若い人こそ資産形成をいますぐ始めるべき、たった一つの理由
(1)日本もようやく「お金の話」ができる国になるらしい
今日は珍しくお金についてお話ししようと思ってます。日本の経済の猛者が集まっている日経COMEMOで、経済学を学んだこともない、文学研究者(兼フォトグラファー)の僕が、資産形成の話をする。うん、落とし穴ばかりの無茶なテーマ設定ですね。でも書かせてください、理由は下の方で。
ところで、そもそもなぜそんなテーマを思いついちゃったかというと、きっかけは日経のこの記事を読んで衝撃を受けたからです。
なんと、この4月から、高校生たちは「家庭科」の授業で「金融」を学ぶことになるんですって!まじか!これは割と画期的な転換だと思ってます。
というのは、例えば僕と同い年くらいの40代の皆さんのご両親は、生涯の金融資産が「預貯金」というご家庭も多かったんじゃないでしょうか?日本は世界でも珍しいくらいに、民間の預貯金が多い国です。今シャラっと調べてみたら、野村證券の一年前の記事がありました。以下の記事によると、50%以上、現金と預貯金だそうです。ちなみにアメリカは13.7%!!少な!!さすがリスクテイク大好きな国民性がモロに反映してますね。
反対にリスクを取るのがすごく苦手な日本ですが、50%以上が現金と預貯金である状態というのは、端的にいうと日本という国が持っているお金の50%近くが、死んでるも同然ということです。お金は国家の血液であり、流れなければ意味がありませんが、現金はまだしも預貯金なんてほぼ流れてないわけですから、そのお金は死に金です。ですが、今の高校生たちはついに「金融」を若いうちに学ぶ機会が訪れたというわけです。となると、10代は大丈夫でしょう。教育というのは、やはり効果がでかいです。
で、問題は、僕が日々大学の授業で相手にする20代や、普段仕事を一緒にする機会も多い30代たち、ここです。ところが、周りを見てみると、あまり資産運用している気配がないんですね(僕の周りだけかもしれないけど)。上で引用した野村證券の記事を見ても、20歳以上の74.6%が、「投資する必要はない」って答えてて愕然としました。その理由も衝撃です「損をする可能性がある」から。これを見た時、ああ、この国らしいなと思いました。これ、逆ですよね。「損をする可能性がある」=「リスクがある」からこそ、普通に仕事しているだけでは得られないリターンが得られる、そう思考しないといけないんですが、リスクに足が竦んじゃう国民性なのかもしれませんね。
(2)お金の素人が資産形成についてなぜ話すのか
しかしそれにしても、ここまで日本で資産形成や運用が進まないのって、ちょっと異様だなと思うんです。勿論、金融教育の遅れや国民性ってのも理由なんでしょうが、もう一つ大きな理由として、そういう「お金の話に疎い一般人」と、「資産形成をバリバリやる人」の間の溝が、どうやらめちゃくちゃ深いってことなんです。言い方を変えると、「普通の感覚と普通の言葉で、資産形成のことを語れる人が少ない」んですね。これはつまり、日本のあらゆる領域でよく起こる問題、つまり、コミュニケーションの断絶が「資産形成」というクラスタでも起こっているんじゃないか、そう考えました。
例えばアメリカだと、多分、井戸端会議でさえ「この前テスラの株落ちたねえ、どうするべえ?」みたいな会話って、テキサスあたりでも交わされてると思うんです。いや、実際どうかは知りませんよ、でもありそうじゃないですか。レオナルド・ディカプリオ主演の映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」を見てたら、田舎町のおっちゃんでさえ、結構な額を投資に回してそうな予感します。
一方、日本ではそんな会話は、多分銀座とか新宿とかのごくごく限られた場所でしかやられてないんですね(多分ね)。少なくとも僕の住んでる滋賀県の琵琶湖のほとりでテスラ株の話題が出たことなんて、多分数える程だと思うんです。もしかしたら0かもしれない。
つまり、「金融コミュニケーション」の断絶が、金融リテラシーのある人とない人の間で広がりすぎてる。というか、互いに避けてそうな雰囲気さえ感じる。「お金の話なんて公にするのははしたない、株とか資産運用なんて博打、一般人のやることじゃない」みたいな、過去の亡霊のようなナラティブが、まだその断絶の間のどこかを彷徨っているのかもしれません。
そんな状況だからこそ、僕みたいな専門家でもなければ全く無知の素人というわけでもない中途半端な人間が、その隙間で翻訳作業のような形で、ちょっと書くことに意義があるかなと思ったわけです。
(3)日本は相対的に貧乏になりそうです
で、話戻すんですが、僕の周囲の若い人の「投資や資産運用への意欲の少ない状況」って、かなりやばい気がしています。なぜかというと、これから多分、日本って国は生きているだけで、相対的に貧乏になっていく国になるからです。なんてことは、日経COMEMOを普段読んでる方には、当たり前のことかもしれないですけど、若い人向けということで基本の基本だけ押さえさせてください。
あまり難解なことを言っても敬遠されるだけでしょうし、僕自身、細かいことはよくわかってないので、自明の自明のとこだけ端的に書きますね。日本は実質この20年くらいほとんど経済的に成長していないのに対して、世界経済は成長を続けています。で、これをお金の話に言葉を変えると、「日本円を持ってるだけで、価値が目減りしていく」です。
もちろん日本も全く成長していないわけではないんですが、少なくとも世界の経済成長率に比べると、日本のそれはほとんどゼロに等しく、その相対的な観点から見ると、世界を標準とした時には、日本は国家としてどんどん貧乏になっていってます。今、なんとなくまだ日本が裕福そうな国に見えるのは、先人たちが頑張ってくれたおかげなんですが、その遺産を凄まじい勢いで食い潰しながら、酷薄な世界の現実がすごい勢いで僕らに近づいてきているというのが、2022年現在の日本の国としての立ち位置です。
もちろん、ここから一発逆転っていう目もゼロではないと思うし、そのために政治家の皆さんやいろんな企業の経営者さんたちもがんばってくれてるとは思うんですが、いかんせん、人口構成を見ても分が悪い。日本がこれまで経済大国でいられたほぼ唯一に近い理由は、低い生産性を人口の多さでカバーしてきたっていう、そこに尽きるわけですが、その「人口の多さ」というファイナルウェポンも、もうおそらく今後回復する見込みはないわけです。
こうした悲観的な状況において長期戦略を立てる時の基本は「最悪の時のプランBを常に用意しておく」です。今回はつまり、経済的に相当苦しい状況が結構な確率でやってきそうな日本の、未来における「最悪」の状況を、今の若い人たちが実際に引き受ける歳(大体40代半ば)になる前に、準備しておくのがいいですよ!って話なんですね。
そしてその準備こそがまさに資産形成であって、そして必要な武器は難解な知識や難しいテクニックではないという話なんです。
(4)地元のパン屋さんが値上がりしてた
こういう風に書くと、若い人たちの中には「日本で暮らしてる分には、お金の価値は変わらないじゃん」とおっしゃる方がいるかもしれません。でもこの2年間、我々は国内から一歩も外に出ていないのですが、「お金の価値」が世界の動きと直結していることを実感する現象は、枚挙にいとまがありません。例えば、今ならウクライナの紛争を契機にして日本円は一気に安くなり、ガソリン価格は高止まりしています。さらにそこから各種原材料価格が高騰、その結果何が起きたかというと、家から数十メートルの地元のパン屋さんの値段が上がりました。そう、つまり、個人資産レベルの小さい話でさえ「一国だけ」で話が済む時代は、とうの昔に終わってるんです。いわゆるグローバリゼーションですね。酷薄なほどに世界はつながってます。
そしてこれから日本はこのグローバリゼーション化での低成長環境の中でやりくりしていかなきゃいけないんですが、歳取った人はもういいんです。今持ってるお金で、ある程度なんとかなる。年齢にして大体60代以上くらいでしょうか。日本の絶頂期にお金を稼いだ人たちですね。で、その下の40、50は、これからなんとかしなきゃいけない世代で、切迫感もありますから、割とみんな真剣に将来悩んでます。僕なんてもう、悲壮感たっぷりです。
でも20代、30代の人は、まだ実感が伴わないうちに、世界の成長に対して年ごとに差が開いていく一方の日本という国家の「貧乏になっていく影響」をモロに受け続けることになります。そして、その実感がないままに10年、20年と準備を全くしないまま40代を迎えたとしたら、その時愕然とするはずです。そこからでは、取れる手がすごく少ないってことに気が付きます。
つまり、若い人であるほど、「日本が貧乏になること」の実質的な影響を強烈に受けるんです、近い未来において、ほぼ確実に。
だから僕は、若い人に「今のうちに資産形成考えときやー」っていうんですが、やっぱり伝わらない。仕方ないんです、「これが普通」「これで大丈夫」って思って生きてるわけですから。正常性バイアスってやつですね。でもこれから先、世界には「正常」なんてほぼなさそうなのは、今回のロシアの振る舞いを見ててもわかりますよね。変化と想定外に常に備えなきゃいけない。
てこともあって、こんな記事を今日は書いてるわけなんですね。
(5)ようやく本論「あなたの若さは悲劇であり希望でもある」
ていう長い前置きから、ようやく徐々に本論に入っていくんですが、実は本論はそんな大した話しないんです。絶望的な前提の部分で、実は話の大半が終わっちゃってる。で、あとはこの「絶望的な前提」が、実は希望でもあるという話に今日は持っていきたい。つまり資産形成って、始めるの早ければ早いほど、「恩恵」を受ける量も凄まじいってことなんです。みんなそんなこともう知ってるよね。でも、やっぱり言わせて、本当に大事なことだから。
その「恩恵」の本質こそ、まさにアインシュタインが「人類最大の発明」と呼んだ(らしい)「複利」の凄まじいパワーなんですが、この辺りの専門的なお話は専門的な人が書いてる文章を参考にしてください。要は、若い時から資産形成を始めると、毎月の積立額が少額でも、引退する頃には結構な資産を手にすることになる、です。その分かれ目になるのが、大体30代中盤くらいです。
「若さ」がどれほどの力を発揮するかというと、金融庁が公開している「資産運用シミュレーション」を使うと分かりやすいです。
例えば20歳の人が、50歳までに、年率3%の低リスクな金融商品を30年間毎月2万円ずつ積み立てていったとしましょう。30年後の積立金の額は、約1100万円です。まあ、ちょっとしたお金です。
https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/moneyplan_sim/index.html
最初の数年は元本の方が圧倒的に多いですが、だんだんと年が経つにつれて、運用益にも利率がかかってくるので、最終的には1100万円のうちの4割が、運用益として増えている計算になります。これ、想定利回り3%という、投資の世界で言うと堅実オブ堅実な数字で計算してこれです。勿論資産運用というのはリスクがあるのでマイナスになることもあるんですが、「資本主義がこれからもある程度続く」という仮定に立つならば、基本的にはお金自身に働いてもらうという選択肢が最善手になります。だって、キャッシュとして持ってるだけでは目減りしていくし、リスクも含めてお金自身に働いてもらうしかないというのは、ほぼ自明の結論です。
この辺りの現実的な部分での資産運用の話は、それこそ証券会社の記事だったりセミナーだったり、あるいは近くの証券会社だったりに行ってみて話聞いてみてください。具体的な話をできるスキルは僕にはないんです。
でも、多分、今そういう「本当に資産運用に前向きな人への具体的な提案」以上に必要なのは、資産形成に対して実感の湧かない人、特に30代以下の若い人たちに対して、可能な限り「普通の感覚で」話をすることだろうと思って、今回の記事を書いてみました。それは僕がこの2年ほどずっとやってきたこと、つまり、「間にある未踏の獣道」を踏み均して、わずかでも相互通行可能にするという「コミュニケーション戦略」の実践でもありました。これまでは写真や文学でそれをやってきたつもりなんですが、キャリアや資産形成も一種の「物語」と考えるならば、さまざまな伝達方法があるはずなんですね。
そしてもう一つ意識していたのは、そろそろ「お金の話は隠れてするもんだ」みたいな妙なアングラ感を無くして行きたいってことなんです。日本全体の金融リテラシーが平均的に引き上がることで、今、仮死状態で眠っているお金も市場に回り始めて、それは巡り巡って日本という国家の背骨を支える原資になるでしょうし、また個人レベルで見るならば、単に資産が増えるだけではなく、明らかに異常な投資詐欺に引っかかるような件数も減ることに繋がるでしょう。どの分野でもそうですが、隠していいことなんてほとんどないんです。可能な限り物事をオープンに話し合える場所を作り、コミュニケーションの流通が活発になって初めて、創発的な新しい展開が生まれます。最近読んだ、ある漫画の一節を引用させてください。
絶望の果ての希望は、いつだって言葉とコミュニケーション、そう「おはなし」から生まれるんです。それ以外に物事が良くなる道なんて無いと信じているからこそ、今回の記事を書いてみたというわけです。
というわけで、今日の記事はここまでにしておきますね。伝えたかったのはたった一つ、「時間はすべての人に平等に与えられた最強の資産である」ということです。特に資産形成においては、時間は究極の「原資」であることは、「複利」という点から見ても間違いありません。てことで、今日の記事のタイトルの答え、ようやく書けます。「若い人こそ資産形成をいますぐ始めるべき、たった一つの理由」というのは、つまり「時があなたの味方をしてくれるから」、ということになりますね。おっと、ちょっとかっこいい結論になりました。意外!