見出し画像

オンライン授業、対面授業、そして新しい学びをデザインしていくこと

  私は現在、Zホールディングス株式会社のZ アカデミア学長(2年前までは、ヤフー株式会社のYahoo!アカデミア学長)として、Zホールディングス全体の企業内大学を運営している。2019年までは、対面でのセッション、合宿を行ってきたが、2020年は、全セッションをオンラインにて実施した。

 2021年度(4月以降)は、オンラインのセッションをベースとしつつ、なんとか対面の合宿を再開したいと考えているが、コロナウィルスの感染拡大状況によっては、2021年度を通して全てオンラインにて実施せざるをえないかもしれない。

 2021年4月からは、Zアカデミアの仕事に加えて、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部(武蔵野EMC)を開設し、学部長として大学の学部運営、大学教員の仕事も行っている。武蔵野大学では、2020年度は対面からオンラインに移行し、終盤はオンライン対面のハイブリッドで授業を実施していた。4月に入り、「原則対面授業」という方向性になったものの、今回の緊急事態宣言発出に伴い、「オンライン授業中心に」、という方向で意思決定が行われた。

 また、グロービス経営大学院でもクラスを担当している。もともと、対面のクラスとオンラインのクラスが並行して存在していたが、2020年3月、コロナ感染拡大に伴い、数日間で一気に全授業オンライン授業に変更され、その後、徐々に対面クラスが復活して現在に至っている。

 今後は、直近ではやはりコロナウィルスの感染拡大状況により変化していくだろう。そしてその先は、対面かオンラインか、どちらか一方に寄っていく、ということではなく、それぞれのメリットを求めながら、ハイブリッド(混合)前提で、その比率をどうするか、実行者の意思によって決められていくのだろう。

 私自身は、7年前よりインターネット上の学校である「スクー」にたびたび出演し、6年前より継続的にグロービスのオンライン授業を担当し、そしてオンラインweb会議での講演を多数実施してきた。なので、コロナウィルス感染拡大に伴う2020年2-3月にオンライン授業やオンライン講演にシフトされても、全く問題なく対応することができた。

 様々な内容につき、対面でもオンラインでもセッションを実施してきた経験に基づき、改めて振り返ると以下のようになる。comemoを読まれる聡明な皆さんは、先刻承知されている要素とは思うが、オンラインセッションの経験年数、経験総セッション数が多い人間としての意見として改めて考えるきっかけとしていただけたら幸いだ。

【オンラインならではの要素】
①チャットを通して頭の中が見えやすい
②受講者の表情が見える(対面では、わかりづらいところがある)
③どこからでも参加可能

【対面ならではの要素】
④ハイタッチや、集団としての「熱気」の共有からの一体感の醸成

【オンラインでも対面でも変わりない(同レベルを担保すべき)要素】
⑤講師の熱気
⑥対話の「深さ」(オンラインではブレイクアウトの活用により)

ひとつひとつ見ていこう。

 ①は、対面でもツールを活用してやれば不可能ではないが、基本的にはオンラインならではのスペシャルツールだ。これを見ると、本流の授業を展開しながら、質問や様々な発言がどんどん出てきて、受講者の状況(頭の中)がクリアになる。挙手しなくても発言できるので、受講者にとってハードルも低い。

 ②は、講師にとっても受講者にとっても、皆がフラットに並んでいるので、表情が確認しやすい。ポジティブに参加している人が多いなら、その表情が伝わる。これは対面では、講師はわかるが、受講生同士では、今一つわかりづらいだろう。

 ③は、講師にとっても受講者にとっても、世界のどこからでも参加可能ということ。例えば私がやっているZアカデミアでは、各社オフィスがバラバラの場所にあるので、オンラインにすることによって参加のハードルが大きく変わった。そしてグロービスでも、オンライン授業は海外から参加する人もいる。また、武蔵野EMCで客員教員になっていただく尾原和啓さんはシンガポール在住で、シンガポールから授業を行う予定だ。場所の自由が広がるのは大きい。

 ④ただ一方で、対面のよさは当然ある。これは、様々な人と話して、イベントの時は圧倒的にリアルの方がよいね、という結論になった。「授業」はオンラインでもオーケーで、「イベント」になるとやはり対面の方がよいね、となるのは、

 なぜかといえば、結局、「参加者の熱気」が、対面だと伝播しやすくなり、オンラインだと伝わりにくい、ということだろうと思う。

 あるアーティストのオンライン配信ライブをテレビで見ていて気がついた。そのアーティストから受ける印象は、リアルでもオンラインでも変わらない。まあ、「そこにいて、時間と空間を共有している興奮」はある一方で、オンライン配信ならよく見えるし、時間を共有している感覚はあった。で、まあ、リアルもオンラインもありだなぁと思った。

 しかし、参加者同士の熱気は、オンライン配信だと伝わらない。だから、教育の場などでも、ハイタッチしながら参加者の熱気が伝わることにより一体感を醸成するような機会は、圧倒的に対面の方がよいということだ。

 逆に言えば、それ以外で「対面である方がよい」と思われがちなことも、実はオンラインでもいいではないか、と思うところがある。例えば講師の熱気は、対面の方が伝わりやすいと言われることが多い。これは、単純に講師の力量不足ではないか。自分がやってみて、そう感じる。オンラインのクラスでも対面のクラスでも、私から学びとる「熱」は同レベルであると感じている。

 そして、受講生同士の対話の深さ。これも対面の方が深くなるのではないか、という「誤解」があるが、私自身の経験でいえば、自分と向き合い、人生についてグループで対話するようなクラスをグロービスで展開してきたが、オンラインでも対話の深さは全く変わらなかった。むしろ、その場の空気に左右されずに対話できる分、オンラインの方が深くなるかも、と思ったくらいだ。

 以上考えると、通常はオンラインで、時空を共にすることで一体感を醸成するセッションのみ対面にすればよい、という感じも出てくる。もちろん学校は、授業を受ける場のみならず、友達や他の人たちとの触れ合い、も大事なので(これもある意味、一体感の醸成、に近いのかもしれない)、対面も相応のウェイトをとるべきであろうが。

 で、あともうひとつ大事なのが、この記事で述べられている「ミネルバ大学」から学ぶことができる。

 それは、リアルでの「体験」だ。ミネルバ大学は、全寮制で、授業自体は全てオンライン。そして世界中を旅しながら、つまりリアルのフィールド体験をしながら学んでいく。様々なフィールドでのリアルな体験を学べること。これは大事だ。

 こうなってくると、これまで展開されていた大学教育とは全く異なる学びの機会が生まれることになる。対面授業にこだわらずにオンライン授業を行うことで、空間の制約から解き放たれて、様々なフィールドに行きリアルの体験を得る。ミネルバ大学は本当に斬新な学びの場だ。

 対面とオンライン。体験と授業での学び。この組み合わせに工夫をこらすことで、学びの場をよりよいものに、自由にデザインしていくことができるようになったということだ。

 私たち武蔵野EMCは、1年目は全寮制でともに学ぶ。そしてそこに私自身も一緒に住み、教員たちが泊まりに来りする。そういう場で、オンライン授業と対面授業を組み合わせながら、どんな学びをデザインしていくか。

 いつか読者の皆さんに、こうした新しい学びの場が実現した!と報告できるように、チャレンジしていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?