・古書店は、必ずしも参加書店・古書店に名を連ねていないかもしれません。けれど、どの書店・古書店も、そのお店を愛する誰かにとっては、なくてはならない、とても大切な場所のはずです。

これが、まさにブックストア・エイド基金が実現したいこと、そしてその思いです。緊急事態宣言が解除され、営業再開された書店も増えましたが、ある意味ではだからこそ、今ブックストアエイドの取り組みが目指している事の意味が強まっている気もしています。

書店に対して思っている、とても個人的な思い

もののついでに、ちょっと自分の書店に対して今思っている事を少しだけお話させてください。

自分にとって本は、カタルシスとは縁の遠いものだと思っています。
特に中学生か高校生の時に名著だと言われて読んだ『罪と罰』なんて、読んでる自分が罰を受けている気分でした。登場人物の名前や呼び方もコロコロ変わるもんだから何度さかのぼって読み直したことか。もはや苦行なのではないかと思ったものでした。でもいつしかその苦しみが楽しくなり、読書は続いています。今の自分の本棚を今ふと見直してみると、めっちゃカオス。ジャンルも並びもめちゃくちゃでした。同じ人文系ぽいと思って並べているエリアでも、

テッサ・モーリス‐スズキ 著『自由を耐え忍ぶ』
https://www.iwanami.co.jp/book/b261915.html
マイケル ウォルツァー 著『政治と情念』
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784938662875

といったリベラルっぽい政治哲学書のとなりには、その考え方とは真逆といっていいピーター・ティール著『ゼロ・トゥ・ワン 』
https://www.nhk-book.co.jp/detail/000000816582014.html

というビジネス書に見せかけたリバタリアン全開の哲学書が並んでいたりと、多分何を考えているひとかは本棚だけだとさっぱしわからないようになっている気がします。ちなみに、私のバイブルは『ライ麦畑でつかまえて』だったりします。好きな映画をみると結局『ライ麦畑でつかまえて』からの引用が多いことに気づくことがおおく、かなり後世の表現者に影響を与えまくっている本でもあります。

でも、どんなジャンルやカテゴリーであれ、思考性に違いがあれ、歴史を踏まえて新しい言説や表現を紡ぎ出そうとしているような『知性』が詰まった本を、雑食であり読み漁ることは、読み手の世界を広げますよね。エコチェンバーな世界にどんどんなっているネットの世界では起こりづらくなっていいる重要な要素です。そして、そのような1つの方向性だけでない反対の意見や言説に触れ、自分の考え方も相対化され続けることで『知性』がかなり鍛えられていった感覚があります。まさに血肉となる感じ。
(当然私が知性がある人間であるということではなく、あくまで自分の相対的なはなし、当社比2倍みたいな意味ですのであしからず・・・)

まさに、知性を授けてくれるのが本であり、その本が茂っている森が書店ですね。

ここで注意しなくてはいけないのは、『知性』と『知力』はべつものだということです。『知性』があることと偏差値が高いことはまったく相関しません。
『知性』は世の中をうまく渡っていく術だったり、なにかをショートカットしてハックするためのものではない、むしろその為には足かせになりかねないものです。
『知性』とは、意志や感情を乗り越えて、普遍的(立場が逆になっても同じ主張を保てる事)な判断を行う為に必要な能力だと思います。だから、偏差値が高くて頭がいい『反知性主義』者というのは容易に存在しえるわけです。

今、売れている本をざーっ眺めると、そういった『知性』が孕むややこしさや煮えきらなさに辟易とした世情を表すかの様に、エビデンスが不確かであっても断言する事がもたらす「カタルシス」が詰まった本が並んでいる様に感じます。自己啓発系の本だったり、ヘイト本だったり。そういうのが書店で平積みなっているときにいつも複雑な感情になります。はっきり言って、その私の感情も単なる私の好みのだと思います。反知性主義的な本にもやもやする態度自体が反知性主義かもしれないなあとかいつも一人でもやもやしています。そして本で利益を出すことは重要です。どんな本であろうがしっかりとそれによって利益をだして、出版にまつわるエコシステムがしっかりと回っていくことはとても重要でしょう。でも、その結果、ECが伸び、そして活字離れが進んだ世界に残った書店という森が、ゆっくり知性に触れる場所でなくなってしまうのではないかという漠然とした不安もあります。

今回のブックストアエイド・基金の裏テーマとしては、この知性の森たる書店の形を守る為に、その文化を愛している人達が書店を応援するムーブメントなのかもしれない、そんな風にも今思ってます。

最終日までにこんな取り組みをしてきました!

さあ、そんなこんなで最終日となったブックストアエイド・基金ですが、
4000万円を超える応援を頂いています。ありがとうございます。

これまでに、ポッドキャスト番組でもいろんなお話をしましたし、

この2日はぶっ通し8時間ライブ配信も行いました!

・27日(水)「本と本屋について何でも聞けるナイト 第一夜」:
https://youtu.be/5-BnZObV-uM
・28日(木)「本と本屋について何でも聞けるナイト 第二夜」:
https://youtu.be/b6bXLKI6k28

この我々発起人を含めた、本を愛する人達の思いよ届け!
そしてまだプロジェクトが届いてない、本を愛する人達になんとか本日中にこの基金の話が伝わるといいなと思っています。

最後まで何卒宜しくお願いします!

最後に、素晴らしいコメントを頂いたので紹介します。是非是非ご一読ください。





頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!