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「石の上にも三年」はもう古いのか。キャリア形成に必要なのは長期的視点。

皆さん、こんにちは。今回は「若手のキャリア」について書かせていただきます。

「配属ガチャ」「上司ガチャ」という言葉が当たり前のように使われていますが、同じように「異動ガチャ」という言葉もあるようです。

入社後しばらく経って、人事から人事異動を提示され、YESかNOの選択権が社員にあるケースもありますが、一般的には「会社辞令」という形で異動が決定されるケースが多いです。

会社主導の人事異動の場合、ある程度予想ができるものと、青天の霹靂のようなサプライズのものとに分かれますが、結果的にポジティブに受け止め納得した状態で異動に至る社員が多いのは、これまでの日本の雇用システムや慣習に基づくものだけでなく、「変化を求める」人や、「ちょうど今の部署や仕事を変えたかった」という人、「会社からの提示を断ると評価が下がるから受け入れる」とする人、「人事や上司が自分の適性を見て判断したから従う」とする人、「そもそも異動前提で入社している」人など、理由は多岐に渡ります。

若手社員が自律的にキャリア形成をするにあたって、「人事異動」とどのように向き合っていけば良いのでしょうか。具体的に考えてみます。

若手社員はとかく我慢を求められがちだ。特に人事異動では入社後一定期間、会社主導で複数の部署を回るケースが多い。終身雇用制が揺らぐなか、そうした雇用慣行を見直す企業が出てきている。希望を尊重することで意欲が高まり、成長が促されれば、本人だけでなく会社にもプラスだ。

■自由にキャリアを決めるには、自分で責任を負う覚悟が必要

社員が入社3年以内に離職する確率は3割というデータがあります。若手社員にとって3年という期間は、自分のこれからの進路を決める上で十分な時間なのかもしれません。

引用した記事にもあるように、入社前から「入社後最初の配属はここで、3年後には違う部署に異動して別領域の経験を積み、5年後にはまた新しい仕事がしたい」というような、かなり具体的なイメージを持って自分のキャリアを設計する人が増えています。これに企業側が「NO」を突き付けてしまうと、当然齟齬が起き、社員のモチベーション低下やエンゲージメント低下を引き起こします。

若手社員の上司くらいの年齢層の人たちは、「異動辞令」が当たり前で避けて通れないものであり、これまで受動的なキャリア形成を余儀なくされてきました。その結果、異動がプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあり、どちらに転んだとしてもそれは自分で選んだものではないので、ある意味「会社のせい」にして気持ちの折り合いをつけていました。

それが今や、キャリア自律と言われ、自分で手挙げ制で部署を選べるようになると、異動が成功しても失敗してもそれは全て「自分のせい」になります。異動が成功すれば「やっぱり自分で決めてよかった!」となりますが、逆の場合はなかなか自責にできず、異動先の部署の上司のせい、顧客のせい、組織文化のせい、などとうまくいかなかった理由探しが始まってしまいます。その先にまた別の部署に異動を繰り返すパターンもあれば、結局離職につながるパターンもあります。つまり、自分で働く部署や業務内容を自由に決められるのは非常に魅力的である一方、自由に決められる分、その責任も自分で負わなければいけないので、そのような制度や仕組みがある環境を逆に「居心地が悪い」と感じてしまう人も実は多いのです。

■企業はどのように自部署や自社を魅力付けしていくべきか

記事には、

若手の希望をかなえる企業が広がる背景には人手不足もある。ある企業の人事担当者は「新卒採用には1人当たり100万円以上もかけている。転職されるよりも希望をかなえて定着してもらう方がいい」と明かす。若手人口は減少の一途をたどっている。せっかくの「金の卵」を手放すまいと工夫を凝らす企業は今後増えていきそうだ。

とあります。社員の望む部署異動が叶えられないとなると、その先に待っているのは「離職」。
となると、当初の人事計画に反するものであっても、「離職」されるくらいなら「定着」を優先して、異動希望を極力受け入れていくしかないと、諦めの境地に至る企業も少なくありません

極めてシンプルなことですが、企業側は、

  • 異動希望の“手挙げ”ができる機会を作り、意思表明の場や制度を構築すること

  • 定期的な部下とのコミュニケーションにおいて、日頃から期待値をしっかり伝えておくこと

社員側は、

  • 上司や同僚との信頼関係を構築すること

  • 定期的な上司とのコミュニケーションにおいて、自分の希望や将来の目標を伝えておくこと

は前提として意識しておく必要があります。信頼関係がないまま、現部署での成果を全く出さないまま、ただ希望だけが通るほど会社は甘くはありません。

仮に部署異動が実現したとしても、その先も同じ会社で働く仲間同士です。元部署の社員に異動を応援されないような不義理な異動の仕方や、残される社員や組織に悪影響を与えるような言動がないように、細心の注意を払う方が良いと思います。

企業側は、優秀な人材に長期に渡って働き続けてもらえるような魅力的な会社や部署にするべく、これでもかというくらいオンボーディング施策に工夫を凝らす必要がこれまで以上に出てきているように思います。

「自分の希望を叶えたい」と願う社員と、「希望は分かるが今はこの部署で頑張ってほしい」と思う企業。この社員のニーズと企業の狙いとのギャップ
をどのように埋めていくかは、まさに各企業の腕の見せ所
となります。

■「やりたいこと探し」をしてもキャリアオプションを狭めてはいけない

目標を具体的に定めてスキルアップや経験を重ねるのが勝ちパターンと思われがちだが、用意周到タイプで成功している人は多くないことが分かってきた。経済環境の変化は著しい。むしろ、やりたい仕事や職種を絞り込みすぎると将来行き詰まるリスクが増す。花田名誉教授は「大切なのは不本意な異動や配属であっても、何かしら仕事のやり方や成長の仕方を学ぶこと。柔軟な対応力を身に付ける方が中長期的に活躍できる」と主張する。

「自分が本当にやりたいこととは何か」を考えること自体は素晴らしいことです。主体的にキャリアを描き、希望を明確にし、自ら手を挙げて部署異動を実現していくというのも素晴らしいことだと思います。そのような制度がある会社とそうでない会社とでは、社員の意欲や満足度において大きな差につながっていくことも間違いありません。

ですが、あえて問題提起をするとするならば、自ら「部署異動」を望み、「業務内容を変える」「環境を変える」ことが「新しいチャレンジ」と同義であり、「確実にステップアップにつながる」と思い込んでいる人はいないでしょうか。自分の欲求に忠実に、やりたいことさえ仕事にできていれば、必ず幸せでやりがいも感じられると信じて疑わない人もいるのではないでしょうか。

少し話が逸れますが、一昔前は、転職を繰り返すジョブホッパーというと「複数の会社を渡り歩くからには何か理由があるのだろう」「採用したとしてもまたすぐに他社に転職してしまうのではないか」と、転職活動においてネガティブな印象を与えることがありました。しかし、時代とともに、多様なバックグラウンドを持つ人材の能力や経験こそ価値が高いと判断する企業も少なくありません。むしろ積極的に採用をする企業が増えている印象です。人材の流動性が世の中的に高まることは決して悪いことではなく、ポジティブな面の方が多いですが、その流れの中において、同じ会社や同じ部署に留まるのは“悪”と捉えられる傾向にあるのは、少し残念なことです。

個人的には、同じ部署、同じ仕事をしていても、チャレンジの幅や深さは広げていけるものであって、それがステップアップやキャリアップに直結することもあると思います。逆に言うと、「今の環境から逃げたい」という後ろ向きな理由での異動希望で、実際に異動後に才能を開花させて大活躍する確率は低いと言えるでしょう。

意識すべきポイントは、

  • 複数のキャリアオプションを持っておくことは大事

  • キャリアオプションは自分で作ることもあれば、会社から提供されることもあると理解しておく

  • 目先の「やりたいこと」、目先の「成長」だけを追求し過ぎない

  • やりたい仕事だけにこだわりすぎていても、それが正しい選択で将来成功するとは限らない

  • 仮に不本意なものや予想外な異動だとしても、まずはチャレンジしてみるという気持ちが必要

  • どのような理由で、どのようなタイミングで、どのようなキャリアを選択すべきかを自分の事情や損得だけで考えない

  • 中長期で考えた時に自分にとっても組織にとってもプラスになるかどうかを冷静に判断する

  • 一つ一つの選択が、結果的に自分の未来を創っていると理解する

という点ではないでしょうか。

「今、やりたいこと」は、基本的に年齢や経験を積むたびに変わっていくものです。近視眼的にならずに、中長期を見据えて将来やりたいこと、やるべきことを冷静に考えていくことが大事なのではないかと思います。

■キャリアの焦りは内定者にも

「入社前に仕事に直結する知識やスキルを身につけたい」――。内定期間中にそんな焦りを感じる学生が増えている。背景には、早期の転職も見据え、自分の市場価値を早いうちから高めておきたいという成長意欲の高まりや、周囲に後れをとることへの危惧があるようだ。長期的に適性を見ようとする企業との間に、ギャップも生まれている。

こちらの記事には、「大学4年生を“社会人0年目”と捉え、内定期間中から成長したいと焦る学生が目立っている」とあります。内定者の段階からキャリア形成に積極的で、自分の市場価値を高めるための最短ルートを模索する学生が増えているのです。

入社前に何か準備をしておきたいという学生のニーズが高まる一方、企業側の受け皿はまだ整っていません。既に入社している1年目の世代の新人研修などもあり、内定者にまで手が回る状態ではないところも多いです。そして、そのような企業ほど「内定者のうちはまだ何もしなくていいよ」と言うケースがほとんどですが、実際には、内定後すぐにでも内定者育成の必要性を認識している企業が増えていることも事実です。(内定者育成は、内定承諾後辞退の防止や、早期即戦化、会社に対するロイヤリティ向上などにも直結します。)

当社の場合も内定者のうちからアルバイトやインターンシップという形で就業経験を積む機会を提供している他、内定者同士の関係性を深める機会や先輩との接点を作る機会などを多く作っています

新卒採用も早期化している中、内定者育成に力を入れ、即戦化する時期を前倒していくことに注力する企業は今後も増えていくのではないかと予想しています。とはいえ、社会人0年目から専門知識を身につけるというような、入社前から何を準備すべきかと焦る必要は全くなく、入社後に日々の業務を通じて着実に成長実感を得られるように、持続的に長期的視点でキャリアを考えることが重要ではないかと思います。


最後に、若手社員に限らずベテラン社員でも、キャリアを考えるにあたって「全てが計画通りに進んだ」という人はまず皆無ではないかと思っています。入社後何年目でどのような市場環境の変化があるか、自社の戦略がいつどのように変化するかを完璧に予知できる人などいないからです。

基本的には予期せぬ偶然の出来事の積み重ねで、キャリアは形成されます。その偶然のチャンスを生かすも殺すも自分次第であり、偶発性の高い「異動ガチャ」のようなものを、考え方一つ、捉え方一つで最大限に活用できる可能性が高まるのです。

偶然の機会を生かせる人とそうでない人との差は広がり、また、社内の「異動」を重要な人材育成の手段の一つとして活用できる企業とそうでない企業の差もどんどん広がっていきます

人的資本経営の重要性が叫ばれている今の時代。
今後は、各企業の「人事異動」の在り方が、今まで以上に問われていくはずです。


#日経COMEMO #NIKKEI

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