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【未経験からプログラマ】上昇するキャリアチェンジ難易度とその背景

先立ってXにて「無報酬でも経験を積みたい人達」を募集するSES社長が話題でした。下請法的な観点でも問題ですし、契約書の有無も気になります。当人が途中で連絡が取れなくなった場合には責任はどこにあるのかも気になります。無報酬のものが実績になるのか?という疑問も話題になっていました。

この投稿に対し、4名程度のアカウントから応募があったことが確認されました。

  • 未経験とだけ書いてあるアカウント

  • プログラミングを始めて3年経過しているものの、まだ未経験を謳っているアカウント

  • 現在SESでVBAの案件などに入っているアカウント

  • 現在別のライブラリを触っているSESアカウント

引用リポストでも他の方が言及されていましたが、第二新卒などで他職種からプログラマに転職する際の厳しさが伺えます。

フィリピンやベトナムでもそうですが、多くの諸外国ではプログラマは専門職であるために情報系大学などを卒業して就業することが主流です。その点、他の学部や未経験からプログラマに転職できる日本は寛容であると言えます。しかしこうした事象も変化しています。数多くの「プログラマになろう」というなろう系のコンテンツがある中、その再現性も疑わしくなっています。今回はこうした未経験界隈の事情について整理していきます。

新卒を除き「未経験からプログラマ」のハウツーが役に立たない現状の背景

採用活動をしていると2018年頃のプログラミングスクール全盛期から2022年のエンジニアバブル終盤にかけて他職種からのエンジニア転職をされた方とお会いします。その後入った環境によってスキルやマインドに差は見られますが、未経験からプログラマになれたのは事実です。

問題はこうした体験を後続の人がトレースしようとした場合、著しく難航する現況にあります。現在の未経験者採用を巡る背景についてお話をしていきます。

コロナ禍の金余り現象の終焉

このnoteでも度々触れていることですが、2021年を頂点にプログラマ採用が激化していました。

コンサル、スタートアップなどは特に正社員採用人数を追っていたため、選考ハードルが非常に低いものでした。現在ではこうした数を集める採用が減少しています。

広義の第二新卒から、狭義の第二新卒への縮小

若手採用を狙う企業が新卒の次に考えるのが第二新卒です。この第二新卒ですが、採用市況によって定義が変化する実に珍妙な特徴があります。

元々の定義は卒業後1-2年程度を指していたのですが、2022年11月までの積極採用下では20代全般(厳しい場合でも27歳程度まで)が第二新卒と定義されていました。しかし現在では再度卒業後1-2年程度に戻っています。一昨年まではハードルが低かった年齢層が、現在ではそうでもないという状況になっています。

経験者のバーターで入社する機会の減少

エンジニアバブルの頃、人材紹介会社と超積極採用企業(コンサル、スタートアップ、SaaS)の間で下記のような駆け引きが見られていました。

人材紹介会社にとって、対象企業に対して「決まるイメージ」「決まりやすいイメージ」があると紹介が活性化する傾向にあります。そのため、人材紹介会社から最初に未経験者を何名か採用し、「決まるイメージ」を持ってもらい、その後に要件の高い経験者層を紹介してもらうというテクニックが広まりました。平たく言えば経験者とのバーターとも言えます。

採用費が追加でかかる上、育成コストも発生します。経済的合理性が低いことから現在では少なくなっています。

お金が動いている企業はSESよりSIerに発注する傾向

未経験者を取り込んでいた会社の一つがSESです。派遣と違いビジネスとして始めやすいSESやフリーランスエージェントは雨後の筍のように増加しました。

契約や労務的なところが怪しい企業も多いことに加え、中堅であっても未経験者はコールセンターや総務に回されるなどプログラマやエンジニアとは言い難い現場配属の話も見られています。結果としてどの程度プログラマとして生き残れたか謎ではありますが、どこかしらで働けたという実態はありました。

現在、一部のSESについては陰りが見られ、積極採用の話も少なくなってきたように思われます。特にエンジニアバブル下であれば「プログラマが必要なのだけど、よく分からない」というスタートアップが、SESをスキルに見合うとは言い難い高単価で契約していたケースがそれなりに見受けられました。スタートアップの財政面が厳しくなった結果、バリューに見合う具体的なアウトプットをしなければ契約が整理される傾向にあります。

スタートアップの元気がなくなってきた現在、期待されたのが現在も好調な日系大手企業のスタートアップ事業や、合弁ベンチャーです。しかし彼らは基本的にSIerや受託開発会社に発注するため、SESが選ばれることは少ないです。こうしたことから多くのSES企業では先詰まり感があり、未経験採用についても鈍化していると考えています。

未経験者に渡せるように噛み砕いたタスクは生成AIで良い説

既に採用済みの正社員の場合、育成することを躊躇する企業は少ないですが、こと業務委託先だと育成する義理がないために事情は異なります。経験の浅いSESやフリーランスで特に問題になりやすいのが、「タスクを限界までかみ砕かないと振ることができない」というお話です。

プログラミングのステップまでかみ砕いてしまうと、「自分で書いた方が良い」という判断になりますし、生成AIで良いという判断もあるでしょう。生成AIはプログラマの職を奪うのかという議論が時折Xでも見られますが、育成する義理のない未経験業務委託者のポジションは早々に奪われていくと考えています。

未経験者にとってプログラマは既に魅力的な職種ではなくなりつつあるため、志望者も減っていく説

これは向こう私の数年の予測です。元々プログラマは「手に職をつける」から始まり「年収が良い」に遷移し、「いつでもどこでも自由に働けるフリーランスになろう」と変化していったことで求心力を高めていきました。現在は「勉強量に対して楽に稼げるものでもない」という現実が広まりつつあり、志望者も減っていくものと考えられます。コスパ、タイパを優先する風潮が「楽して稼ぎたい」路線の志望者の減少を後押しするのではないでしょうか。

傾向が垣間見えるものの一つがGoogleトレンド「プログラミングスクール」に関するものです。2022年1月を頂点に現在はダウントレンドにあります。

未経験者からのプログラマ参入は厳しくなっていく


経済産業省 平成28年 「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査」(委託先:みずほ情報総研株式会社)

これまでのプログラマ採用については上記のみずほ情報総研のデータを掲げながら「プログラマを集めなければならない」と躍起になった結果でした。今となっては質ではなく量に走ったことで反省点が多い現場をよく見かけます。

候補者としては、情報系学部を卒業するのがベストです。就活生であれば新卒カードを大切にして研修の整った大企業に入社するのが望ましいと考えています。それ以外の方であっても、20代中盤で時間やお金に余裕があれば大学や専門学校への入り直しも有効です。そうでない場合はプログラミングスクールになりますが、就活対策も含めて精度が整い、実績があるところを選んでいく必要があるでしょう。

冒頭にある「無報酬でも良いから実績にしたい」という候補者の声は残念ながら増えていくのではないでしょうか。発生しうるトラブルや募集者の悪意を想定すると、よろしくないですね。

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