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DXとDXでないもの

こんにちは!グローバルでDXの調査・支援をしている柿崎です!
今回は、私が何度も聞かれる「DXとは?」について、DXとDXでないものを比べて書きます。
DXでないものとして、「DXはIT化ではない」、「DXはシステム導入ではない」といった言葉の定義に関する記事を頻繁に見るようになりました。
私からは、DXの"取り組み"に関する記事を具体例として取り上げて、DXとDXでないものを見分けたいと思います。
取り組みに関する記事は以下の2パターンに分類できます。
- DXとして取り上げられているが本当にDXか疑わしい記事
- DXとして取り上げられていないが本当はDXである記事

実際に記事を見ていきましょう。

DXか疑わしい記事(以下、前者)

塩野義製薬が新薬開発においてIT化で生産性向上を目指す、という記事です。本文中に「デジタル変革を起こす」とあり、DXの取り組みとして取り上げられています。「コンサルを採用したこと=DX」であり、従来からのIT化と特に変わったことはありません(さらにIT化も実現していません)。

「新薬開発にデジタル変革起こす」 
塩野義は今後7年間、会計や人事に関わるITシステムの開発、保守、運用をアクセンチュアに委託する。システムの合理化とコスト削減を見込んでおり、人員や資金の余剰分を新たなIT開発に生かす。

最近の記事は・・・

以下は2021年2月の資生堂の記事です。タイトルに「DX」とあり、本文中に「デジタル事業モデルへの転換・組織構築」とあります。従来のIT化とは異なりDXの記事といえます。ただ、最初の塩野義製薬の記事と同様にDXをまだ実現していません。また、具体的な取り組みがよく分かりません。今後の取材に期待したいと思います。

資生堂は中長期経営戦略の中で「デジタル事業モデルへの転換・組織構築」を掲げており、アクセンチュアはデジタル技術を活用した事業モデルへの変革のほか、グローバルなIT(情報技術)基盤の構築、デジタル人材の育成といった分野で資生堂を支援する。

本当はDXといえる記事(以下、後者)

以下は最初の記事と同じ塩野義製薬です。発達障害の一種である小児の注意欠陥多動性障害(ADHD)を治療するゲームをすでに開発し米国で認可を得た、という記事です。DXという記載はありませんが、従来からの製薬はなくデジタル技術による解決であり、これこそが事業モデルの変換「DX」といえます。

ADHDの子供は集中力や注意力を維持するのが難しい。EndeavorRxは認知機能で重要な役割を果たすとされる脳の前頭前野を活性化するように設計されている。具体的には、キャラクターを動かして障害物を避けながら、画面に現れる特定の標的だけにタッチするなど、同時に2つの課題に取り組んでもらう。臨床試験で、ADHDと診断された8~12歳の小児の注意機能を改善することが示された。

こちらも最近の塩野義製薬の記事です。こちらの記事にも"DX"という記載はありませんが、製薬による解決ではなくデジタル技術によって解決する「DX」といえます。

塩野義製薬は北海道大学と共同で、下水に含まれる新型コロナウイルスの量から自治体や施設の感染状況を把握する手法を開発した(中略)今後はデータを蓄積し、将来は1日の感染者数の把握や数日後の感染者数の予測をすることを目指す。また、スタートアップと協業し、下水の採取からPCR検査による分析まですべてをロボットで自動化し、リアルタイムに感染把握ができるサービスも検討する。

共通点と相違点

前者と後者の共通点として「デジタル技術の活用」が挙げられます。
相違点としては以下が挙げられます。
- ミッション:前者は"社内"の問題解決(生産性向上やコスト削減)、後者は"社会"の問題解決(新規事業・サービスの創造)
- パートナー:前者はコンサル、後者はタートアップ
- DXという記載:前者は有り、後者は無し

まとめ(本当のDXとは?)

DXとはAIやブロックチェーン、5Gといったデジタル技術に注目されがちですが、その活用方法、それ以前に目的が異なります。
後者からは、従来からのIT化とは全く異なる景色が見えてきます。
・これまでは病気になった後に治療するための新薬を開発していたが、デジタル技術を活用した病気の発見・予防、さらにエンターテインメント(ゲーム)を提供する事業にシフトしている。
・ゲームベースのデジタル治療は、製薬企業がテック企業(ゲーム業界)を破壊する可能性がある。「DXはテック企業に対抗するため」と一般的に言われるが、これは「対抗」を超えた「破壊」である。

パートナーについて、コンサルと提携すること自体に問題はありません。生産性向上やコスト削減の多くの経験を持っています。ただ、コンサルフィーが高額であることから、ROI(投資対効果)が求められることは当然のように思われます。事業創造を支援することはできても、リスクが高い革新的な新規事業まで一緒に創造することは難しいでしょう。一方で、デジタル技術で世の中を変えようと意気込むスタートアップと一緒に失敗を恐れずチャレンジすることは必然の取り組みと言えるでしょう。

本当のDXのヒントは、意外かもしれませんが"DX"という記載がない記事にありそうです。ただ、記事はあくまでヒントであり、正解ではありません。前々回、以下のnoteに書きましたが、記事を集めるだけの「事例病」に陥らないように注意してください。「真のDXにはミッション・ビジョンの再考が必要である。これは他社からコピーできず、またコンサルやITベンダーに頼ることができず、自分達で考えるしかない」ということをお忘れなく!


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