「分業」とは何か? ーグループワークを改良する
ぼくはたぶん「良い分業」の経験が乏しいまま大人になった。30歳すぎてから「良い分業」を経験したことで、世界を見る目が変わりつつある。でも、願わくば子どもの頃に経験しておきたかった。
「良い分業」とは、その場に居合わせた人と、目標を分かち合い、作業を分担し、互いにサポートをしあって調整し、つくったものを組み合わせて、モノ/コトを生み出していくことだ。単純な分業だけでなく、作業間の調整があり、統合があり、集団で良いアウトプットを創造できることが、良い分業の条件になる。
今日は、そもそも分業とはなんだっけ?ということについて調べつつ、学校でのグループワークに分業の考え方を導入した案を書いておく。
分業がわかると世界が変わる(のでは?)
この「分業」というものへの理解がこれまであまりにも低かった。というかむしろないに等しかった。だが、この「分業」のありようを詳しく知ることで、さまざまな可能性が開かれるのではないかと今感じている。
たとえば、小中高等学校で盛んに行われている「探究学習」のグループワークだ。信州大学附属中で、グループごとにテーマを決めて企業と連携する学習が行われていたと記事になっている。だがこのグループワーク、リーダーを決めること以外、どのように分業するのが適切なのかを検討されているグループワークをあまり見たことがない。「分業」の解像度を上げれば、これをよりよいものにすることができる。
教育だけでなく、企業や組織というものへの解像度が上がる。組織図を見ながら、組織全体がどのように分業されているのかがわかる。あるいは部門やプロジェクト内部の役割分担を可視化し、どのような分業が行われているかを読み解くことができる。さらには、組織におけるより良い分業を提案し、組織の創造性を高めていくこともできるかもしれない。
組織デザインの基本は「分業」と「調整」
そんな関心から、今、『組織デザイン』(沼上幹 著・日経文庫・2004年)を読んでいる最中だ。
このなかで、「組織を設計するという作業は、分業を設計し、人々の活動が時間的・空間的に調整されたものになるような工夫を施すことであり、そのようにして出来上がった分業と調整手段のパターンが組織デザインである」と明快に書かれている。
なかなか抽象的な概念が出てきたり、製造業の比喩が多いので、読み進めるのに苦労しているが、組織の設計とは「分業と調整である」という前提から、組織・集団を見る目が鍛えられていくのを感じる。
垂直分業
この本のなかで、分業の基本的な考え方が紹介されている。以下の四つの考え方を、本書を参照しながらここに書いておきたい。
まず、分業には大きく分けて「垂直分業」と「水平分業」があることが紹介されている。パン屋さんでいえば、パンの作り方を考える師匠とパン作りを実行する弟子での分業が「A. 垂直分業」。弟子たちが役割分担をするのが「水平分業」だ。こう考えるとわかりやすい。
この時点で、は〜そっか〜!と気づく。マネージャーとメンバーは、単なる役割だ!経営者と社員も、上下じゃない!みたいな言い回しってよくあるけど、あれは「単に垂直に分業しているだけだ」と言いたかったのか。
(とはいえ、上下に分けているわけなので、上下じゃないのか?と言われると疑問はあるが、上下であったとしても信頼して分業できていれば問題ない。)
水平分業
垂直分業と水平分業がある。ぼくはどちらかというと、「分業」というと水平分業を思い浮かべていた。
水平分業は、2つに分けられる。弟子たちが担当のパンを分担してつくるのが「並行分業」。弟子たちが「こねる・成形する・焼く」を作業分担するのが「機能別分業」となる。並行分業は足し算的分業であり、機能別分業は掛け算的分業と言い換えてもいいかもしれない。
これも、ほ〜なるほどな〜〜〜と思える。たとえば、今MIMIGURIではコンサルティング事業は6チームに分かれて、それぞれ得意なコンサルティング事業を推進している。これはいわば並行分業をしている。
だがプロジェクトの中を見ると「プロジェクトオーナー」と「その他」で垂直分業をしたうえで、「プロジェクトマネージャー」「ワークショッププランナー」と言った形で、機能別分業をしている。それぞれの力が掛け算になってプロジェクトのアウトプットにつながっていったとき、いい分業ができたなぁ!と感じる。
そうか〜世の中にはいろんな分業があるんだなぁ、ということがよくわかる図だ。
直列か並列か、足し算か掛け算か
さらに本書では、この水平分業に、直列と並列という軸を加える。直列はいわば、時間で分業していくような考え方。並列は、空間で分けるような考え方かもしれない。
並行分業を2つに分けて、直列・並行と、並列・並行に分ける。「早番・遅番・夜勤」といったぐあいに作業時間をわけて直列に分業するいわゆる「直列・並行分業(シフト制)」と、作業時間は同じだがそれぞれがパンづくりを粛々と行う「並行分業」となる。
機能別分業も同様に、「こねる」「成形する」「焼く」といった直列型の分業もあれば「香り担当」「食感担当」「味担当」といった機能にわけ、並列で分業するやり方もある。
先ほど書いた「プロジェクトマネージャー」「デザイナー」「ワークショッププランナー」といった役割分担は、機能別に分業しつつ、活躍するシーンは並行分業でなされていたりする。
だがいずれにせよそれぞれが個別に作業してもアウトプットの質がばらついてはいけないので、何を目標に、どうやって協力しあうかを調整しなければならない。これが、組織デザインの第二のテーマである「調整」となるが、気になる方はぜひ本書を手に取ってみてほしい。
「分業」の考え方を軸に、グループワークをアップデートする
冒頭で、分業の解像度を上げれば、小中高等学校で盛んに行われている「プロジェクト型学習」のグループワークをよりよく改善できるのではないか、という仮説を提示した。
多くのグループワークは、「リーダーとそれ以外」に分けるという「垂直分業」がなされているだけだった。そして「水平分業」があいまいで、「みんなでやる」という考え方になってしまっていた。
おそらく、グループワークの失敗パターンとしてすぐ想像できるのが「直列型」の水平分業だろう。情報を調べる人、アイデアを作る人、発表資料をまとめる人、発表する人、というふうに分けたら、自分の作業のシーン以外にはやることがなくなってしまう。
有効なのは、「並列型・機能別分業」だろう。プロジェクト型学習が、調べて、作って、発表資料にまとめ、発表する、というのが基本的なプロセスだとしたら、視点を分ける、という分業が面白いかもしれない。作業プロセスに責任を持つ、アイデアの質に責任を持つ、わかりやすさに責任を持つ、といった期待値を分かち合ってもいいかもしれない。
しかし、そのためには、どんな質のものを、何を大切にして活動していくかという目標とルールの共有が大切になる。分業と同時に、こうした目標やルールの調整は不可欠だ。その点に責任を持つのがリーダーの役割かもしれない。
今回は実験的に、組織デザインの考え方を用いてグループワーク設計を考えてみたが、このような細かなルールを導入するのには時間もコストもかかる。だが、一度習慣化すれば、学校生活の中で「良い分業」を経験できる機会も増やしていけるのではないか?
ちょっと、引き続き考えてみたい。