続・新規感染者数を巡る情報発信について思うこと~報道姿勢は変わったか

6月になりました。4月は「新規感染者数を巡る情報発信について思うこと~素朴な疑問」と題した寄稿をしたところ、励みになるお声がけを沢山いただきました。恐縮するばかりです。:

結局、同記事で申し上げたかった事というのはメディア(とりわけテレビ)の方々におかれては影響力も大きいので「あまり人心を煽らないようにして欲しい」というシンプルなものでした。そのためには毎日漫然と新規感染者数を垂れ流すのではなく、「7日移動平均(7MVA)で見てどうなのか」や「院内感染など経路が明確なものはどれほどなのか」といった情報を提供するようにして貰いたいという、極めて普通の希望です。とりわけ「医療逼迫の度合いはどうなっているのか」なども病床の埋まり方など共に知りたいという声が多いのではないかと察します(何より私がそうです)。市井の人々も日々、新型コロナウイルスに対する知識を少しずつ付けているのであり、毎日壊れたラジオのように「1ケタになった」や「再び2ケタに」などケタの行き来が報じられても何のためにもならないと感じる人々が増えているのではないでしょうか。

しかし、結局、あれから1か月以上経過したものの、報道姿勢はあまり変わっていないように思います。相変わらず新規感染者の絶対数ばかりを報じ、2ケタや1ケタに執着する日々です。もっとも、この記事中にもあるように都の担当者自身が「1日に2桁の感染が続いている」とコメントしていますから、メディアとしてこれに従属するのも仕方ないのかもしれません。

とはいえ、「7人が14人になった。倍だ!」のような情報にもはや実質的な意味がないことは明らかですし、東京アラートを発出する際の基準である経路不明率「50%」という視点も重要だとは思いますが「感染者3名、不明2名」でもアウトな訳ですから、やはり病床の埋まり方や経路不明の実情などを複合的に報じて頂かないとメディア(とりわけテレビ)が単なる不安増長装置で終わってしまうように危惧します

「楽観的な主観をまじえたリスクは取れない」という声もあるかもしれません。それも分かります。ですが、それと恐怖を煽ることは同じではないはずです。新規感染者という論点の周辺にはそれと同じくらい大事な論点が沢山あるわけですから、「分かりやすい計数(新規感染者)だけピックアップする」は客観性の排除であり、ついては間接的には主観的な姿勢への傾斜ではないかと思います。少なくとも3月と今では医療体制が直面している状況も違えば、経済・金融面での実体経済へのサポートもあり、社会の心の準備も当時よりはあると思います。

さて、前回、noteを書かせて頂いた時はちょうど「ピークを下り始めたのではないか?」という疑いが7MVAなどから感じ取れ始めた時でした。実際、そのまま収束し、緊急事態宣言の解除に至りました。現状は以下の通りです:

タイトルなし

タイトルなし2


残念ながら、あの時とは逆、これが基礎的経済指標の類であれば「増勢に転じた」という判断をしなければならない雰囲気があります。もちろん、感染症関連の計数と経済指標は異なりますので、「だから感染者がこれからも増えて行く」というつもりは私には毛頭ありません。ただ、「そう見える」という話です。また、3月や4月と違って検査数も格段に増えていることを思えば、「3月の30名」と「6月の30名」では意味も違うはずです。現状は「3月よりも遥かに頑張って調べて同じくらいの人数」が陽性と判明しているのだとすれば、陽性率もまた、遥かに下がります。この辺りも東京アラートが発出される過程で言及があるのかと思いきや、殆どの報道はそうした安心材料に触れていなかったように思います。

最近では巨人の坂本選手らが微陽性だった、良かった、という報道も話題です:

軽症でとても良かったと思いますし、早めに察知することは良いことだとは思いますが、北九州の小学校のケース然り、無症状の人々も含めて「無理やり感染者を探しに行っている」という側面も素人ながら気になるところです。もちろん、無理やりでも感染の芽を探して摘みに行くのは現在のステージでは大事だと思います。とはいえ、結局、そうやって「芽」を見つけても、報道姿勢として「クラスター!遂に学校で!終わった!」のようなテンションで囃し立てる向きが健在なのは3か月前と何も変わっていないと思います。ワイドショーに対し「はらわたが煮えくり返る思い」という言葉を口にした医療関係者の知人もいます。それほどまでに現場からは屈辱的な内容になっているということだと理解しました。故意なのか、過失なのかは知る由もありませんが、3月時点の映像を使って5月の人出の多さを揶揄するお昼の番組も問題になりました。

世の中が未知の病気と闘う緊急事態と言われる中、大事なことは冷静で正確で客観的な数字によって戦局を把握することに他ならないと思います。これを瞬時に沢山の人に届ける公器としてのメディアの役割は物凄く大きなものです。そろそろ人心を弄ぶことに終始するのは止めにして複眼的な視点を持ったコロナ報道と共に、この難局を乗り越えられればいいなと思います。

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