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「縮まない。価値を生む」を突き通す。

転んでもただでは起きない。このことわざの意味は「失敗しても何がしかの利益を得ようとするほど、要領がよく欲が深くて機敏な人をいう」だ。残念ながら、あまり良い意味で使われていない。でも、この10年くらいを振り返ると、仕事をする時、どこかでこのことわざを意識していたように思う。

長いこと、コンサルティングという仕事を続けてきたが、企業がコンサルティング会社に依頼する仕事は、意外と思うかもしれないが、効率化や調査の仕事が多い。新たな価値の創出を信条に仕事を請け負ってきた身としては、正直あまり好きなテーマではなかった。それでも、クライアントから信頼してお声がけを頂いたのだから、しっかりとやり遂げたいと考えていたが、そんな時に頭に浮かんでいたのが、この「転んでもただでは起きない」だ。

私にとって、効率化は「縮むこと」を意味していて、新たな価値の創出とは真逆の方向にある。調査もどちらかと言えば成功している企業を「真似る」ために行う場合が多く、新たな価値の創出とは向きが異なる。つまり、自らの信条に照らすと、効率化や調査のプロジェクトは、初めから「失敗」というわけだ。故に、プロジェクトを始める時から、「ただでは起きない」モードに突入すべく挑戦が始まる。

通常、効率化のプロジェクトであれば、同じ成果を、今より少ない人やお金、設備で生み出すことが目的だ。縮んで「余り」を出す。ただ、この「余り」をもし社内外に放出しても使われなかったら、使われない人やお金、設備が生まれることになる。これが兎に角もったいないと感じていた。そこで、どうせ「余り」を出すなら、使いたいというニーズがある「余り」を選択的に出したいと考えていたのだ。これが「ただでは起きない」という意味合いにつながる。

効率化のプロジェクトを始める時に、クライアントに必ず聞くことがある。「新しく立ち上げたいプロジェクト、新たに創出したい価値はないか、それらはどんな人材や設備が必要なのか」という問いだ。ここをしっかりと確認しないと始まらない。これが見つかれば、効率化のプロジェクトの目的は「効率化」ではなく、「新たな価値を創出するのに必要な人材や設備を捻出する」という目的に変わるからだ。縮むなら縮んだ部分を使って、新たな価値の創出に活かそうというわけだ。

実は、この手法を取ると、人のモチベーションを高められる。通常の効率化のプロジェクトでは往々にして、人員削減の人数という量が重要視されることが多い。よって、「業務の整流化をした上で、生産性の高い人たちだけを残す」という一番簡単な方法を当てはめる。すると、現場ではやり方は変われど、残った人たちが、同じ業務を少ない人数で続けることになる。ある意味、出来て当たり前の仕事を続けることになる。削減された人は、失意の中、負のスパイラルが回っていく。

一方で、「新たな価値を創出するのに必要な人材を捻出する」という手法においては、当たり前だが、誰がどんな能力を持っているかを見出してあげることが必要となる。いま使われていない能力や埋もれて認識されていない能力を見つけて、新価値創出に必要な能力とマッチングしていく。それぞれに、少しばかりストレッチした役割を担ってもらうことを考えながら当てはめていく。効率化の対象となっていた業務で、作業しかしていなかった人に、マネジメントの役割を担ってもらう場合もある。そうすれば、今までのリーダーが使っていなかった能力を活かせる業務に就くことができるはずだ。どちらの人材も新たな挑戦が始まることになる。

効率化は、価値創出のための準備である。人の適材適所に向き合うチャンスである。これまで、そんなことを思って活動してきた。人は、幸せな心の状態にあれば、利他的になり、創造性が高まり、生産性が高まる。持てる能力を発揮して成果を生み出し充実した毎日を過ごすから、離職率・欠勤率が低い。対象としている業務だけを見て効率化をするのではなく、視野を会社、社会に広げて、人を主語に価値創出につながる活動を広げていきたいと考えている。

話は変わるが、最近ようやく賃上げの流れが生まれてきたように感じている。持続的な賃上げを実現するための議論も始まった。Think!の記事では、3つのポイントを提言している。1つ目は、賃金の決め方の見直しだ。個人が生みだす付加価値とその対価をひも付けた透明性の高い仕組みの構築が急がれる。2つ目は、企業が中長期的に成長できる環境をつくる政策だ。衰退産業から伸びる産業へ事業の新陳代謝を促す視点が必要だと説く。効率化はあくまでも目的ではなく手段だ。最後は、人材の能力開発の強化だ。価値創造の源泉である「人的資本」をいかに大きくしていくかが問われているのだ。

企業が、社会が、どんな新たな価値を創出したいか。それにはどんな能力の組み合わせが必要なのか。この辺りを見据えながら、効率化すべきところは効率化し、しっかりと新たな価値の創出へと人的資本を届けていく。人材側からみれば、自分はどんな能力を身に付け、どの価値創出に貢献していくか。もちろん、貢献度に応じた対価を求める。人的資本を大きくしながら、価値創出のための適材適所を実現していく。今こそ、日本が新価値の量産にこだわる時なのではないだろうか。


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