テレプレゼンスの可能性
テレプレゼンスについてお話しを伺う機会がありました。それは、遠隔ユーザの顔が表示された顔ディスプレイを代理人が着用することで、社会的な存在感と身体的な存在感の提示を目指したシステムでした。
自分を送り届けたい遠隔地にいる人がその人の代理としてMRデバイスを装着してもらい、自分はスクリーンの前で遠隔地の状況をリアルタイムに見聞きします。遠隔地にいる代理人は、MRデバイス外側のカメラがとらえた目の前の実空間を、眼前のスクリーンを通してみることになります。また、そのスクリーンには、遠隔にいる話者からの指示が重畳され、映し出されます。さらに、音声でも指示が届きます。そのMRデバイスの外側には、スマートタブレットが装着され、その画面に遠隔地の話者の顔が表示されます。つまり、遠隔地の話者の動的なお面をかぶった人間が、リアルタイムの指示にもとづき、行動するという仕組みです。握手して、と指示すれば、その肉体が自分として握手してくれる、というもの。詳細は、ぜひ、下記をご覧ください。
ChameleonMask: 人の存在感を提示する仮面型テレプレゼンスシステム
http://www.wiss.org/WISS2015Proceedings/oral/07.pdf
身体性を伴った遠隔コミュニケーションの実現の可能性として、他者の肉体を活用するという発想がとても面白く、興味深いものでした。テクノロジーのみによって自分をいかにして遠隔地と結びつけるかという試みはたくさんあり、それらもとても面白いのですが、なんというか、憑依のような、どこかどろっとした手触りのようなものを感ずる遠隔システムに、ざわざわと心が揺れ動きました。お面とかぶることで、変身する。文化人類学的な観点からも、子供のヒーロー的観点からも、変身しちゃう感じはわかりやすく、またその変身した人と相対した人の反応もまた、研究として面白い成果をお聞きすることができました。役所の窓口での書類申請の実験や、祖母と孫のコミュニケーションなど。
ク・ナウカという劇団があります。ムーバー(話者)とスピーカー(動者)との連携でひとりの人物を演ずるというスタイルで、どこか文楽・人形浄瑠璃的(太夫と人形遣い)のような、独特の世界を描き出す劇団です。20年ほど前に、泉鏡花の『天守物語』の公演を観たのですが、そのときのことを思い出しました。
この、話し手と動き手を組み合わせる感覚には、実はとても様々なサービスやワークショップの可能性があるのではないかと思いました。心理臨床、企業研修、ワークショップ、演劇、教育、介護、トレーニング、勉強会などなど、様々な介入事業の方々との出会いによって、多様なサービスが生まれる可能性があると思いました。
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