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「東京ラブストーリー2020」から考える、バブル世代とミレニアル世代

まさに緊急事態宣言下の今年4月から開始した、我々 MOTION GALLERY のインターネット・ラジオ番組『MOTION GALLERY CROSSING』。話題のプロジェクトや、アートやカルチャーにまつわる情報を、編集者・武田俊さん&演劇モデル・長井短さんと一緒に掘り下げてきました。

毎週水曜日に配信し、早くも17話!
どんな形だとより面白くリスナーにより愛着を持ってもらえる番組になるのか、毎回まだまだ色んな事を試しています。

カルチャーの復権へ

『MOTION GALLERY CROSSING』はインターネット・ラジオ番組としてどんな形を目指しているのかというと、カルチャーの復権の香りがする様な存在になれるといいなあと思っています。

それは、いうなればミレニアム世代向けの『STUDIO VOICE』の様なイメージ。

知っての通り、これまで日本からは本当に素晴らしいクリエイティブが沢山生まれてきていて、世界に大きな影響を与えて来ました。いまでもまだ多くの海外の映画やアートや小説がその影響下にあると言っても過言ではありません。一方で、それら日本が世界に誇る国策”クールジャパン”が拠り所にしている作品達は、国のバックアップや手厚い保護やはたまた何か日本人独自のみたいなところから生み出されたという訳ではなく、バブルに向かっていく世情に居場所を感じられなかったり背を向けた人たちが生み出した、いわゆる『サブカルチャー』であるという点が重要です。極論を言えば、国家が文化や社会の多様性や周縁について無視していたことで生まれた劣悪な環境から繰り出された「カウンター」であるとも言えるかもしれません。

その様な「マス」だったり「経済に偏重する社会」に楔を打つ闘いでもあった『サブカルチャー』を深く掘り下げ、思想的/歴史的な文脈を付与し、カッコいいビジュアルと共にその価値を提起することで、”界隈”を形成したのが『STUDIO VOICE』だった、そんな印象が僕にはあります。”界隈”を形成することでその文化は時代を作り、そしてそれが引いては世界に影響を与える要因の1つになったのではないでしょうか。そういう意味でも『STUDIO VOICE』を始めとする、当時『サブカルチャー』をバックアップしていた多くの活動のお陰で、日本の文化的な魅力が生まれていると思います。

しかし、インターネットが浸透し「マス」が溶解した現代は、「マス」がなければ「サブ」もないみたいな感じで『サブカルチャー』という文化が消えてしまったといっても過言ではないと思います。正確に言うと、対抗する軸が消えてしまったことで『サブカルチャー』からカウンターの文脈が消失し、思想的/歴史的な文脈が消毒されてしまったものに変化してしまった気がします。その結果、今では「カルチャーは大切!」と言う人の中でも、よくよく話をしてみると、人畜無害で経済に貢献するものを「カルチャー」として褒め称えていることも少なくない。”クールジャパン”はその代表。でもそんな「カルチャー」では、歴史や時代をつくったり、後世の世界の作品に影響を与える様なものは生まれることは多分無いでしょう。

そこで、僕らは、『MOTION GALLERY CROSSING』という番組を通じて、『STUDIO VOICE』が実現した”界隈”づくりを、「紙」ではなく「音声」というとてもパーソナルで手触り感のあるメディウムを通じて実現して行けたら嬉しいなあと思っています。『サブカルチャー』全盛の時代のゴリゴリ感とはまたちょっと違う、カジュアルでフラットだけど熱く深い話をみんなでして行きたい。マウンティングは無しYO。

オピニオン・メディアとしてのクラウドファンディング

では、「マス」がなくなった今、一体何が今カウンターの基軸になるのか。それを一言で言えば「スピード」だと思っています。
もともと、去年から「リベラルアーツ」だったり「アートシンキング」だったりといったワードが頻出してくる様になっていたことからもなにかその土台が出来つつ有るように感じていますが、特にコロナ禍によって明確になってきているように感じています。

中国の経済的台頭などからくる焦燥感もあり、最近は加速度的に、経済成長(しかも何故か株価)に社会の重心が傾きすぎていて、非常に功利主義的で近視眼的な考え方を求められ過ぎていた様に感じます。ビジネスヒーロとして取り上げられる人たちの名言だったり成功へのノウハウみたいな話が、ネットワークビジネスのそれに似てきている気がするのも無関係ではないでしょう。

でもそんな市場経済原理主義者に求められる「スピード」にすべての人がついていける訳でもなければ、そもそもついていった先に有るものが本当に地球に社会にいいものなのかということに懐疑的にならざるを得ない結果が多く出てきました。そんな中で起こってしまったコロナ禍という状況の出現。それによってこれまで絶対正義だった「密集」「スピード」「スケール」といった価値観がニュー・ノーマルな生活では避けるべき価値観になったことで、大きく価値観が揺らいでいます。ステロイドを打って短期的な経済的栄華を極めるよりも、地道でもオーガニックでサスティナブルな幸せを求める、そんなパラダイムシフトが大きく起こって行きそうな気配がしています。それはまさに人の価値観に長期的にインパクトを与える「カルチャー」の出番ではないでしょうか。

人間本来の精神を解放し、人間の在り方を再考しようとする創造的な文化運動「ルネサンス」がペスト流行の後に花開いたように、経済の指揮下に置かれてしまっていた「カルチャー」の復権への兆しを感じます。『MOTION GALLERY CROSSING』は、まさにその香りを届けていきたいと思います。

実は、そんな風にに思う様になったのも、緊急事態宣言下で『MOTION GALLERY CROSSING』のパーソナリティーでもある武田さんと一緒に『ブックストアエイド基金』に取り組む中で、武田さんがふと漏らした「クラウドファンディングってもしかしたら新しい時代のオピニオン・メディアなのかもしれない」という言葉がきっかけでした。僕はこれまで10年もの間クラウドファンディングのプラットフォームを運営してきたものの、そんなパンチラインが頭に浮かんだことは正直なかった・・・。でも言われてみて「確かに」と思いました。既存の様な誰か一人の意見を発信するオピニオンメディアではなく、クラウドファンディングという装置を使い群衆の思いや意見を、1つのプロジェクトに結実させるというその結果そのものが強いオピニオンとして発信される、新しいオピニオンメディアという定義。本当にその通りだと思いました。そして、それまでプラットフォームという形で無色透明でいることを重視してきた自分の態度を改め、MOTIONGALLERYという場に多くの人が集まり生み出されたものの価値や、ビジョン、そして共通する思いを、プラットフォームとしてもオピニオンとして打ち出していく義務感みたいなものを感じる様になりました。

番組開始当初は、ゲストに来ていただいたクリエイターの方々の活動やプロジェクトについてお話する様なスタイルでお届けしていましたが、8月からは、4週連続で1つのテーマについて、お二人をゲストに招いて深堀りしていくスタイルに変わった背景にはそんな思いがあります。

『MOTION GALLERY CROSSING』が考える、今みんなで共有したい価値観や考えたいトピックについて提示しつつ、お招きしたクリエイターの方々の意見や実体験、そしてクリエイティビティにどう繋がるのかなどを深掘って行くことで、新しい『カルチャー』の解像度を上げて行ければと思います。

ちなみに、そんな特集スタイルに変化させたのと同タイミングで嬉しい発見がありました。SPOTIFYでは、楽曲と音声番組を自由に組み合わせたプレイリストを作ることできるという、音楽と音声の融合ができるようになったので、特集のテーマに合わせた楽曲とセットを組んだプレイリストも作っていきます!

日本のカルチャーを豊かにする為に生まれたMOTIONGALLERYとしては、素晴らしい音楽をこんな形で番組テーマと一緒に、何よりもラジオっぽくお届けできるのは楽しすぎます!

移りゆく時代の鏡の様なドラマが「東京ラブストーリー」である。

そんなこんなで新しく取り組み始めた特集スタイルのインターネット・ラジオ番組の第一弾の特集テーマは『東京ラブストーリー2020から考える、バブル世代とミレニアル世代』です。

「東京ラブストーリー2020」をプロデュースされたフジテレビの清水一幸プロデューサーと、社会学者の鈴木涼美さんをゲストにお迎えし、「東京を描くこと」「東京を考えること」についてお話をお伺いしました。

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そんな東京の変遷を描いた魅力的な音楽と番組をまとめ、プレイリストにしています。東京のいままでとこれからを、ぜひ感じてみて下さい!

「TOKYO REWIND」

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ラジオ番組の4エピソードと、バブル時代の東京と令和時代の東京のそれぞれを感じられる、東京を描いた音楽をお届けします。是非、SPOTIFYのこちらのリンクから聞いてみてください!

ところで、なぜ特集の第一弾を「東京ラブストーリー」に据えたのかというのを最後に少しご説明。

個人的な話になりますが、ミニシアター・エイド基金/ブックストア・エイド基金/小劇場・エイド基金と、基金3つの運営で本当に時間も頭もパンク仕掛けたある日曜の夜、一瞬出来た久々の自由時間に、ふとアマプラをつけたら表示されたのが「東京ラブストーリー2020」でした。実は、あの決め台詞でもとても有名なバブル版の「東京ラブストーリー」を私は観たことが有りませんでした。リアルタイムでもなかったし、率直にいうと恋愛ドラマに興味がなく、完全にスルーしていました。でもアマプラにふと現れた「東京ラブストーリー2020」を見て「え?フジテレビ製作なのに、地上波に流さずに配信なの?とか

この記事で紹介されているような事柄がまさに気になって再生ボタンを押してみました。そして気づいたら翌朝になっていた・・・。最初は、どちらかというと企画意図やプロデュース側への興味を持ってふんわり見始めたつもりが、ドラマにドハマリしてるやんけ自分・・。

それまでは、自分の中で「東京ラブストーリー」は、キラキラした若者が東京というイケている都市で、仕事だ恋だと人生を謳歌する姿を見せつけられる苦行だと思っていました。だから令和版の「東京ラブストーリー」も当然そういうドラマだと思っていたら、なんか様子が違うぞ・・・?と。暗い。なんか暗い。

なにかとても令和という時代に空気感、価値観、そして東京という場所の日本での位置づけがちゃんと反映され、”今”が描かれて居る気がして驚きました。もうアフター5とかいって恵比寿や六本木で仕事帰りにレストランでデートする時代じゃない訳ですよ。ほとんど家飲みなのがめっちゃリアル。

それは、「東京タワー、西から見るか、東から見るか」みたいな話であり、そしてそもそも日本のなかでの東京の位置付けや、働く女性の社会的視線などが見事に平成版と大きく変容していました。

そうか、東京ラブストーリーとはその時代の鏡なのかもしれない、そう感じたのがこの特集につながっています。

コロナ禍で特に自分が感じていたのは、コロナという感染症に対してのスタンスや感覚といったものを起点に、バブル世代以前とそれ以降の世代でくっきりと別れている様に感じる機会が増え、なにかそこには双方の間に大きな価値観の溝があるようにも感じていたので、東京ラブストーリーが描いたそれぞれの時代から、社会批評の域にまで展開できそうな気がする!それがこの特集の発端です。

そんな狙いがちゃんと成立しているか、是非番組を聞いてみて頂けると嬉しいです。


さて、最後に次回の番組の告知を・・・。
次月の番組がフォーカスするテーマは『見えない差別』です。
アメリカで大きなうねりとなった『Black Lives Matter』を起点に、社会にあるさまざまな『見えない差別』、そしてそれに立ち向かい社会をより良くする為の、アートやクリエィティブについて、作家でクリエイターのいとうせいこうさん、アーティストのチョーヒカルさんのお二人をゲストにお話を伺って行きます。

めっちゃ尊敬してやまない、いとうせいこうさんに番組に来て頂けてとても嬉しいです。早く聞きたい!





頂いたサポートは、積み立てた上で「これは社会をより面白い場所にしそう!」と感じたプロジェクトに理由付きでクラウドファンディングさせて頂くつもりです!